↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/60

第五十四話 死神と戦姫

第三試合後のインターバルも終了に近づき、まもなく第四試合が始まろうとしていた。


 ゲルヒルデ戦後のインターバルを終え太陽もだいぶ傾き始めた頃、本日4回目の決闘が始まろうとしていたが、セシルはまだ控室に戻ってきていなかった。


「オーディン様に呼び出されてからもうだいぶ経つ…やはり私も同行するべきだったか…」


「まぁ、十中八九ジンくんのせいやな」


「娘のケツをおもいきり蹴ったんだ。父親としては当然の反応だろうな」


「で、ですよね…すまん、セシル…」



 インターバル開始直後にオーディンのいる特別観覧席に呼ばれたセシル。麻生がしでかした粗相が原因だと皆が心配していたが、実際は別の要件で問い詰められていた。


「セシルよ。これまでの試合……本当にお主が全て出場しておるのか?どうも戦い方に統一性がない。何より…さきほどのゲルヒルデとの決闘では一瞬ではあったが"時"を操ったであろう?未だかつて、時を操る魔法や能力などワシは見たことも聞いたこともない。どうなんだ?」


 いつかはこうなることを覚悟していたが、決め手は麻生の転生者スキルだった。元は1人で戦い抜く覚悟であったものの、仲間たちの好意を無碍にもできず受け入れた結果が招いた疑惑。

 そのまま包み隠さずそう伝えるべきか、もしくは偽装した以上は嘘を貫き通すべきかーー


「オーディン様!申し訳ありません!!僕には早急に神としての力を取り戻さなければならない理由があります」


 そのどちらでもなく、本来の目的をセシルは全て語った。女神エイルの依頼で涙が必要なことも含めて。


「……そうか、地上ではそのようなことが。悪魔の王バエル…原初の神に仕えた天使の成れの果てか。お主の事情は理解した。なにより…結婚が虚偽であったこと……ワシは心から安堵したぞ!!セシルよ、このような状況であるにも関わらずよくぞ打ち明けた!!その度胸に免じて、ワシらを謀ったことは水に流そう。協力もしてやる。だが、もう一度確認しておく。娘たちとは本当に何もないのだな?」


「はい!!みなさんとは昨日、初めてお会いしたばかりで名前もよく覚えていません!!」


「ハッハッハッ!!いやぁ〜愉快愉快!!よくもそんな状態で"娘さんたちを下さい"などと啖呵を切ったものだ!怒りや呆れを通り越して逆にアッパレだぞ、セシルよ」


「いやぁ、それほどでも」


 しかしセシルは心の中で後悔していた。初めからこうして正直に全てを話していれば、面倒な演技をする必要もなく、濡れ衣で"変態ゲス野朗"という烙印を押されることもなかったのにーーと。

 ともあれ、残りの姉妹6人と戦う必要もなくなったことで肩の荷が下りた。このまま主神のオーディンに甘えてヘルメスの石化を解く薬をエイルに作るよう命じてもらえば、マニアックな素材集めをすることすら必要なくなるかもしれない。


「ところでセシルよ。聞こえてくるであろう?今もこうして会場は盛り上がっておる。エイルにはすぐに石化を解く薬を作るよう命じておくから、このまま娘たちとの決闘は続行してくれんか?ああ、そうだ。もうお主1人で戦わずとも良い。仲間の出場も認める。どうだ?」


 ーーああ、そうなるのか…でもまぁ。


「わかりました。実力者との戦いは己が腕を磨くことにもなるので、お受けします」


「そうか!!では、もう間も無く4試合目が始まる。戻ってよいぞ。あ、待て…ゲルヒルデのケツを蹴った奴にはここへ来るよう伝えておいてくれ」


 麻生とはここでお別れかもしれないーーそんなことを思いながらセシルは自分たちの控室に急ぎ戻った。

 控室に入ると、リエリカが待ち侘びていたように次の対戦相手が七女ジークルーネであることを伝えてきた。9姉妹の中でも屈指の実力者ーーセシルは頷きそのまま武舞台に出る通用口へと走って行った。


「あ!ジン!オーディンが呼んでたよ!」


 セシルがオーディンとどういう話をしてきたのか皆はまだ知らないが、ただの人間である麻生ごときがこのアスガルドの主神であるオーディンに呼ばれるということは、おそらくそういうことなのだろう。リエリカをはじめ、仲間の皆が胸元で十字をきって目を閉じ祈りを捧げた。


「いや待て待て!!アーメン…じゃねぇから!!死ぬ前提で祈り捧げるの止そう?な?」


「いや、死ぬっしょ?フツーに」


「フツーに殺すな!」


「今夜は豚ミンチのハンバーグやな」


「ミンチにすな!!こえぇよ!!…って誰が豚だよ!!」


 麻生をイジリ倒して満足したのか、皆はセシルの試合を見るためセコンド席へと移動していった。


「さんざんイジって放置かよ…。てか、オーディンの要件ってなんだよ…マジで死ぬのか俺…」


 1人、皆とは逆の方向に重い足取りで歩き始めた麻生はこの後、尻を通常時の1.5倍腫れ上がらせて内股歩きで帰ってきたという。


 セシルが武舞台に上がると、そこにはすでにジークルーネが長柄に槍と斧を組み合わせた武器、ハルバートを地面に突き立てて待機していた。


「よお。待ってたぜ、ダンナ殿」


 彼女の身長よりも長く、地面に減り込んでいる負荷から見てもかなりの重さがありそうな武器をこの細い女の子が振り回す姿が想像できない。

 セシルはひとまず同等の間合いで対応できる大鎌のみを手にして試合開始の合図を待った。


「さきほどはかなり見苦しい戦いを見せたセシルぅ!!それに対するはぁぁぁ!!アスガルド1のやさぐれ娘ジイィィークルゥーーネェーィ!!本日1番の見せ場になるような戦いを期待したいところですぅ!!それでは第四試合!!開始ぃぃぃっ!!」


 合図とともにジークルーネはハルバートの柄の底を足で払って宙に浮かせ両手で掴むと連続突きによる突進を仕掛けてきた。

 間合いの外から繰り出される突きの応酬にセシルは防御が追いつかず後退しながら回避し、飛び上がって上空から反撃を仕掛けようと大鎌を振り下ろすモーションを取った。しかし、その時ハルバートの斧の下部、鉤爪状になっている部分に大鎌の柄を引っ掛けられ、一気に引き寄せられた。

 攻撃の体勢を崩され空中からジークルーネの間合いに引き摺り下ろされたセシルは、真正面に落ちてきたタイミングで横っ腹に回し蹴りを食らい武舞台の端にまで蹴り飛ばされた。


「ハルバートってあんな使い方も出来るのか…リエリカの言う通り、かなりの実力者だな」


「ああ。ルーネは魔法はからっきしだが、白兵戦における戦闘スキルはヴァルキュリアの中でもピカイチだと思う」


「ピカイチて…」


 その後もハルバートの汎用性を活かしたジークルーネのトリッキーな攻撃に翻弄され続けるセシル。このまま手も足も出ずに敗れるかのように思われたが、セシルはふと笑みをこぼした。


「ん?ダンナ殿、何笑ってんのさ?あーしが強すぎて逆に笑えてきた的な?」


「うん、まあね。僕も長い得物を扱う身として、君の戦い方は勉強になるなぁって。でもようやく動きも見切れてきたし、そろそろ攻勢に出るよ」


「へぇ…言ってくれんじゃねぇか。じゃあ、あーしももう1段階上げていくぜ!」


 セシルは大鎌の柄の先に魔力で練り上げた鎖をくっ付け、鎖鎌のように頭上で大きく振り回し始めた。大鎌だけでも十分な大きさがあり、それを振り回すことで武舞台の8割を占める範囲がセシルのテリトリーとなった。しかし、裏を返せば近距離の間合いに入ればセシルは隙だらけの状態である。同じリーチのある武器を使うジークルーネ対策といったところだろう。


「なる〜。あーしの間合いを占領してしまえば攻撃できねぇってワケか」


 迂闊に前に進めば鎌に切り刻まれる。飛び込んでセシルの近接に入ろうとしても鎖が絡みつき動きを封じられる。遠距離攻撃の手段を持たないジークルーネはタイミングを見計らい、隙が生まれるのを待つしかなかった。

 動きが止まったジークルーネを見て、セシルは両手で振り回していた鎖を右手だけに持ち替え、左手で念じると彼女の頭上に鋭利な氷塊が現れ、大鎌の攻撃範囲内に誘導するよう降り注いだ。しかし、ジークルーネはその場に立ったまま頭上でハルバートを回転させ、氷塊を防ぐ。

 そして、目の前を大鎌が通り過ぎたタイミングでハルバートを鎖の内側に突き立て、鎖を巻き付かせると通り過ぎた大鎌の回転軸の位置が変わったためすぐにジークルーネの方に戻ってきた。それをジャンプして回避すると同時にセシルに向かって一気に駆け出した。セシルもそれに反応して大鎌の鎖を手放し、天叢雲剣を取り出した。

 ジークルーネはハルバートを突き刺してきたため素手による攻撃と思われる。刀のほうがリーチが長く先に攻撃を当てることができるため、セシルはジークルーネが間合いに入る前に刀を薙ぎ払った。

 迫り来る刀身を左手のガントレットで受け、そのまま火花を散らして滑らせながらセシルの間合いに入ると、ジークルーネは渾身の右ストレートをガラ空きになったセシルの顔面に見舞った。視界が揺れ、景色がものすごい速さで流れていく。


「うっわ、いたそ…」


「モロに入ったな…」


 息を呑み見守る観衆にも、セシルの吹き飛び具合からジークルーネのパンチ力が苛烈なものだということは容易に想像がついた。

 更に追い討ちをかけようと迫るジークルーネに、セシルはすぐに起き上がって魔法を展開させ直進する雷撃を彼女目掛けて放つ。


「んな見え見えの攻撃当たっかよ!」


 ジークルーネは雷撃を身を翻して左に避け、そのまま遠心力を乗せた裏拳をセシルに見舞おうとしたが雷撃はブラフだった。ジークルーネが雷撃を避けると同時にセシルも同じ方向に先回りし、裏拳がヒットするよりも先に甲冑の隙間を狙って刀を突いた。刃先はジークルーネの甲冑の隙間を縫って背中側の右肩へと突き刺さった。しかし、咄嗟に筋肉を集約させたのか傷は浅かった。


「チッ!上手く誘導されちまったか…」


「利き腕が本調子じゃなくなったんだ。もう降参してくれない?」


「冗談!お楽しみはここからだっつーの!」


 引き下がらないジークルーネに、セシルは仕方なく一気に畳み掛けようと刀を更に押し込むが、全く微動だにしない。背筋と三角筋が刃を挟み込むように圧迫していて押しても引いても刀が抜けないのだ。刀を放さなければジークルーネの反撃が来るーーその一瞬の迷いを見透かしたようにジークルーネは筋肉を緩めると同時にバク宙でセシルの右腕を脚で挟み込んで、左手の裏拳でセシルの顔面を穿った。その勢いでセシルが倒れ込むと、彼女はセシルの腕を掴んで腕ひしぎ十字固めを決めた。


「あーし、寝技も得意なんだよ。さあ!降参しちまいな!骨が折れんぜ?」


「まぁ、ルーネちゃんったら。寝技だなんてぇ…夜も待たずに気が早いんだからぁ〜」


 セコンド席では姉妹たちがセシルの苦しむ顔を見て心配そうにしているが、ゲルヒルデだけは羨望の眼差しを向けていた。


 右腕の関節がミシミシと軋み激痛が走る。痛みで刀を握っていられない。振り解こうにもジークルーネの力がゴリラ並みなのか全く外れない。

 空いた左手で魔法を彼女の脚へ直にぶつけるしかないが、燃やすか、凍らせるか、痺れさせるか。どれにしてもこの密着状態では自分も魔法のダメージを受ける。技が外れた時にすぐに立て直せるのはーー

 セシルはジークルーネの脚を掴み、火属性の魔法を放った。たちまち彼女の脚部が燃え上がる。


「ぅあっちっ!!テメ!!やりやがったな!」


 脚が燃えているにも関わらず、関節技が外れない。当然密着しているセシルの胸元にも強烈な熱が伝播し、腕の痛みと熱さで気が狂いそうになる。こうなると、もはやただの我慢比べである。

 しかし、燃え上がるジークルーネの脚ーーを覆っていた衣服が燃え落ち、肌が露わになった途端に腕を押さえつける力が弱まった。


 ーーえ?弱く…よし!


 セシルはすぐに腕を振り解きジークルーネから距離をとって大鎌を回収した。前を見ると、ジークルーネは前屈みになりながら恨めしそうにこちらを睨みつけている。


「な、なんかマズかったかな…?」


「テメェ…前の試合もだけど、変態かよ!!」


「えぇーっ!?な、なぜに!?」


 よく見ると脚部の甲冑はそのままだが、その下の衣服が焼け落ちたせいで白く美しい生脚に甲冑を身につけているような状態になっていた。それがよほど恥ずかしいのか、強気だったジークルーネが今は内股でモジモジと脚を隠そうとしている。観衆も何やらそわそわしている風に見える。


「あ、ああ…ごめん。そんなつもりじゃ…」


「っるせぇ!続きやんぞ!!」


 恥じらいながらも、どうやら彼女はまだやるつもりらしい。多少のやりづらさを感じつつもセシルは天叢雲剣を片し大鎌を構えた。しかし、彼女から攻めてくる様子はない。ハルバートはセシルの背後で突き刺さったままだ。


 ーー素手でどうするつもりなんだろう。


 大鎌を回収したことで、リーチの優位性は格段にこちらが上である。考えていても仕方ないーーセシルは攻勢に出た。大鎌を振りかぶって、遠心力をつけて横に薙ぎ払うと、ジークルーネは斜め前にドッジロールで回避した。


 ーーこれはっ!?


 ジークルーネの衣服の燃え具合は割と広範囲だったのか、前転した際に腰部あたりまで肌が露わになっているのが見えた。


「ちょ、ちょっとルーネさん…言いにくいんだけど、お、お尻が…その、丸見えに……」


「……え。きゃあぁぁぁーーっ!!!!」


 こんなにもお手本のような乙女の悲鳴を聞いたのは初めてだ。会場の誰もがそう思った。

 ジークルーネはその場でうずくまり、涙目で顔を膝に埋めた。


「……こうさん…する」


「え?」


「参りました!!っつってんだよ!!」


 清々しいまでの逆ギレ。呆然とするセシルと観衆。そして思い出したかのように進行役が声を上げた。


「しょ、勝者ぁーーーっ!!セシルぅぅぅ!!ありがとう!!我らがヒーローぅ!!」


 進行役の私情を挟んだ最後の謝辞に苦笑いしつつ、セシルは強敵ジークルーネを下した。

 うずくまる妹の姿を見かねたブリュンヒルデはすぐに武舞台に上がり外套を掛け立ち上がらせた。肩を抱かれ共に武舞台を降りていくジークルーネであったが、こちらを振り返って叫んだ。


「あーしは負けてねぇからな!!着替えたら再戦だ!!セシル!!」


「えぇ…」


「バカ者。この試合はお前の負けだ。再戦はまたどこか別の機会にしろ」


 無茶な要求に釘を刺し、長女に引っ張られるように2人は通用口の奥へと消えていった。


「ま、本物のセッシーもたいがいの変態やった…っちゅーことやな!」


「ああ。ありがとう…セシル。俺の汚名を泥ですすいでくれて…」


「すすげてないだろ、それ…泥は塗るもんだ…」


「セシルさん…」


「セシるんってば見た目によらず強引じゃあ〜ん。でもそんなところも…ス・キ❤︎」


 またしても多くの女性観衆たちを敵に回すことになったセシルであったが、麻生の時と違ったのは男性観衆のほとんどはセシルに感謝と応援するような歓声が上がったことだった。

 ともあれ9姉妹最強の二柱の一角、ジークルーネを破りセシルたちの戦いはいよいよ折り返し地点に差し掛かろうとしていた。


 控室に戻って休んでいたセシルたちであったが、夜の帳が下り始めた頃、進行役のアナウンスにより本日の試合はここまでで、次戦は明朝からという発表があった。

 一行は闘技場を出てヴァルハラ宮殿に戻ることにした。帰路の途中、セシルはオーディンに呼び出されていた時の話を皆に伝えた。

 オーディンからエイルに石化解除の薬をすぐに生成するよう指示が出されたことで、エイルのマニアックな素材集めはここで打ち切りになったということ。その代わりに姉妹たちとの試合は続行しなければならないが、仲間の参加はセシルに変身せずとも可能になったということを。


「なるほど。だとすれば、アソージン君の改造計画は頓挫したということになるのか…」


「あ、ほんとだ!やった!!改造回避マジ感謝!!」


「えぇ〜おもんな。改造されてバッタみたいになったらおもろかったのに」


「バッタ?あの虫のか?どんな改造を想像してるんだ、お前は…」


「ほんとだよ〜虫とかキモいし〜。やっぱ改造するならミノタウロスみたいなのがかっくい〜じゃん!アソージンの頭を牛の頭に交換するの。おもろくない?」


「おもろくねーわ!!もはや俺じゃなくなってんだろ、それ!」


 相変わらずまとまりのない一行は宮殿に戻ると思い思いに夜を過ごすのであった。

ヤンキーキャラが実はとっても恥ずかしがり屋さんだったというお話。

麻生くんはオープンスケベで、セシルくんはラッキースケベだったというお話。


そろそろ姉妹との決闘も飽きてきましたよね。←え。

私は飽きてきました。←おい。

事態が急変する急展開が欲しいですよね。

次回はそんな感じでお送りします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。