第四十一話 大敗
南に位置する雪と氷の大地、ジェリソル大陸にバエルを討伐しに訪れたティターン十二神であったが
バエルの策略によりすでに2人の神を失い、クロノスたちは巨神化して報復を図るが、、、
「ちぃと前に一瞬感じたからまさかとは思ってたけどよぉ…なんなんだこのヤバイ魔力は!ぜってぇアイツじゃねぇか!!」
「とうとうこっちに来たんだね…マジ萎える」
「……バエル、の魔力。でも、ここからは遠い…」
ウルド帝国ドグラウス城砦で三魔将は遠い地からでも感じる強い魔力の波動に戸惑っていた。
悪魔たちは一枚岩ではない。この地上で自分たちよりも強い者はいないという優位性が今この時、崩れ去ろうとしているからだ。
実力が拮抗しているこの3人が牽制し合いながらも同じ場所に身を置いていたのは、他の悪魔たちが手を組んでも勝つことができない圧倒的な力を誇示し、地上におけるヒエラルキーの頂点で居続けるためであった。
しかし、序列一位のバエルが現れたとなれば、この共生はもはや3人が揃っていても意味を為さない。それほどまでの実力差が三魔将とバエルの間にはあるということだった。
「クソがっ!!どこのバカだ、あの野郎を目覚めさせたのは…。アイツは俺たちみたいに不死の人間の身体さえありゃあ地上に顕現できるって訳でもねぇだろ」
「だね…あたしたちは別次元のソロモンに幽閉されただけで済んだけどさ〜バエルって幽閉されたソロモンの中でもさらに厳重に封印までされてたから、特別な召喚術じゃないと地上には来れないっしょ…?どーなってんのさ〜」
そんな三魔将たちが不安に駆られる中、その不安の元凶であるバエルは南方のジェリソル大陸でティターン十二神全員を屠るべく策を巡らせていた。
ーーあの中で警戒すべきは筆頭のクロノスと光の女神テイア。あの2人をまずは分断せねば。
本来の姿になったティターン十二神はバエルの2倍近くある体躯をしている。体躯の差が戦いでは不利となるが、大きくなった分注意を逸らしやすく策に嵌めるには好都合だ。
バエルは凍りついた樹海に業火を放った。火はたちまち雪を溶かし木々を燃やして炎の包囲網を作り上げた。そこに雪山へ爆破魔法を放って雪崩を起こした。樹海に向かって流れ込んでくる大量の雪の波は、いかにティターンといえどまともに食らえば無傷では済まない。
逃げ道を作ろうとオケアノスが水流を起こして樹海の炎を鎮火しようとするが、水流は瞬く間に凍りついてしまい上手く鎮火出来ない。それを見かねたヒュペリオンが両手から火炎放射器のように炎を雪崩に向かって放ち蒸発させようと試みたが、炎の勢いよりも雪の勢いが上回っているせいか、これも抑止することはできなかった。
「結界を張る!近くに!!」
天空神クロノスと豊穣の女神レアが皆を包むように巨大な防御結界を全方位に張り巡らせた。結界が張られる瞬間、大量のガルムガが結界内に侵入してきた。
「こいつら!!危険を感じて結界内に避難してきやがった!!」
急遽張った強度を重視した結界とあって、結界内は決してゆとりのある空間ではなく、十二神の10人が立った状態でちょうど収まる程度のスペースしかなかった。十二神にとっては魔法や技はおろか、身動きをとるのもままならないこの場所だが、ガルムガにとっては十分に動き回れる。ティターンの巨躯が仇となったのだ。
雪崩が衝突し、クロノスとレアは手が離せない。ガルムガはまず肉体的に非力そうなイアぺトスに集中して噛み付き始めた。巨大な犬歯で腕や脚に噛みつかれたイアぺトスは苦しそうにしながらも払いのけようとするが、すばしっこいガルムガの動きは飛び回る羽虫を払いのけることと同じくらい難しく、振るい落とせずにいた。近くにいたオケアノスとヒュペリオン、そしてコイオスがそれを阻止しようと手を伸ばすが、狭い結界内で揉みくちゃ状態となり上手く引き剥がせない。
そんな中、光の女神テイアの悲鳴が結界内に響き渡った。妻の悲鳴にヒュペリオンがすぐに反応しテイアの方に視線を移した。なんとテイアが胸から血を流している。
「ヒュ、ヒュペリオン…」
「テイアっ!!…ウソだろ。お、お前はっ!!」
テイアの胸元のすぐ近くに彼女の血で全身に包まれたバエルがいた。
「女神の血は癒しの効果でもあるのかな?心が洗われるようだ」
「殺すっ!!」
血走った目でヒュペリオンが他の十二神を掻き分けてテイアに寄ろうとするが、バエルはすぐにガルムガに変身し十二神の足元を駆け回り撹乱していく。バエルに気を取られている間に、ついにイアぺトスは喉元をガルムガに喰い千切られてしまった。首から大量の血飛沫を上げ吐血し膝から崩れ落ちるイアぺトス。ガルムガは次の標的を掟の女神テミスに変え襲い掛かる。しかし、近くにいたテティスがそれを許さなかった。
テティスは身の回りに幾つもの水滴を発生させた。気温の影響で瞬時に凍りついていき氷の礫となると、それをテミスに集ってきたガルムガに向けて飛ばした。テティスにとっては水滴のサイズであっても、ガルムガにとっては野球の硬式ボールほどの大きさとなる。そのサイズの氷の礫が不規則な動きでガルムガを次々と貫いていく。
しかし、逃げ場のない密閉空間でイアぺトスが殺され、テイアも瀕死、ヒュペリオンは激昂し我を失っているという地獄絵図のような様相に結界内は混乱を極めた。ようやく雪崩が過ぎ去りクロノスとレアはすぐに結界を解除すると、オケアノスが叫んだ。
「テミスよ!今すぐ皆の全身を鋼化させい!!」
テミスは言われた通り、全身を鋼鉄のように硬化させる魔法を十二神にかけた。結界が解除されたことでガルムガはその場から逃げようと走り去っていくが、オケアノスがそうはさせなかった。
「逃さんぞバエル!!グラキエス・アクス!!」
魔力を込めた両手を胸の前で叩き合わせ合掌のポーズをとると、魔法が発動し雪の大地から数万という数の先の尖った氷筍が突き出てきた。地獄に存在するという針の山のように足の踏み場もないほど一帯は氷の刃に覆われ、硬化している十二神は当然無傷であったが、逃走しようとしていたガルムガはすべて身体を貫かれ全滅していた。安堵したテミスが硬化の魔法を解くとクロノスが叫んだ。
「テミス!!まだ解いてはならぬ!!バエルの姿が見当たらん!オケアノス!警戒せよ!!」
ガルムガに紛れていたはずのバエルが見当たらないことにいち早く気づいたクロノスはテミスとオケアノスに注意を促すが、遅かった。
十二神の真下から巨大な氷筍が次々と突き出てきた。この急襲に反応できたのはクロノスと予言の女神ポイべだけであった。氷筍が出てくる前にクロノスは空に逃げ、ポイべは予知能力によって氷筍の出る位置を把握して上手く回避した。ヒュペリオンは回避こそしていなかったが、全身が常に高温に覆われている為、氷筍が刺さる手前で溶けて無事だった。しかし、残りの十二神は皆、脳天の先まで貫かれ目鼻口の至る所から血を垂れ流して絶命している。
「海の神だか知らぬが、オケアノス。貴様に出来て吾輩に出来ぬ訳がなかろう。己が使った技で死ぬとはこの間抜けめ」
「やかましい!!貴様どれだけ同胞を殺せば気が済むんだ、ああっ!?」
ヒュペリオンは怒りのあまり歯止めが効かなくなっていた。地面を覆っていた雪も十二神やガルムガを貫いていた氷筍も全てが瞬く間に溶け出し、土から発火し煙が立ち昇り始めた。ヒュペリオンの周囲が超高熱へと変化し始めている。
「ヒュペリオン、落ち着かぬか!!それ以上やると我らまで燃え…ぐっ、無理か」
クロノスはすぐにポイべを拾い上げると魔法障壁を張りつつ浮遊し、ヒュペリオンの火力が及ばない高さまで避難した。
「貴様だけは絶対に赦さぬ…骨も残させん。焼失しろ…ヘルソレイユ!!」
ヒュペリオンが両手を左右に広げると周囲の温度が摂氏3,000度まで一気に上昇し、土、木、十二神たちの遺体ーーありとあらゆる物が発火して燃える間もなく気化していった。
「ヒュペリオン!止すのだ!!この大陸そのものがなくなってしまう!」
焼失の範囲がゆっくりと拡がって煤と火の粉が舞い踊る。そして、ついにバエルの身体が発火した。
「バカなっ!?ぐおぁぁぁぁあっ!!」
一瞬にして消し炭となったバエル。ようやく同胞たちの仇を討ったとヒュペリオンは笑みをもらし、体内の魔力を燃やすことで周囲の温度を上げ続けるのを止めた。温度上昇が止まったことで、影響を受けていなかった周囲の気温と相殺し合ってヒュペリオンの周りも徐々に気温が戻り始めた。空中に避難していたクロノスとポイべも安堵し降下し始めると、笑い声が聞こえてきた。
「フハハッ!!ヒュペリオンよ。ただ周囲の温度を上げることしか能がないとは、太陽神の名が泣くぞ」
「そ、その声は…」
響き渡る悍ましく耳障りの悪い声。焼失したはずのバエルの声がどこからともなく聞こえてくる。樹海のほとんどの木々が燃えて消え去り周囲には視界を遮るものがなくなっているが、目視できる範囲には誰もいない。
焦ったヒュペリオンは再び全身の魔力を燃やそうと力を込めた。ヒュペリオンの身体が紅く染まり始めた時、ヒュペリオンの死角となる真下ーー足元にバエルが現れた。
「熱くなりすぎると火傷するのではないか?」
皮肉を吐きながらバエルが掌を上に向けると、一瞬にして全身を氷が覆いヒュペリオンは凍り漬けにされてしまった。超高温を宿していたヒュペリオンの身体は一気に冷やされヒートショックを起こし、氷の棺とともに爆散した。
「ヒュペリオン!!なんてことだ…あのヒュペリオンまでもが…」
戦慄するクロノスとポイべ。焼失したはずのバエルが無傷で現れたかと思えば、ヒュペリオンを瞬く間に撃破した。このままでは全滅は免れない。クロノスは地上に降り戦闘態勢をとった。
「貴様…ヒュペリオンの熱に焼かれたはず。なぜ生きている?」
「簡単なことだ。熱に耐え得る物体に変化すればいいだけの話。あの程度の温度であれば0.5mm四方の耐熱金属にでもなれば目視もできんし焼失したように見えたであろう?」
厄介な変身能力に加え、高い魔力と知略に長けた頭脳。まさに悪魔の王と呼ばれるにふさわしい実力。魔獣を従えていたとはいえ、ほぼ単身でティターン十二神のうち10神まで殺害した悪魔をどうすれば始末できるのかーークロノスのこめかみを一筋の汗が滴り落ちる。
「クロノスよ。あとは貴様とそこの予知能力くらいしか使えぬ神だけだ。命乞いするなら赦してやらぬでもないぞ?」
「戯言を…断る。もはや同胞の仇を討つまで死ねぬわ。ポイべ、お前はオリュンポスへ行き母上に報告を。バエルは差し違えてでもワシが討ち取る」
「わかった。健闘を祈るわ…」
ポイべはオリュンポスへ戻るため転移魔法を念じ始めた。しかし、何故かまったく発動しなかった。
「ど、どうして…転移魔法が使えない…」
「この大陸全域に空間系の魔法が使用できない結界を張っておいたのだよ。来るもの拒まず去るものは逃さずだ」
「ふざけたことを……やむを得ん。ポイべ、下がって避難しておれ」
クロノスは再び身体の大きさを人間サイズにまで縮小してから2本の剣を取り出して構えた。これまで十二神が敗れたのは体躯の差を利用され、それが仇となっていると気付いたのだ。
バエルは身構えようともしない。ただ腕を組みながらこちらを見つめているだけだった。
ヒュペリオンが死に気温はみるみる下がっている。やがてこの大陸本来の氷点下にまで戻ると、ヒュペリオンが周囲を燃やし尽くし気化した際の残りカスや塵が凍りつき太陽光に照らされてダイヤモンドダストのようにキラキラと輝きながら宙を舞い始めた。
次の瞬間、クロノスはバエルへと距離を詰め二刀流の剣を左右に振り払った。回避行動を取らなかったバエルの身体は上半身と下半身で真っ二つに斬り裂かれたかに思われたが、その姿は霧散して消え去った。
「む…幻術か。どれだけの数の魔法を使いこなせるのだ、あやつは…面倒なこと極まりない」
どこかに潜んでこちらの隙をつこうという魂胆だとクロノスは考え、周囲を見回して警戒した。しかし、攻撃は予想外のところから行われた。クロノスの右肩が突然爆発したのだ。肩から大量の血を流しながらも、動揺することなく次の攻撃に備えようとするが、今度はクロノスの左腿で爆発が起きた。そこでクロノスはようやく気が付いた。
空中を舞っていた氷の礫の中に、接触すると炸裂する爆破魔法の一種が紛れ込んでいたのである。
「なんと狡猾な…」
「巨躯のままでおれば大怪我はせんかったものを…愚かなり、天空神よ」
バエルの挑発の声がどこからともなく聞こえる。それを無視してクロノスは背中に大きな羽根を出し、激しく羽ばたかせ氷の礫を吹き飛ばした。姑息な罠を仕掛けてくるバエルにクロノスも段々と苛つき始め、天に舞い上がり2本の剣を真上に掲げて大技の構えをとった。
雪がちらつき始めた大空から見下ろしバエルの居場所を探す。ふいにこちらに向かって何かが地上から飛来してくるのに気付き、クロノスは絶句したーー石と化したポイべだった。
「どこまでも愚弄しおって!!悪魔の分際でっ!!」
もはや助かる見込みのないポイべを受け止めようとはせず、クロノスは地上の広範囲を標的に大技を放った。
「地烈飛龍閃!!」
剣を地上に向けて振り下ろすと、2本の剣から放たれた光の龍が地上に向かって降り注ぐ。地面に激突した龍は大爆発を起こし、土煙で覆われた。
ーーさすがに無傷ではいられまい。さあ、出て来い…斬り刻んでくれる。
バエルからの反撃がくると予想していたが、一向に何も起きない。やがて土煙が晴れると、あたり一帯が大きく抉れ巨大なクレーターを生み出していた。
ーーまさか、死んだか?
クロノスは地上に降下し、周囲を警戒するが遺体らしきものは見当たらない。剣を構えながら歩き回ってみるが、やはりバエルの姿はなかった。
「気が済んだか?大技を放ってストレス発散できただろ。さあ、死ね」
声のする方向は真上だった。クロノスがいた場所よりもさらに高い場所にバエルは浮遊していた。そして、天に掲げている手の先には規格外の大きさの漆黒の球が浮かんでいた。
「そ、そんな…この大陸ごとワシを消し飛ばすつもりか…」
「正解だ!!ウォカーティオ・アド・インフェロス!!」
漆黒球が一気に地上に向かって落ちてくる。もはや逃げ場などないほどの大きさにクロノスは絶望しながら剣を手放し膝をついた。
「同胞たちよ…すまぬ。仇は討てなんだ…」
地上に落ちた漆黒球は全てを呑み込み地殻まで沈むと魔力暴走によってマグニチュード9.8の地震を起こし、海は荒れ大津波となってウルド帝国などを擁するノスフェラル大陸にまで被害を及ぼした。
漆黒球がもたらした爪痕は直径4,000kmのジェリソル大陸すべてを抉り取り底の見えない大穴を開けた。その穴を埋めるように海水が流れ込んだことで、潮流が不規則となりその周辺海域はのちに"死の海域"と呼ばれるようになる。
この日、1人の悪魔の手によって南の凍てつく大地(ジェリソル大陸)はティターン十二神とともにこの地上から完全に消滅させられたのであった。
前回の続きちゃうんかい!って思われた方、ごめんなさい。
まずは悪魔と十二神のほうです、、、
"この日ーー"っていう最後の一文はただ言いたかっただけです←ドラクエとかFFで出てきそうなテロップですよね。
あと、すごく今更なのですが、、、技名のネーミングセンスが壊滅的だった私は、ある時から英語ではなくラテン語にしてみました!
あら不思議!なんかよーわからんけど、それっぽい技っぽい!←どんだけぽい言うねん
誰もツッコんでもくれやしないので自らカミングアウトさせていただきました。
どうでもいい情報、失礼しました。




