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第四十二話 冥王造反

主人公パーティの出番がしばらくご無沙汰なので、冒頭はちょっとした一幕をぶっこんでみました。


本編はオリュンポス神殿前のお話です。


 アリューアル砂漠で悪魔アウナス、そしてウルド帝国三魔将の一柱バルバトスとの戦いを経て手に入れた生命水をグレイスに託し、ドワーフのドレイクと国境の関所で別れたセシル、麻生、イザナミ、ベリーサの4人は滅んだと言われる王都の跡地へと向かっていた。


「それにしても、王都が滅ぶとかありえんのかよ…未だに信じられねぇぜ」


「僕もだよ…出来ることなら嘘であってほしい」


「なぁ、ベリさん?日本って国の死後の世界ってどうやったら行けるとか知らん?」


「は?そんなの私が知る訳ないだろ。死にたいのか?あと、その変な呼び方はやめてくれ」


「いや、こっわ!死にたいのか!って、そんな怒らんでもええやん…」


「違う!死後の世界とか言うから、死にたいのかと思って聞いただけだ!」


「あ、そっちね…あはは。めんごめんご」


 相変わらずまとまりのないセシルのパーティは王都跡地へ向かう道中、馬車の中で他愛のない話に花を咲かせていた。

 その時、大きな地響きとともに激しい揺れが一向を襲った。


「な、ななな、なんだ、地震か?!」


 御者が馬車を停車させると何かに気付いたベリーサが外に出た。それに続いてセシルも馬車を降り不穏な気配を感じた方角を見た。


「南の空……やけに暗いね…」


「お前も気付いたか。とんでもない魔力だ…只事じゃない。この揺れもきっとあれが原因だろう」


「ちょ、地震のときは身を低くして頭を守らんとアカンねんて!外でなに2人して黄昏てるん!?」


「ま、まさかお前ら…デキてんのか…?!」


 バカ2人の言葉には耳も貸さず、南の空を見つめながら言い表しようのない胸騒ぎにセシルは方角こそ異なるが、これも何かの前兆なのかと王都滅亡の信憑性がさらに深まったように思うのであった。





 天界であるオリュンポスにもその不穏な気配は届いていた。神殿の前でアテナたちと対峙して間もないというのに、ガイアは真っ青な顔をして冷や汗を流していた。


 ーークロノス…お前たちが敗れるとは。バエルとはそれほどの悪魔なのかえ…。


「な、なんなのだ…この悍ましい気配は…」


 アテナ達にも動揺が走る。


「アテナ…地上の大陸が1つ、まるごと消滅したよ」


 千里眼を通して地上の様子を見ていたデュオニソスが伏目がちに言葉を漏らした。

 地上で起きたあまりに衝撃的な出来事で互いの戦意が失われつつあったが、テュポンだけはストレスを隠す事なく何度も足を踏み鳴らしていた。


「おい、ババア。やるのかやらねぇのかどっちだ!さっさと全部壊してぇんだが?」


「ああ、そうさね…今は息子たちの死を惜しんでいても詮無きことよの。テュポン、やれるかえ?」


「ったりめぇだ!さっきからそう言ってんだろ」


 テュポンが戦闘態勢に入る。しかし、そこで両陣営に呼びかける声が轟いた。


「待つのだ!!今、我々がここで争い合う意味はない!ガイアよ、まずは互いに手を取り合いバエルを討ち取ることこそ優先すべきことではないのか!あの悪魔を放置しておけば、必ず両陣営どちらにとっても脅威となる!!」


 声を上げたのは神殿から現れた最高神ゼウスであった。

 すぐにアテナたちオリュンポスの戦神たちは跪き首を垂れた。ゼウスの言葉にガイアも言い淀んでいる。


「我らが決して相入れないことは百も承知だ。ポセイドンやアレスのことを水に流すつもりはない。いずれ決着をつけようぞ。だが、あの屈強なクロノスたちティターン十二神を1人で討ち倒し、大陸1つを消滅させる強大な力…それを放っておいていい理由にはならぬのではないか!」


「やっかましい!!んなこたぁどうでもいいんだよ!!俺がお前らもバエルも全部壊す!!それで解決だろうが!!」


 ついに我慢の糸が切れたテュポンが怒号を上げ、全身に魔力を滾らせ始めた。地面に亀裂が入り空気が震える。


「よかろう。テュポン…やるのじゃ」


 ガイアの号令とともにテュポンは地面を殴る。亀裂に沿って衝撃が走り抜けると神殿前まで地面が崩落した。アテナたちは飛び上がり、やむを得なく気持ちを切り替えて戦うことを決意すると、まずはペガサスに跨って落下を免れたヘラクレスが戦いを挑んだ。

 迫ってきたヘラクレスにテュポンは飛び上がり拳を放つ。互いの拳がぶつかり合うたびに普通の魔物なら死に至らしめるほどの強い衝撃波が走った。


「愚かな…戦いは避けられぬのか…。アテナよ、全力を以てテュポンとガイアを叩き潰すのだ」


 アテナにその場を託すと、ゼウスは再び神殿の中へと戻っていった。ゼウスの指令を受け、アテナは他の神々にも指示を下した。

 ヘラクレスとテュポンが激しい肉弾戦を繰り広げる中、アポロンとペルセウスが攻撃魔法で援護を行ない、アフロディーテは強化魔法でヘラクレスの身体能力を更に向上させた。


「閃光の業火に灼かれよ!ルクス・ブラスト!!」


「猛き風刃よ舞え!レイジング・テンペスト!!」


「豪傑の加護…セルブレイク・バーニア」


 光弾が飛んでこようと暴風の刃が来ようとテュポンはそれらを避けようともせずヘラクレスと殴り合っている。続いてアルテミスが矢に爆破の魔法を付与して放ち、デュオニソスはゼウス譲りの稲妻をテュポンに落とすが、それでもテュポンの猛攻は止まらない。


「なんなんだ、あいつ…不死身なのか…魔法が全く効いていない」


 全身を強化され力もスピードも爆発的に上がったはずのヘラクレスの拳が唯一、掠り傷を負わせる程度であった。その様子から何かに気付いたアテナは次なる戦略を念話で皆に告げた。


"どうやらあの怪物に魔法攻撃の類は効かないようですね。物理的な攻撃…つまり神器による直接攻撃を皆で一気に仕掛けて、すぐ距離を取る。付かず離れずのヒット&アウェイでまずはテュポンの体力を削ぎましょう。長期戦は覚悟してください"


 アポロンたちはそれぞれの神器を召喚した。神器とはかつての神々の戦を経て、鍛冶神ヘファイストスが神を屠る為の武器として作り上げたもののことをいう。

 アポロンは太陽剣コロナタイト、アフロディーテは薔薇の鞭ロサ・セルペンス、アルテミスは月の弓矢ルナスレイヤ、デュオニソスは雷神槍ギガ・アンタレス、ペルセウスはメドゥーサを討ち取った聖剣アル・グラディウス、ヘラクレスは閃光の小手レグルス・ガントレットを手にしてテュポンに迫った。

 神々の持つ神器はそれ1つで星をも砕くと言われるほどの破壊力を宿しており、その強大な力ゆえ神と英雄にしか扱うことが出来ない。

 そんな力を秘めた武器であっても、テュポンには体力を削ぐ程度のダメージしか与えられないとアテナは踏んでいた。

 皆の動きに合わせてヘラクレスもテュポンへと迫る。次の瞬間、神器を携えた神々と英雄が一斉にテュポンへと襲い掛かった。


「しゃらくせぇ!!」


 テュポンが全身から放った闘気によってアルテミスの矢と神々は吹き飛ばされ攻撃を当てる前に距離を離されてしまった。


「身体があったまってきたぜぇ…まとめて相手してやらぁ!!!」


 テュポンはさらに闘気を放ちヘラクレスに向かって殴りかかってきた。さきほどよりも速く重い攻撃にガードするたび腕の骨が軋み激痛が走る。アポロンたちも再び攻撃を仕掛けてくるが、素早い動きで全ての攻撃に対応してくるため攻撃が全く当たらない。


「なんて奴だ…6対1だぞ…あれがテュポンの魂によって底上げされたアレスの身体能力ということなのか」


 苦戦する神々に対し、テュポンは息ひとつ切らしていない。消耗線ではこちらが不利になると判断したアテナは黄金に輝く勝利の錫杖を天にかざした。

 降り注ぐ黄金色の光に包まれた神々からは疲労の色が消え体力が全快していく。


「すまない、アテナ。それにしてもテュポン…ここまでとは」




 テュポンの底知れぬ実力に戦慄するアテナたちをよそに、神殿の玉座でただひたすら瞑想を続けているゼウスはある事を考えていた。


 ーーハデスは何をしておるのだ…全滅したティターン十二神やポセイドンが冥府に着いている頃だろう。ポセイドンを蘇らせて早く前線に復帰させぬか。十二神をタルタロスに再幽閉するのに手間取っておるのか…?連絡が取れんのが気にかかる…




 正攻法ではもはや勝ち目がないと判断したアテナはヘラクレスとペルセウスに指示を出した。

 指示を受けた2人はテュポンに向かっていき飛びかかると、腕を掴んで羽交締めにした。


「デュオニソス!今です!」


「ああ、任せておけ!」


 デュオニソスは棒術の演武の如く器用に長槍を回転させながら振り回して構えるとテュポンに向かって全力で槍を投げつけた。

 2人の英雄に羽交締めにされ身動きが取れないテュポンにデュオニソスの神器ギガ・アンタレスが迫る。焦ったテュポンは咆哮を上げて肉体をひとまわり大きくさせ2人を強引に振り解いた。神器が目下にまで迫ったが辛うじて回避に成功し、槍はわずかにテュポンの首筋を掠めただけで致命傷にはならなかった。しかしーー


「ぐっ、があぁぁぁ…な、なんだ!!首が燃えるように熱い!!クソがっ!!」


 かすり傷にしては妙に苦しんでいる。傷口から青紫色に染まった血管が浮き出し始めた。どうやらただの傷ではない様子であった。


「油断しましたね。ギガ・アンタレスを所持するデュオニソスがこの作戦の要だったのです」


 ギガ・アンタレスーー雷属性の神器であるが、この槍にスコーピオンの心臓という名前が入っているのは、矛先そのものが毒性を帯びていることに起因する。そして、アンタレスという名は元は"アンチ・アレス"という戦神アレスに対抗しうるものという意味も持っている。つまり、アレスに対して最大の効果を発揮する神器であり、テュポンにとってアレスの身体を乗っ取ったことが逆に仇となったのだ。


 もがき苦しむテュポンに生じた隙を好機と、アテナは再び全員に総攻撃を仕掛けるよう指示を出した。

 アポロンたちは神器を使った大技を一斉に放った。神々の星をも砕く会心の一撃がテュポンに直撃すると大爆発を起こし、爆炎に包まれた。


「よしっ!!あの怪物でもさすがに大これはダメージだろ!」


 ガッツポーズをとるヘラクレス。その一瞬の油断が致命的となった。爆炎の中から飛び出てきた大蛇がヘラクレスの頚動脈に噛み付いた。


「な、なにぃっ!?」


 爆炎の奥にゆっくりと現れる大きな影。大蛇はヘラクレスの首筋を噛みちぎって爆炎の中に戻っていった。首筋から噴き出す血飛沫を手で押さえ狼狽するヘラクレスであったが、間も無く力尽きオリュンポス山の麓に落下していった。


「くっ…アレスの身体だからと、本来の姿になることはないと考えていた私の読みが甘かった…」


 爆炎が薄れ、オリュンポス山と匹敵する巨躯の怪物が禍々しい姿を現した。

 アレスの面影を残した上半身、目から絶え間なく炎が漏れ出て肩からはおびただしい数の大蛇が生え、下半身はとぐろを巻いた蛇のような姿形をしている。

 それは過去の戦いでゼウスを一度敗北に追い込み、神々を恐怖のどん底に陥れたテュポン本来の姿であった。

 テュポンはこの身体になって久しく、まずは動きの精度でも見る試運転のように軽く腕を振り下ろした。その手はゼウスが引きこもっていた神殿ごとオリュンポス山の半分を抉り、粉々に砕いた。


「ゼウス様ーっ!?……そんな…ダ、ダメだ…勝てない…」


 赤子が積み木を崩すように、山を半壊させたその脅威的な破壊力に神々は肩を落とし絶望した。

 その時、完全に士気を失った神々を叱咤するように轟音とともに稲妻がテュポンに落雷した。


「皆の者!攻撃の手を休めるな!」


 瓦解していくオリュンポス山と神殿の瓦礫の中から光に包まれたゼウスが杖を掲げて現れた。ゼウスの声を聞いた神々は再び息を吹き返したように攻撃を始める。

 暗雲立ち込める空の下、テュポンと神々の攻防は続いた。過去には相当なダメージを負わせたゼウスの稲妻も今のテュポンにはあまり効果が見られない。決定打のないオリュンポスの神々に対しテュポンの一撃を受ければ致命傷となる不利な状況の中、事態は一変した。

 宙を舞い稲妻を放ち続けていたゼウスに突如現れた黒い瘴気の鎖が絡みつき動きを封じたのだ。


「な、なんじゃと!?これは……」


"ゼウスよ、お前の時代は終わりだ"


 空に現れた黒いゲートの中から現れたのはバエルに全滅させられたはずのティターン十二神だった。そしてその十二神が出迎えるように跪き、奥からもう1人現れた。


「天界の空気はやはり美味いのう」


「ハデス!!お主、これはどういうことじゃ!!」


今回のタイトルは、ある漫画の扉タイトルをオマージュしました←悪く言えば軽くパクりました。


主人公のセシルくんの物語より、ティターン十二神やオリュンポスの神々の戦いのお話のほうが個人的に熱がこもってる気がします、、、

主人公の選択ミスったかな←一番言うたらアカンやつ


今回、腹立つところで終わりましたが、次回はご無沙汰してるセシルくんの方に物語を戻します。

そこを挟んでオリュンポス編に戻そうかと、、、

異論のある方は「異議あり!」と叱ってください←ドMか

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