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第五十話 天界一武道会

 オーディンの涙を手に入れるため娘たちとの結婚ドッキリを敢行したセシルたちであったが、結婚を許してもらうには9姉妹全員に勝たなければならなくなってしまったーー


 アスガルドの民が注目する中、まもなくその決闘の火蓋が切られようとしていた。


 一夜が明け、9姉妹との決闘の日の朝。セシルの部屋にはすでに麻生たちが集まっていた。


 リエリカは昨日エイルから変身薬を預かり、セシルになりすまして決闘に参加することが出来る旨をセシルに伝えた。しかし、セシルたち5人に対し相手は9人。リエリカたちが変身できるのは薬の効果時間から考えても一度きり。セシルが残りの5人を1人で相手をしなければならなかった。


「ありがとう、リエリカ。でも、戦い方が違ってたら別人だってバレなくないかな?とりあえず、初戦からズルはしたくないし、まずは僕が出場するよ」


「それは大丈夫だと思う。相手によって臨機応変に立ち振る舞い方を変えたとか何とか言えば誤魔化せるはず。ただ、ブリュンヒルデとジークルーネ。この2人は確実に私よりも実力が上だから、その2人はセシル君に任せたい」


「そう上手くいくかなぁ…うん、わかった」


「はい!はーい!ウチ、1人だけボコりたいヤツいます!グリムゲルデとかいうチャラいやつ!そこはウチが出てもええかな?」


「俺はそうだな…ゲルヒルデさんかな」


「ジン、それ…なんか期待してない?あの人、組んず解れつとか言ってたし…」


「バ、バカ!そんなんじゃねぇよ!実力的に勝てそうな気がしたからってだけで、ラッキースケベとか期待してねぇし!」


 ーーラッキースケベって言ってるじゃん。


 麻生とイザナミが希望する対戦相手以外、リエリカとベリーサはその場の状況で出ることにし、セシルが残りの相手をするということで決定した。




 正午ーーヴァルハラ宮殿より東の闘技場に到着したセシルたちはそのまま出場者の控室に入った。

 すでに闘技場では日頃から行われている腕利きの神兵と魔獣との決闘が繰り広げられており、その歓声は控室にまで轟いていた。

 

「すげぇ盛り上がってんのな。暇を持て余した神々の嗜みってやつか?」


「ここは神兵の訓練や腕試しの場として、出場したがる者も多い。それを娯楽として確立したのはテュール様だ」


「あのヒゲか。紳士っぽい御人やったのに意外とえげつない趣味してんなぁ…」


 そして、決着がついたのか進行役のアナウンスが流れてきた。


「そろそろ出番か…相手方の先鋒はヘルムヴィーゲだ。セシル君、本当に先鋒で大丈夫か?」


「うん。サクッと終わらせてくるよ」


 通用口から舞台のある会場に出ると、そこは天井のない空が見える広大な空間となっており、観覧席は神兵とアスガルドの神々で埋め尽くされていた。選手が出てくる両サイドの通用口に対して垂直に位置する観覧席の場所には壁に仕切られた特別観覧席があり、そこにはオーディンとヒゲを無くしたテュールが酒を片手に見下ろしていた。


「さーて、やって参りましたぁ!!本日のメインイベントぉう!!偉大なるオーディン様のキュートでデーンジャラスな9人の愛娘たちとぉ〜!!なんと!!地上からやって来た元神だったという人間の青年との結婚を賭けた一騎打ちぃぃぃっ!!ちなみにぃ!!エキシビジョンマッチでは降参するか戦闘不能になるまで終わりませぇぇぇん!!つまりぃ!武舞台から落ちても場外負けなどはあーりませぇん!!ヒイィィーーハアァァァッッ!!」


 アナウンスの煽りによって歓声は更に熱気を帯びていく。熱い声援が送られている9姉妹、そして、ヤジや罵倒の声はセシルに飛んできていた。そう、ここは完全にアウェーである。


「ロスヴァイセちゃあぁぁん!!こっち向いてぇ〜!」


「ブリュンヒルデさまぁ〜結婚なんてやめて〜!!」


「くたばりやがれ!!人間がぁ!!」


 9姉妹の人気は男女問わず高いようだ。そして神の国とは思えないセシルへの暴言の数々。


「想像はしてたけどよ…圧がすげぇな…」


「ふん、ここのヤツらは皆、俗物だな。完膚なきまでに圧勝して黙らせてやれ、セシル」


 親指を立ててセシルは武舞台に上がると、反対側からはヴァルキュリア共通の青藍のコートと甲冑、長い濃紺の髪をポニーテールにしたクールな眼鏡美女、ヘルムヴィーゲが登壇した。


「セシルさん。皆はどうか知りませんが、私は手を抜くつもりはありません。あなたとの結婚にも興味なんて全くないですし。全力で来ないと怪我だけでは済みませんよ」


「うん、そのつもりだよ」


 ヘルムヴィーゲは腰に掛けた鞘から剣を抜き取り構えた。一見、何の変哲もない剣のように見えるが、リエリカの事前情報によればヘルムヴィーゲは魔剣使いだという。セシルも今の大鎌"メメント・モリ"を主要武器にする以前はヘルメスにもらった魔剣を愛用していたため、その力の強大さは知っている。アスガルドの魔剣がどれほどのものか定かではないが、初戦から油断ならない相手であることは間違いなかった。


「お待んたせしましたぁっ!!結婚を賭けたエキシビジョンマッチ第一戦!!六女ヘルムヴィーゲ…ヴァァアーサァス!!セシルぅぅぅ!!……試合開始ぃぃぃっ!!」


「ワルキューレ第八部隊、ヴァルキュリアのヘルムヴィーゲ。参ります」


 試合開始の合図とともにヘルムヴィーゲの剣が炎を纏い始めた。柄を両手で握り袈裟斬りのように斜めに振り下ろすと、刀身から火炎放射器のような強い勢いの炎が噴き出しセシルに迫ってきた。

 セシルは大鎌の柄の中央あたりを持ち、前方で盾になるよう高速回転させ突風を発生させると、迫り来る炎は風に煽られて上空へと進路を変えた。


「なるほど。その武器はそういう使い方も出来るのですか。煩わしい…ならば、こうです!」


 剣の先端を前に、突きの体勢でヘルムヴィーゲは地面を蹴って飛ぶように突進してきた。回転を止めヘルムヴィーゲが間近に迫ったところで鎌を振り下ろす。鎌はリーチが長い分、セシルの方が先にヒットさせることが出来る。しかし、鎌の刃先を遮るようにヘルムヴィーゲを炎の膜が包んでおり攻撃を弾いた。止まらないヘルムヴィーゲの突きがセシルの胸元の直前にまで迫る。


 ーーくっ、炎は盾にもなるのか。意外と万能だな。


 すかさず天叢雲剣を取り出して突きの軌道を上に弾き返すと、ヘルムヴィーゲは少し驚いた表情を見せて飛び退いた。強敵と目されるブリュンヒルデやジークルーネ戦まで天叢雲剣は出さないつもりでいたが、よもや初戦から出さざるを得ない状況に追い込まれたことに、セシルは少し焦りを感じた。


「そんな武器もお持ちでしたか。リーチの長い大鎌と刀の両刀とはなかなか器用ですね。ここは大技で一気に終わらせましょうか。炎の魔剣レーヴァテインよ!!その力を解き放て!!」


 ヘルムヴィーゲの呼び掛けに応えるように魔剣の刀身は紅く染まり、やがてその熱で鉄が融解すると剣の形をした炎が噴き出していた。本来の刀身である炎を鉄で覆い、普通の剣に見せかけていたのだ。

 魔剣の影響か場内の温度がどんどん上昇していき、観客や麻生たち皆の額から汗が流れ始めた。


「ちょ、あっつ!!何なんだよ、この暑さ…あの剣どんだけの熱だよ」


 まるでサウナにでもいるような熱気に汗が止まらない。誰よりも近くにいるセシルはもはや滝汗なのではないかと皆が注目したが、彼は冷気の魔法で自身を覆って涼しい顔をしていた。


「魔法…ですか。ですが、そんな顔をしていられるのも今のうちだけですよ。この剣はありとあらゆるものを溶かし斬る。まともに受ければ死にます」


「それは怖いね」


 ヘルムヴィーゲの脅しにセシルは臆することなく大鎌を構えた。何か策があるような顔つきだ。


「どうなっても知りませんからね!!いきます。紅蓮華牙斬(ぐれんげきざん)!!」


 ヘルムヴィーゲは魔剣を顔の正面に構えて目を閉じた。すると、セシルの周りーーいや、武舞台全域にリコリスの形を模した炎が次々と咲き始めた。


「む…あれはマズイな…観覧席が炎の海になる」


 ヘルムヴィーゲの大技にオーディンは咄嗟に手をかざして観覧席全体を覆うように結界を張った。

 セコンド席で様子を見守るブリュンヒルデたちは心配そうに"セシル"を見ていた。


「ヴィーゲのやつ、アレ使うってことはガチじゃねーか。あの人間、死ぬんじゃね?」


「ヴァイセはぁ〜ヴィーゲちゃんのあの技スキ!だってお花、綺麗だもの!」


「ロキ叔父さんが作った魔剣というだけあって、技の意地悪さは群を抜いてるからね。美しくも妖しいレーヴァテインとはよく言ったものだよ」


  炎のリコリスが武舞台を埋め尽くすという異様な光景と、これがどういう攻撃なのか全く予想がつかない麻生たちは息を呑んだ。リエリカもこの技は見たことがない様子であったが、観覧席では拍手喝采が起きている。おおよそのアスガルドの者はこの技のことを知っているらしい。

 冷気の魔法で身を守っていたおかげでセシルの足元には花は咲いていないが、完全に包囲はされている。


「ヘルムヴィーゲさんみたいに気高く美しい…そんな技だね」


「なっ!?うつ……ふ、ふん!今更、お世辞など言っても止められないですよ。せいぜい死なないよう必死で逃げ延びてください」


 顔の正面に構えていた魔剣を彼女はあろうことか鞘に収めた。これはもうケリがついたという確信の表れなのだろうか。しかし次の瞬間、花の外側に伸びた針金のような雄しべにあたる部位が次々に本体から飛び出し、セシルに目掛けて飛んでいく。セシルは微動だにしない。針状となったその炎の雄しべが冷気の膜に突き刺さるーーそして貫通した。


 ーーえっ!?


 油断していたせいで回避が後手に回った。貫通した炎の針はセシルの右腕を掠めると、途端に引火し炎が腕を包んだ。ひとまず次々に向かってくる無数の炎の針を回避するのに浮遊魔法で空中に逃げ、冷気の魔法を強めに腕に吹き付けすぐに鎮火した。


「び、びっくりした…殺傷力高いなぁ…」


「安心するのはまだ早いのでは?」


 下を見ると炎の針は進路を変え空中にいるセシルに向かって飛来してきている。


 ーー追尾型!?


 大鎌で防ぎつつ不規則な動きで飛び回り回避し続けているセシルであったが、縦横無尽に迫り来る炎の針の攻撃は、側から見ているだけでも胃が痛くなりそうなほど苛烈だった。


「テュール、ノルンに泉の水の準備を。娘たちが愛した男だ…さすがに死なれては後味が悪い」


「かしこまりました」


 もはや防戦一方のセシルに勝ち目はないかと思われた。そして、ヘルムヴィーゲは静かに呟いた。


「終炎・葬送…」


 雄しべの部分であった追尾してくる炎の針に加え、武舞台に咲き誇っていた炎のリコリスそのものまでもが武舞台を離れ浮かび上がった。


「まさか…それも追尾型……じゃないよね?」


「そのまさかです」


 もはや逃げ場のないくらい空中を埋め尽くす炎の針と花。それが一気にセシルへと向かって放たれた。しかし、セシルはこの時を待っていた。


 ーー雄しべが飛び出ても花が消えなかったのは何かあると思ってたんだ。先走らなくて正解だったよ。


 セシルはありったけの魔力を天叢雲剣の方に込めて、ヘルムヴィーゲに向かってそれを投げ付けた。しかし、ヘルムヴィーゲには軽く交わされ天叢雲剣は彼女の足元の武舞台に突き刺さるのみだった。

 だが、それだけではなかった。セシルを追い回していた炎の針と花はセシルを追うのを止め、急にヘルムヴィーゲの方へと進路を変えた。


「なに!?まさか…」


「うん、そのまさかだね」


 自動追尾はセシルの魔力を感知して行われていた。よって、ヘルムヴィーゲではなく、セシルのほとんどの魔力を付与した天叢雲剣に反応して追尾を始めたのである。ヘルムヴィーゲは魔剣を顔の正面で構えることで炎のリコリスを発現させていた。しかし、このままの体勢でいれば炎のリコリスはヘルムヴィーゲに直撃する。回避すれば直撃は免れるが、放った大技も消える。

 背に腹は変えられないーーヘルムヴィーゲが構えを解いた瞬間、炎のリコリスは消え大鎌の刃先がヘルムヴィーゲの首元を捉えていた。


「はい、チェックメイト」


「くっ……ま、参り…ました…」


 ヘルムヴィーゲは魔剣を手放し両手を上に挙げ降参の意思を示した。


「なあんという大番狂せえぇぇっ!!勝者ぁーーーっ!!セェェシルゥゥ!!」


 あまりに突然の逆転劇に観覧席は静まり返っていたが、進行役のアナウンスで理解がようやく追いついたのか、大歓声が沸き起こった。

 大鎌を首元から外し、武舞台に刺さった天叢雲剣を抜き取るとセシルは笑顔でヘルムヴィーゲに告げた。


「ふう…すごい技だね。色々と勉強になったよ、ありがとう」


「あ……そ、そんな…褒めても…な、何も出ませんから。でも…け、結婚は前向きに…考えてあげる…」


 武舞台を降りてセコンド席の麻生たちの元へ戻るセシルに、耳を紅く染めてヘルムヴィーゲは俯きながら聞こえないように返事した。


「うーわ…ちょ待って。ツンデレやん、あの娘…またウチに新たなライバルがぁ!!」


「1人で何喚いてんだよ、うるせぇな…」


 まずは初戦を勝ち抜いたことを皆で喜びながら通用口を通って控室に戻っていくセシルたち。それを目で追うブリュンヒルデとジークルーネは微かに震えていた。


「まさかここまでとは…ヘルムヴィーゲは私たち姉妹の中でも3番手の実力者。ドッキリなど関係なく、私は彼に興味が湧いた。楽しみにしているぞ、セシル殿」


「フフフ…何だよアイツ。めちゃくちゃ強えじゃねーか!おもしれぇ…」


 1対9という連戦であるが故に、公平を期すため次の試合まで30分のインターバルが設けられることとなった。

やってしまいました。

王道バトル漫画のアレの1文字多いやつです。

武道会ちゃうやん!って思いつつ、でも言いたかったんです!あしからず。


この作品のキャラクターの中で、どうしてもツンデレの女の子を登場させたかったのですが、、、ツンとデレの塩梅がわからない!!←致命的

そして、ツンデレに設定したと思っていたのによくよく考えたらこの娘ツンデレっていうかクーデレ?←同系統だしギリギリセーフ?


そんなこんなで次回、第二試合です〜

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