第五十三話 麻生、豚になる
エルフのグレイスと悪魔のルナを加えたセシルたち。
麻生が第三試合のゲルヒルデ戦に臨むがーー
「さぁてぇ!!太陽も徐々に傾いてきた昼下がりぃぃ!!次の対戦カードはこちらぁぁ!!9姉妹の次女にしてぇ〜最もサディィィィスティックなお方ぁぁぁ!!ゲルヒルデさまの登場だぁぁぁぁぁっ!!」
ーーえ、今なんて…さ、さでぃ…え?
「ウフフ、ヤダぁ…サディスティックだなんて〜進行役のアナタぁ?あとでぇ…オ・シ・オ・キしちゃうわよ〜」
「ひぃっ!?し、失礼しました…それでは試合開始してください…」
これまでウザすぎるテンションだった進行役が実に慎ましく開始を告げた。
麻生は腰を落とし武道の構えをとった。対戦相手を決める際にゲルヒルデと対戦したいと挙手した時のだらしない顔つきとは違い、表情は真剣そのものである。
それに対してゲルヒルデは大きく開いた襟元から覗く胸の谷間に手を突っ込んだ。途端に麻生の顔が崩れる。そして、取り出したのは短鞭ーー競走馬などに使われる先端が平たい形状をした約80センチ弱の鞭だった。
「あの、リエリカさん…あれがあの方の武器なのですか?」
セコンド席では、穢れを知らない無垢なエルフが素朴な疑問をリエリカにぶつけていた。リエリカはやや戸惑いつつ、ベリーサやイザナミの方を見たが2人ともわざとらしく目を逸らした。
「あ、いや、えっと…あれは……何というか、嗜好品の一種というかその…そう!相手を屈服させる武器!…です」
ーーいや、間違うてはないけども…武器ではないやん。
短鞭を取り出したゲルヒルデはニッコリと嗜虐心たっぷりの笑みを浮かべゆっくりと近寄ってきた。9姉妹の中でも1、2を争うグラマラスな体型のゲルヒルデに見惚れつつも手にしている短鞭が言い表せない恐怖を駆り立てる。
ーーヤベェ…あの胸…すげぇ……いや、違う違う!胸じゃない!鞭だ。どういう武器だよ…リーチは短いから俺の攻撃を当てられる距離まで接近してもたぶん問題ねぇだろ。で、でも、俺の攻撃…素手だしなぁ…胸とかに当たっちゃってもそれはもう不可抗力っていうか、事故だよなぁ…う、うん、試合だから許されるな!よし!!
事故ということで自己解決した麻生はニヤけそうになるのを必死に堪えながら拳を腰に据え駆け出した。射程圏内に入ると麻生は足を叩きつけるように地面を力強く踏み込み、夢と希望ーーいや、性欲を込めた右ストレートを放った。拳が向かう先はもちろんゲルヒルデの豊かな胸元である。
しかし、拳が届くよりも先に刺すような激痛が拳に走った。
「セシルちゃんのあわてぼさん。ダメよぉ…私だって乙女なんだから、お触りは初めての夜じゃないと〜」
短鞭で打ち付けられた拳は赤く腫れ上がっており、"お預け"レベルの度を超していた。ゲルヒルデは妖しく微笑みだまま、麻生の腫れ上がった拳を両手で優しく包み込んだーーと思った刹那、斜め下、腰よりも下に腕を引き込みながら足を掛けてバランスを崩させ膝を付かせると、麻生は四つん這いの状態になった。
「セシルちゃんは少しお行儀が悪いようだから、私がちゃんとみんなのステキな旦那様になれるように調教してあげるわね〜」
四つん這いの麻生の背中に足を乗せ踏み付けると、短鞭で尻を思いきり引っ叩いた。
ーーちょ!?ウソだろ!?これ、いや待て!!ケツがもげる!!いっってえぇっ!!
激痛なのかそれを超えた先にある快感なのかーーもはや思考がバグり始めた麻生の中では、異世界に転生しただけでは飽き足らず、その歳で開けてはいけない新世界の扉をもゆっくりと開けようとしていた。
大衆の面前で屈辱的な扱いを受けているはずが、振り返るとちょうど視線の位置からゲルヒルデのつま先から膝上まである甲冑とスカートまでの間で露わになっている生足、つまり絶対領域が目に入るのだ。その御御足で踏み付けにされているせいなのか、彼は鼻息を荒げ興奮が止められない様子であった。
試合の様子を見ていたリエリカは慌ててグレイスの肩を掴み、武舞台に背を向き直させた。
「グ、グレイス。喉が渇いたな!露店に飲み物を買いに行こう!私がご馳走する!どれでも好きなのを選んでいいからな!さぁ、行こう!」
「え、今試合中なのにですか?は、はあ…わかりました」
ーーリエリカ…お前、大根役者すぎるだろ…
武舞台の惨状とは別に、両者のセコンド席でもカオスな状況になっていた。
セシル側では見苦しい仲間の姿にベリーサは頭を抱え、イザナミは腹を抱えて笑い転げている。
「ア、アカン…お腹よじれるぅ〜!!ギャハハハッ!!おケツしばかれて喜んでるとか!!ジンくん変態すぎやろ!!」
9姉妹側では姉の痴態に耐えられなくなった四女のヴァルトラウテが手で顔を覆い、八女のグリムゲルデが笑い転げて、すでに敗れた六女のヘルムヴィーゲは失望のあまり暴言を吐いている。
「アハハハッ!!ゲル姉、最高だわ!うちらのダンナ、ドMとか!!ヤバすぎ!!」
「セシルさん…見損ないましたよ。このド変態がっ!!死ねっっ!!」
踏み付けにされるばかりか、周囲からの暴言とドン引きの目にさすがの麻生も耐え切れなくなったのか、力任せにゲルヒルデの足を払い除け立ち上がった。
「みんな好き勝手言いやがって!!俺だって好きで甚振られてたんじゃねぇんだよ!!」
いきりたって殴りかかる麻生にゲルヒルデは闘牛士のように麻生の突進を交わし、膝裏に短鞭を叩き込み再び跪かせた。すかさず麻生の背中に跨り尻を何度も叩き始めると調教を始めた。
「悪い子はお仕置きしなきゃね。このヤラシイ豚が!!私の身体を好きにしたいならブヒブヒ鳴いてみせなさい!!」
「ブ、ブヒイィィィッ!!…って何てこと言わせんだ!!」
麻生は何かおかしいと気付き始めた。そもそも自分はドMではないはずなのに、訳のわからない興奮に襲われたこと。そして、頭では抗おうとしているはずが、口がひとりでに変なことを口走ってしまったこと。
ーー何かカラクリがあるはずだ…やっぱあの鞭か?クソ…かかされた恥、万倍にして返してやるからな!!
「ひさびさのぉぉ!!ザ・ワールド・タイムレス!!」
麻生のスキル発動と同時に神々も例外なく全ての時が止まる。その間にゲルヒルデの背後に回り込み、時が動き出した瞬間、強烈なミドルキックをゲルヒルデの大きな尻に叩きつけた。
「いったぁーい!!なになに!?どういうこと!?え、私が蹴られたの?!」
戸惑うゲルヒルデに対して、報復を成功させた麻生は腰に手を当て勝ち誇ったように高笑いをしている。
「おい、あいつ…ゲルヒルデ様の尻を蹴ったぞ…」
「結婚しようって相手に対してあれは無いわね…」
「ゲスかよ…」
観衆の反応は完全に総スカンのご様子。そして、沸き起こるブーイングの嵐と投げ込まれるゴミの数々が麻生を襲う。
「ちょ、なんだよ!!俺なんてさっき豚扱いされたんだぞ!!これくらいいいじゃねぇか!!」
麻生の反論も虚しく、鳴り止まない"ゲス野朗"コール。助けを求めるようにセコンド席を見ると、グレイスとリエリカは不在で残っていたベリーサとイザナミも麻生と目を合わせようとはしなかった。
「はぁぁ…まさか逆にこんな辱めを受けるなんて……責められるのも悪くない…いえ、むしろイイッ!セシルちゃん、好きいぃぃぃーっ!!」
ーーこの人、想像の数十倍やべぇよ…対戦相手の選択ミスったぁ……思春期のバカヤロウ!!
己の若き衝動に駆られた後悔に打ちひしがれる麻生であったが、彼よりも先に新世界の扉を開いてしまったゲルヒルデは目をハートにしたまま高揚感のあまり満足げに気絶して倒れ込んだ。
「えっと…我々は一体何を見せられていたのでしょうか…いやマジでなんだこれ。クソッ!!勝者、ゲスや…コホン。セシルぅ!」
豚にまで堕ちた麻生ではあったが、逆襲のタイキック一撃で不名誉な称号とともに勝利を掴んだ。しかしその代償は大きく、多くの何かを失ったような気がする麻生であった。
武舞台を降りてイザナミとベリーサの元へ合流すると、無言で肩に手をかけられ2人は静かに頷いた。
「いや、何が"うんうん"だよ!?それよりよ…ルナって悪魔、あいつ試合開始の時からずっと姿が見えねぇけどどうしたんだ?」
「えっ!?ホンマや!?あのメス豚!!セッシーのとこか!!」
「豚って言うのはやめろぅ!」
豚という言葉に少なからずトラウマを抱えた麻生であった。
ルナの不在に気付いたイザナミは麻生とベリーサを残して控室へと走り去ってしまった。
「まぁそのなんだ…おつかれ」
「ベリーサ!労うならせめて目を合わせてくれ…」
イザナミの後を追いかけ残っていた麻生とベリーサも控室に戻ると、イザナミは案の定、試合中ずっとセシルと共にいたルナと揉めていた。
そこに飲み物を買って戻ってきたリエリカとグレイスも戻り、麻生の勝利を皆が喜びーーはしなかった。
「ジン…ひどいよ」
「す、すまん…」
仲間内で麻生がどれだけ変態扱いされようとも、世間的な実害を被ったのはセシルであった。
そしてその最大の実害、オーディンの怒りが最高潮に達したことをセシルたちはまだ知らない。
私はたぶんノーマルなので、こういう世界観はよくわからないまま想像だけで書き進めましたが、だいたいこんな感じで合ってますよね?←誰に聞いている
麻生くんのツッコミを見ていると、だんだん銀魂のシンパチみたいな役どころになってきた気がしてなりません。
となると、イザナミが神楽ちゃん?
今回は内容が内容なので、不快になられた方はごめんなさい。
次は真面目なお話です。




