第四十七話 天界大戦終結
ティターン十二神を率いてオリュンポスに現れたハデス。
テュポンに苦戦するゼウスたちに第三の勢力が介入してきたことで、この戦の結末はさらなる混沌へと導かれようとしていたーー
「天界の空気はやはり、メガリスと違って美味いのう」
「ハデス!!お主、これはどういうことじゃ!!」
ゼウスの動きを封じた黒い瘴気の鎖はハデスが発現させたものだった。
"ゴッドイーター"と呼ばれるこの鎖は本来、冥府に連れてこられた魂の身動きを封じるためのものであるが、古の戦でゼウスに敗れたティターン十二神やガイアをタルタロスへ堕とす際にも使用されるほど絶大な封印能力を有しており、その効力はたとえ最高神であろうとも例外ではなかった。
余談にはなるが、アンドロメダがポセイドンの怒りを買い海の怪物への生贄として岩に縛られた際も、兄であるハデスがこの鎖でアンドロメダを縛りつけたという。
「ゼウスよ。メガリスの空気がどれほど澱んでいて臭いか知っておるか?空は赤黒く毎日のように爆音と共に噴火してマグマが流れ続けておる。小川のせせらぎで小鳥が鳴いておるのとはワケが違う。こんなお山のてっぺんで若い娘を侍らせてオルテシアを見下ろしておるだけのお前は知らんだろうなぁ。戦の後の疲れで適当に"くじ"などで管轄を決めたとはいえ、俺様の管轄がメガリスなど納得がいくはずもなかろう!!ティタノマキアで1番武勲をあげたのだとしても末弟であるお前が最高神だと?そして長兄である俺様が地底暮らし…全部逆だろ!!長兄が天界で最高神、末弟が冥界で死者の獄卒。これが自然な流れだろうが!!」
「フフ…べらべらと。ハデスよ、お主が最高神になれなかったのは、そういう小者的な発想が原因ではないのか?」
「やかましい!!減らず口をたたいていられるのも今のうちだ。今日からオリュンポスは俺様が…」
ハデスの言葉を遮るように、身動きのとれない状態のゼウスが巨大な拳で殴り飛ばされた。
「ごちゃごちゃとうるっせぇんだよ…」
戦の最中に自分を無視して諍いを起こしていたゼウスとハデスに相当腹を立てているのか、ハデスの登場で一時動きを止めていたテュポンが再び暴れ出した。アテナたちがゼウスを守ろうと応戦する中、ハデスはテュポンの足元にいるガイアを見下ろした。
「ちっ、あのババア…面倒な奴を蘇らせよって。クロノス、ガイアにこちら側には攻撃をしてこないよう説得してこい」
「はい…ハデス様…」
虚ろな目をしたクロノスは言われるがままにガイアの元へと降りていった。
「ああ、クロノス!無事だったのかえ…てっきりバエルに敗北したのかと心配しておったのだ」
「ガイア様、我らティターン十二神、ハデス様の軍門に下りました。テュポンの攻撃対象はゼウス率いるオリュンポス軍に絞ってください」
「な、何を言っておるのじゃ…ハデスの軍門じゃと?……まさか、ハデスの奴!我が子らの魂に傀儡術を掛けおったのか!!」
バエルとの戦闘で死亡し冥府に送られたクロノスたちはハデスの術によって使役されていた。それを知ったガイアは激昂し、高みの見物をしているハデスを呼び出した。
「おう、婆様。相変わらずバケモンみたく若いのう。いつになったら老けるんだ?」
「お黙り!クロノスたちを操って何を企んでおるのじゃ!!」
「あんたと同じ目的だよ。ゼウスを殺す。そして、俺様がこのオリュンポスを支配する。地上で好き勝手しておる悪魔王バエルには俺様の隠し玉をぶつける。それで万事解決だ。婆様も俺様の下に付けよ。悪いようにはせん」
「何を戯けたことを…クロノスたちは妾の子じゃ。早う解放せい!ゼウスの後はお前を殺してやろうぞ!」
「交渉決裂…か。クロノス、やれ」
指示が下るとクロノスは何の躊躇もなくガイアの首を手刀で刎ね飛ばした。転がり落ちても尚、ガイアはまだ恨み言を口にしている。そんなガイアを見ることもなく踏み潰したハデスはテュポンを見上げた。
「さて、あとはこのどデカい叔父さまを何とかせねばならぬが…クロノス、何か方法はあるか?」
「我ら十二神でテュポンの魂を封印します。ですが、アテナ達が邪魔してくるでしょう。それを妨害できれば…」
「うむ。では、アテナ達は俺様が引き受ける。お前たちはテュポンを確実に封印しろ」
「はい…ハデス様」
ハデスの指示を受けティターン十二神はテュポンを囲むように飛び立った。両手を広げ魔力を十二神の間で繋いでいき、全員の魔力が繋がるとテュポンの上空に魔法陣が形成された。
それに合わせてハデスは顔全体まで覆う漆黒の兜を被ると、途端に彼の姿はその場から消え去り目視できなくなった。そして、テュポンと戦っていたアテナ達の足元に次々と黒い穴が出現した。
「冥王の名において咎人を断罪する。その身、奈落に堕ちよ……ヘルズ・ディメンション!!」
どこからともなく聞こえた詠唱。その魔法はタルタロスへの片道切符であった。オリュンポスの神々は出現した黒い穴へと引きずり込まれていき、瞬く間に皆が姿を消した。
そして、時を同じくして十二神の封印魔法が発動した。テュポンを包むように光の幕が下りてくると、風呂敷を包むようにテュポンの巨体を覆った。球体状になった光の幕は山ほどある巨体とともにどんどん小さくなっていく。
「クソがっ!!クロノス!テメェ!!何してくれてんだ!!」
球の中で必死にもがくが、球体の縮小は止まることなくやがて掌に収まるほどのサイズにまでなった。そこに掟の女神テミスが取り出した小箱へと球を収め蓋をすると、幾重にも魔力の錠をかけテュポンは完全に封印されてしまった。
先ほどまでの激闘が嘘のようにオリュンポス山は静寂を取り戻した。ハデスは兜を脱ぎ姿を現すとクロノス達を労った。
「よーし、よくやったお前たち。これで残すは我が愚弟の処遇だけだ。隠れても無駄だぞゼウス!出て来い!」
テュポンに殴り飛ばされ激突した瓦礫の中からゼウスが全身に黄金色の光を纏って現れた。
「ハデス…よもやここまで用意周到に事を進めるとは。だが、儂よりも先にテュポンを封印したのは誤りであったな。今から全身全霊をもって貴様たちを成敗する!」
ゼウスは杖を天に掲げ、雷雲を呼び起こした。空全体に稲妻が走り、轟音が響き渡る。
「邪神どもよ、天地を裂く雷に裁かれよ!!ケラウノス!!」
空が閃光を放った瞬間、13本の猛々しい稲妻がハデスと十二神に向かって落雷した。13人は全身を焼かれ色を失い消し炭のように黒く染まった。まさに刹那の出来事であった。焼かれたハデスたちの身体からは煙だけが緩やかに立ち昇っており、絶命したかに思われたがーー
「やはりお前の稲妻は恐ろしいのう。まともに食らっておったら全滅だったろうな」
声の聞こえる方に目を向けると、テュポンによって抉られた山頂の神殿があった場所にハデスとティターン十二神が無傷で並んで立っていた。まるで観劇でもしているようにゼウスに拍手を送るハデス。
しかし、黒く焦げたハデスたちの遺体は変わらず煙を上げている。
「どういうことだ…」
十二神の1人、追憶の女神ムネモシュネが指を鳴らすと、ハデスたちの焦げた遺体は映像にノイズがかかったようにブレて消えた。
「こういうことだ。残念だったな。素直にお前の最強の技を食らうはずがなかろう。幻影だ、マボロシィ〜ってやつだよ」
これまで威厳を保っていたゼウスの目に初めて焦りの色が見え始めた。ケラウノスはゼウスの稲妻の中でも最大最強の技。それ故に連発は出来ず、杖に魔力が蓄積するまでのインターバルが必要となる。その状態のゼウスが1人で13人の同等の力を持つ神を鎮圧することなど、もはや非現実的であった。
「無念…。好きにするがいい」
「ああ、もちろん!!そうさせてもらう!!俺様の新しい技で葬ってやろう。キュクロプスに創らせたお前の稲妻に匹敵する技だ。存分に味わえ!!」
掲げた右手の先に、蒼炎の中に黒い稲光が混ざった蒼黒い炎が渦を巻いて集まってくる。その炎がハデスの右手を包み込むと形状が安定し、それ以上大きくなることはなかった。
「フフ…えらく小さな火種だな。儂の稲妻に匹敵するというのは些か過言のように思うが?」
「シアネウス・インフェルノ!!」
ゼウスに向けられた蒼炎を帯びた右手。そこから放たれたのは爆発的に膨れ上がった巨大な炎の衝撃波だった。それはまるでドラゴンが勢いよく吐き出す超高熱のブレスのように。ゼウスは一瞬で蒼炎に呑まれオリュンポス山の中腹に叩きつけられた。広範囲に亘って炎が山を駆け巡っていく。ゼウスが叩きつけられたであろう場所にはすでにゼウスの形をした煤の跡だけしか残っておらず、灰すらも残さず完全に燃やし尽くされていた。
「ハッハッハッ!!見よ!最高神がただの煤になりおったわ!!無様!無様!!」
ガイア率いるテュポンによるオリュンポス転覆を謀った大戦はアテナ率いるオリュンポスの神々とテュポンが封印され、ガイアとゼウスが惨殺されるという形で幕を閉じた。
その後、テュポンに敗れたポセイドンも含め冥府に送られたゼウスとガイアの魂は、捕えられたアテナたちと共に奈落タルタロスに幽閉された。
ハデスは最高神としてオリュンポス山頂に新たな神殿を築き始めるとともに、逆らうオリュンポスの神々を次々とタルタロスへ幽閉し、ゼウスに恨みを持つティターン神族と巨人族ギガンテスを配下につけて支配体制を固めていった。
そんな事が天界で起きているとも知らないセシルたちは、ヘルメスの石化を解きゼウスに死神の力を戻してもらうべくアスガルドで今もエイルの要請に応えるべく奔走していた。
しばらくセシルくんたちのお話をメインにお休みしていたオリュンポスの戦い、ようやく決着がつきました。
ラフボスはハデスなのか、はたまた今は傷つき姿を眩ませているバエルなのか、、、
どちらも強すぎてセシルくん達では勝てる気がしないのは私だけでしょうか?←作者がそれ言うか




