第五十一話 猟奇的なロリ
初戦は六女ヘルムヴィーゲに辛くも勝利したセシル。
インターバルを挟み、次戦に出場するオーディン娘はーー
オーディンの指示でテュールがノルンの3人に用意させた、世界樹ユグドラシルの真下にあるウルズの泉の水。この水には高い癒しの効果があり、試合を終えたセシルの元に届けられた。
「あ、あの…セシル様、試合見ておりました。カッコよかった…です!これ、泉の水です!回復効果があるので飲んでください!」
「ありがとうございます、ウルズ様」
満面の笑みで水を受け取るセシルに、ウルズは相変わらずクネクネしている。
「出たで…ホストの営業スマイルが…」
「魔性の笑みか。魔人の私よりある意味、魔人だな…」
ーーだから聞こえてるってば…
「それにしても危なかったよな。初戦でアレとか、この後が思いやられるぜ…次どうする、セシル?」
「うーん…回復はしたけど、魔力はまだ全快には至ってないかな。リエリカ、次の対戦相手は誰かな?」
対戦表を確認し、次の相手が末妹のロスヴァイセであることが判明するとリエリカは少し渋い表情をした。
「次は……ロスヴァイセだ」
「あのロリっ子か!ウチいこか?あんなんちょちょいのちょーいで捻り潰したるで!」
「いや、イザナミ…ロスヴァイセはヘルムヴィーゲとはまた違った意味でかなり厄介な相手だ。彼女自身はたいして強くないが、テンプテーションという敵を魅了し意のままに操る術を使う」
「え、なにそれ…コワイ…」
「へぇ。面白そうだな。ならば私が出よう…精神操作系は魔属性だろ。魔属性には耐性がある…なにせ私は悪魔に取り込まれるより取り込んだ女だからな」
ベリーサの言う通り、悪魔に取り込まれなかったという前例がある以上、ロスヴァイセの相手には最も適任かもしれない。
「わかった。じゃあ、次の試合はベリーサに任せるよ」
ベリーサがロスヴァイセ、麻生がゲルヒルデ、イザナミがグリムゲルデを相手することまで決まり、ブリュンヒルデとジークルーネはセシルで確定している。残るはヴァルトラウテ、シュヴェルトライテ、オルトリンデのどれかをリエリカが相手をする予定となる。
「なかなかの長丁場だね…今日1日で終わるのかな」
「どうだろう…合間のインターバルがどれくらい与えられるかにもよるけど、夜まで続くかもしれないな」
そして、30分が過ぎた。進行役のアナウンスが流れる。ベリーサはエイルに渡された蛍光塗料のような色をした変身薬を目を閉じ、セシルを思い浮かべながら飲み干した。
「うぐっ…マズ。靴下を煮込んだ煮汁のような臭いがする…最悪だ。……特に何も感じないが、どうだ?セシルになったか?」
ベリーサの姿に変化はない。皆が首を横に振っている。
「え、ここに来て予定が崩れるとかシャレにならな…うっ!?」
ベリーサに身体が突然光り出し、なんと本当にセシルの姿に変化した。
「おお!?すげぇ…マジでセシルじゃねぇか…声はどうなんだよ?」
「あー、あー、どうだ?」
「うん。めっちゃセッシー」
どうやらエイルの薬は味はともかく、効力は本物のようだった。
「じゃあ、行ってくる。セシルはバレないようにどこかに隠れてるんだぞ」
ベリーサは走り通用口を出ていった。
「さてさてぇ!!お待たせ致しましたぁっっ!!次の試合はぁぁ!!お前ら喜べ!!我らがアイドル!!ロスヴァイセちゃんとぉ〜〜〜またまたセシルぅぅぅ!!」
観覧席から響く男たちからのロスヴァイセコール。アイドルと呼称されるだけあって、どうやらコアな男性ファンが多いらしい。それに応えてロスヴァイセは観覧席に手を振っている。
「みんな〜ありがとお〜♪ヴァイセぇ、がんばるねぇ〜」
「ブリブリだな。これが素ならたいしたもんだ」
「えぇ〜?セシルちゃん何か言ったぁ?」
「あ、いや、何も…」
ーーあまり喋るとバレそうだな…
アナウンスで試合開始の合図が出されると、先制すべくベリーサは両手に炎の玉を作り出した。
「あれぇ?おっきな鎌は使わないのぉ?」
ロスヴァイセの挑発を無視して両手の炎の玉を同時に投げつける。炎の玉はそれぞれ両側からロスヴァイセを挟み込むように迫ってくるが、一歩も動かず避けようとする素振りすらない。
「元気な子たち〜♪えいっ!」
ロスヴァイセが指先で空中に弧を描くとそこからキラキラとした星屑のような光の粉が降り始めた。炎の玉はその粉を浴びても尚、迫り来ていたが徐々に速度を落とし彼女の手前でゆっくりと停止した。
ーーなに?あの光の粉の影響か…何が起きた…?
「いい子いい子ぉ♪君はボンちゃんでぇ、そっちの君はグレちゃん♪敵はぁ〜ヴァイセじゃなくてぇ、あそこにいるセシルちゃんだよ♪さぁ、いってらっしゃ〜い」
炎の玉に名前を付けて話しかけている。その異様な光景にベリーサは意味がわからず、ただ警戒しながら見ているだけであったが、炎の玉はロスヴァイセに見送られると今度はベリーサに向かって飛んできた。
「はぁっ!?どうなっているんだ!?」
警戒していたとはいえ、ベリーサが放った時とは明らかに異なる不規則な軌道で飛んできた炎の玉改め、ボンちゃんとグレちゃんは回避行動を取ったベリーサに追従してそのまま直撃し爆発した。
セコンド席でその様子を見ていたリエリカはある事に気が付いた。
「ま、まさか…テンプテーションは生物のみならず物体にも作用するのか……」
「ブッブー!リエちん、ふせいかーい!」
「あの場所からリエ&リカの独り言みたいな呟きが聞こえてるて、どんだけ地獄耳やねん…て、これも聞かれてるんか」
ロスヴァイセはその場で足をジタバタさせて頬を膨らませている。どうやらイザナミの陰口も聞こえていたようだ。
「ヴァイセ地獄耳じゃないもん!ウサギさんの耳と似てるだけだもん!」
そうこうしている内にベリーサに直撃し巻き上がった爆煙が次第に晴れて中から無傷のセシルの姿が現れた。
「まったく…珍妙な技だ。だが、わた…僕に炎は効かない。だから、僕の技を弾き返しても意味はないぞ」
「むう〜!いいもん!じゃあ、ヴァイセの技でやっつけたげる♪」
ロスヴァイセは履いているニーハイソックスの中から先端が三角に面取られた山稜針のような形状の長さ10cmほど、直径3cmほどの注射針のような筒状の針を大量に取り出し地面にばら撒いた。
「どこになんつー危険なモン隠し持ってんだよ、あのロリっ子は…」
見た目にそぐわない凶器を取り出したロスヴァイセであったが、場内はさらに熱狂に包まれた。どうやら彼女のファンはこの針を使った攻撃を知っているらしい。
「じゃ〜あ、いくね?早めに降参した方がいいよぉ〜死んじゃうから♪ライフ・イズ・トゥインクルぅ〜⭐︎」
先ほど炎の玉が浴びたものと同じ光の粉を針に振りかけた。すると、針がひとりでに空中に浮き先端をベリーサに向けて整列した。
「そうか!あれは物体に意思を持たせて操る術なんだ!!ベ…セシル君!!その針は意思を持っている!直線的には動かないから気をつけるんだ!!」
「いっけぇ〜♪」
ロスヴァイセの号令とともに針は一気にベリーサへと向かって飛び立った。弧を描いて放物線状に上空から針の雨が降りかかる。
「なるほど。可愛い見た目して悪趣味な技だこと…」
針が間近に迫ったところでベリーサは掌に炎を纏わせて自身の頭上を覆うように振り払った。業火の幕がベリーサの頭上を覆い隠し、迫り来る針は炎に呑まれ融解した。
「鉄は炎で溶けるって知らなかった?」
「ウフフ♪それはどうかなぁ?」
炎に呑まれ溶けて消えたと思われた針であったが4本、幕を突き抜けベリーサの両肩、両腿に突き刺さった。そして、刺さった針の穴からベリーサの血が勢いよく噴き出し始めた。
「ぐっ!?なんだと…」
「鉄製の針にぃ〜火に強いタングステン製の針も混ぜておいたのぉ〜エヘヘ!その針は血抜きの針♪早く降参しないと失血死しちゃ〜うよ?」
血が抜けていくのに加え、両手脚の基部に刺さった事による激痛で動きにも制限がかかった。針を抜き取ろうとするが、力が入りにくい上に先端が本体よりも太く頭でっかちな形状をしている為、なかなか抜けない。幼なげな容姿とはかけ離れた恐ろしい技に、麻生たちセコンド席の面々は皆、心配そうな顔で見守っている。
「くっ…面倒この上ないな。ならば…」
このままではジリ貧だと、ベリーサは全身に力を込めて魔力を滾らせた。すると全身を覆い尽くすほどの炎がベリーサを包み、その炎はどんどん激しさを増した。
炎の中でベリーサの身体は溶けた鉄のような赤色に染まっていき、やがて周りの景色が蜃気楼の如く揺らめき始めた。
「すっごぉ〜い!セシルちゃん、そんなこともできるんだぁ…でも、ちょっと…暑すぎてお化粧くずれちゃうぅ〜」
ヘルムヴィーゲの魔剣で場内が熱くなった時よりも更に気温が上昇していき、ベリーサの足元の武舞台までもが溶け始めた。噴き出していた血が止まり、刺さっていた針の形状が歪んでいく。タングステンの融点は約3,400度。ベリーサの身体は今、その温度に達しようとしていた。
余裕ぶっていたロスヴァイセも針が溶け始めたことで少し焦りを感じたのか、胸の前で両手を合わせてハートを形作った。
「これやっちゃうと試合になんないからヤなんだけどなぁ〜でも、やっちゃう♪ごめんね!セシルちゃん、ヴァイセのトリコになぁ〜れ♪テンプテーショーン!」
ロスヴァイセの真骨頂ともいえる相手を魅了し意のままに操る術、テンプテーションがついに放たれた。しかし、何の変化も起きていない。ベリーサは変わらず身体を燃やし続けており、ついに針が液状化して傷口から流れ落ち始めた。
「えっ、あ、あれっ?おかしいなぁ…テンプテーション!えい!えぇっ!?ウソぉー?!」
ロスヴァイセがテンプテーションを何度か試している間に針は完全に融解し、ベリーサは魔力の放出をやめ全身を覆っていた炎を消した。
「はぁはぁ…針はこれで封じたか。今すぐ水風呂にでも浸かりたい気分だ。やれやれ…」
炎の悪魔の力を宿しているベリーサは、もちろんのことながら炎への耐性がかなり強い。それでも針を溶かすため刺さった部位を局所的に超高温にしていた影響か、傷口は黒く焦げ火傷を負っていた。
「さて、今度はこちらの番だ」
「ああ〜んもう!むりぃ〜!ヴァイセ、降参しまぁーす」
「…………へ?」
一気に静まり返った場内。そして観覧席にいる皆の口から一斉に声が漏れた。
「な、何を!!本気なのか!?」
当然、対峙しているベリーサも同じ反応だった。ここから反撃というところでの降参宣言はさすがに誰も予想だにしなかっただろう。
「だってぇ〜ヴァイセ、ケガしたくないもん♪」
9姉妹のセコンド席ではブリュンヒルデが天を仰ぎながら額に手を当て呆れ果てている。セシル側のセコンド席でもイザナミが無表情でロスヴァイセを見ていた。
「なぁ、ジンくん。ちょっとあの小娘叩いてきて」
「なんで俺なんだよ!?」
進行役も戸惑っていたが、どうやらロスヴァイセの決意は固くもはや戦闘継続の意思は見られないため、アナウンスを行なった。
「ええと…ロスヴァイセちゃんの降参宣言により勝者、セシルゥゥゥっ!!」
あっけない幕切れに観衆もどういう声を上げていいのかわからないでいる。そんなことは気にも留めずロスヴァイセはスキップしながら武舞台を降りていってしまった。
「針で刺され血まで抜かれたのに…」
あれだけ魔力と身体を燃やしたベリーサであったが、皮肉にも結末は不完全燃焼なまま幕を閉じたのであった。
いや〜参りました。
中年にロリっ子っぽい口調はハードルが高すぎました。
ロリっ子なのかブリっ子(死語?)なのか途端でよくわからなくなってくるし、そんなことを言わせている(書いている)自分が恥ずかしくなってました。←中年が"だもん♪"は致死
次は、、、誰が出るかな、誰が出るかな、テテテテンテン、テテテテン♪←謎のテンション




