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第四十話 死にゆく神々

タルタロスに幽閉されていたガイアとティターン十二神たちは、打倒バエルに向けて協力の申し出に来たアレスを謀り最強の怪物テュポンの魂をアレスに憑依させることに成功。

タルタロスを脱出し、ガイアとテュポンはオリュンポスへ、ティターン十二神はバエルを捜索しに動き出していた。


 ラグナス王国の魔導士団長マリアルの召喚によって帝国領の辺境貴族シシュフォスの肉体を媒介とし地上に顕現した悪魔の王バエル。その直後に神ヘルメスを石化させ王都ジャニスを壊滅させて以降は姿をくらませていた。

 バエルは異界であるソロモンに幽閉されていた悪魔の序列一位、つまり王であり最強の悪魔でもある。原初の神カオスより生まれた大地の女神ガイアは最後の子、テュポンにゼウスを討ち取らせオリュンポスを奪還しようとしている。その後、最高神となり天地海すべてを治めようと画策するガイアにとってもバエルの存在は最大の障害となる。そこでガイアはクロノスを筆頭としたティターン十二神にバエルの討伐を任せ、地上に降臨させていた。


 東西を分断してウルド帝国とラグナス王国が存在するノスフェラル大陸から海を渡った遥か南方の大陸"ジェリソル大陸"。

 万年、雪と氷に覆われたこの地は魔力が異常に豊富な土地であるが人間は住んでおらず、厳しい環境下で生存していくために変化した生態系によって生まれた凶暴な魔獣しか生息していない。


「そんれにしてもよぉ…目立たねぇためとはいえ、人間サイズの身体は慣れんのう。まるでハナクソになった気分じゃ」


「オケアノス!ハナクソとかやめてよ。きったないわね」


「はぁ…仲が良いのう、お前たち。それにしてもイアぺトスよ、こんな何もないところに本当にバエルがおるのか?」


 雪を踏みしめながら先頭を歩くクロノスが黒いローブに身を包んだ根暗そうな雰囲気のイアぺトスに尋ねた。


「あ、ああ、魔力の高い魔獣を食って、ち、力を取り戻そうとしている…ってタロットには出てる」


「ウソだろ!?占いってそんな詳細に出るもんか?!」


「よしなって。イアぺトスの占いはほら…6割くらいの確率で当たるじゃないか」


 イアぺトスの言葉をあまり信用していなさそうな太陽神ヒュペリオンとそれをフォローしきれていない妻のテイアがイアぺトスのことを笑っている。その様子を不快そうにコイオスとテミスが見ていた。


「やめんか、2人とも。元より少ない情報の中こうしてイアぺトスが協力してくれておるのだ。滅多なことを言うもんではない」


「い、いいんだ、コイオス。テイアのい、言う通り僕の占いは当たり外れがある…から」


 十二神は仲が悪かった。どこのコミュニティ、組織にもあるヤンチャなグループと大人しめのグループが十二神の中にも存在していた。

 一行は樹氷に覆われたエリアに足を踏み入れ、進んでいくと、まだ息絶えてから日の浅い魔獣の死骸を発見した。


「ふむ…魔力が完全に消失しておるな。死骸とはいえ、普通に死ねばこうはならん。バエルの仕業か」


「早いとこ見っけて帰ろうぜ。寒すぎんぞ、ここ」


 定かではないものの、バエルがここにいるという手がかりはあった。クロノスは2人1組で手分けして探すよう皆に指示を出し、オケアノスとテティス、ヒュペリオンとテイア、クロノスとレア、コイオスとポイぺ、イアぺトスとテミス、クレイオスとムネシュモネの6組の十二神は散り散りに樹海の奥へと進んでいった。

 樹海の中にはサーベルタイガーが変異したガルムガという魔獣が多数生息していた。各地で十二神たちは指先一つで魔獣を圧倒していったが、一匹だけ様子のおかしな個体をクレイオスとムネシュモネの組が発見していた。


「あの魔獣、魔力の質が変ではないか?」


「だな。バエルの傀儡かもしれん。ムネシュモネ、クロノスに連絡…を…」


 クレイオスの言葉が途切れ、ムネシュモネが振り返るとクレイオスの腰から上の胴体が消失していた。食いちぎられたような胴体の切り口。ムネシュモネはまさかと思い異質な魔獣に視線を移すと、魔獣の口元が紅く染まっていた。


「ま、まさか…この魔獣がクレイオスを!?」


「吾輩をお探しか?ティターンの神よ」


 禍々しい声がムネシュモネの頭の中に響き渡る。1人残されたムネシュモネはすぐに空に向けて閃光球の魔法を打ち上げた。これによりクロノスたちがすぐに集まってくるはずだが、バエルの姿が見えない上にクレイオスを殺した魔獣と対峙したまま持ち堪えなければならない。魔獣はニヤついた笑みを浮かべているかのように舌なめずりをしてムネシュモネを見つめている。


「おのれ獣め…神を喰うとはなんと罰当たりな。クレイオスの無念は晴らさせてもらう!メモリアエ・ファンタズマ!!」


 ムネシュモネの詠唱と同時に彼女の周囲を守るようにガルムガや他の魔獣が突如として現れた。ムネシュモネの魔法はこの地に刻まれた記憶を呼び起こし、それを実体化した幻影として使役することができる。それによりこのジェリソル大陸に生息していた魔獣たちが幻影として現れたのだ。

 ムネシュモネの呼び出した魔獣たちが一斉にバエルの傀儡らしき魔獣に襲いかかる。次々と巨大な犬歯を突き刺すように噛みつき覆い被さっていく魔獣たち。圧倒的な数の魔獣に覆われバエルの傀儡の姿が見えなくなった。


「やれやれ、他愛もない。クレイオスは油断しすぎておったのか…」


「おやおや、もう勝ったつもりでいるのか。おめでたい女だ」


 再びバエルの声が頭の中に響いたかと思った刹那、ムネシュモネの額に指を突き刺しながらバエルが彼女の目の前に立っていた。


「な、なぜ…いつの…間に…どこから……」


「吾輩は速さには自信があってな。それに何処からというより、ずっと貴様の目の前におったのだがな」


 ムネシュモネが呼び出した幻影の魔獣は全て砕け散ったように肉片が飛散し死んでいるが、バエルの傀儡の姿は見当たらない。


「ま、さか…さっきの…魔獣……が…」


「正解だ。死ね」


 ムネシュモネの額を起点として全身の毛細血管が浮き出ていき、そこから血が噴き出した。


「あ…が、が…」


 それでもまだ息のあるムネシュモネにバエルは少量の魔力を流し込んだ。その瞬間、ムネシュモネの身体は爆散するように弾け散った。


「こんなのが神か…軟弱な。ゼウスに敗れたのも頷ける。だが、いい魔力補充にはなった。召喚されてすぐに少し浮かれて街一つを滅ぼしてしまい魔力を無駄遣いしてしまったからな…残り10体から魔力を奪えば吾輩も完全に力を取り戻せるか」


 バエルは再び姿形をガルムガに変化させ、その場を去っていった。

 上空に放たれた閃光を見て急ぎ駆けつけたクロノスたちが到着した時には、無惨な姿へと変わり果てたクレイオスとムネシュモネしかその場には存在しなかった。


「おのれ、バエルめ!!我が同胞にこんな惨い仕打ちを…。ティターンの名にかけて、バエルを滅殺する!気を引き締めるぞ!!」


 血気盛んなオケアノスやヒュペリオンもクロノスと同様に怒りに震えている。2人を失い、十二神たちはなりふり構わず本来の巨神のサイズへと身体を戻し、全身に闘気を纏わせてバエルの捜索を再開した。

 地響きを立てながら進行していくクロノスたちを木の陰から見ていたバエルは思案していた。


 ーー本来の姿になって集結したか。さて、どのように殺していくか…




 一方その頃、ガイアとテュポンはオリュンポスへと凱旋してきていた。すでに厳戒態勢が敷かれていたオリュンポスであったが、テュポンがひと暴れしたことで防衛網はすでに壊滅し、オリュンポス山の麓の街は炎に包まれていた。


「最近の神兵は脆弱よのう。この様子なら制圧できるのも時間の問題じゃ。テュポン、さっさとゼウスの首を取ってクロノスたちを出迎えてやろうではないか」


「やかましい。ババアは何もしてねぇだろうがよ」


「はあ…全く口の悪い子じゃ。誰に似たのかのう」


 ガイアとテュポンはゼウスのいるオリュンポス山の神殿へと向かおうと動き出したが、山の入口は水の防壁に守られていた。そして、その防壁の前に立ちはだかっていたのはトライデントを手にした海神ポセイドンだった。


「婆さま、よう来たのう。久しぶりのシャバの空気は美味いじゃろう。今のうちにたくさん吸い込んでおけよ。また埃臭ぇタルタロスに戻らにゃならんからのう。……む?隣にいるそやつ、まさか…アレスか!?」


「半魚人のガキが吐かしよるわ。おや、気付いたかえ。察しがいいじゃないか。そうさね、アレスの身体を依代にテュポンを呼び戻したのか。さ、テュポン、やりな」


「チッ、命令すんじゃねぇよ…まぁいい。丁度、脂ののった魚が食いたかったんだ。3枚におろしてやんよ」


「ぐっ…アレスの肉体にあの最凶最悪の怪物テュポンじゃと…反則だろ、そんなもん。1人でカッコつけたのは間違いじゃったかな…まぁよい!やるしかないわ!!」


 テュポンが出る前に先制攻撃を仕掛けたのはポセイドンだった。トライデントから放たれた高速振動しながら回転する水の円盤を連射した。テュポンはそれを軽快なフットワークで回避していくものの、円盤の1つがテュポンの頬を掠めると、薄皮を鋭く切り裂き血が滲んだ。


「魚風情が奇怪な技使いやがる。おろす…いや殺す」


 ポセイドンとはまだ少し距離があるにも関わらず、テュポンは拳を握りしめ、正拳突きを放った。拳に押し出されるように空気の塊がから衝撃となってポセイドンに迫る。トライデントを前方に構えて結界を張りガードしたが、衝撃を受けた結界は破られトライデントを真っ二つに折ってポセイドンの腹を抉るように突き飛ばした。


「ぐぼっ…な、なんつー力じゃ…さすがバケモン。神器であるトライデントを枯枝みたいに折るとは、デタラメすぎんじゃあないか…」


 ダメージが深かったのか、吐血するポセイドンに追撃をかけるテュポン。正拳突きを何発も何発も繰り出し、複数の衝撃波がポセイドンを襲う。追い詰められたポセイドンはすぐに2本の指先で陣を切り、水流の防壁と魔法障壁を同時に張り巡らせた。

 さすがに2つの壁に衝撃波は阻まれたが、テュポンは手を緩めようとはせず、むしろ穿つ勢いを加速させていった。壁の強度がみるみる低下していくが、ポセイドンは障壁を張るので手一杯でありもはや逃れようがない状態にまで追い詰められていた。


「よもやここまでか…ゼウスよ、後は任せたぞ」


 2つの障壁が破られ、テュポンの衝撃波がポセイドンの胸を貫いた。地に伏せたポセイドンの身体から魂が抜け出て下へと向かって消えていった。

 天界で死した神たちは皆総じて冥界メガリスにあるハデスの元へと送られる。セシルーーもといタナトスが魂を運んでいたのはあくまで地上の人間のみということになる。


「あーっはっはっ!最高神に次ぐ実力者も所詮はこの程度かえ。我が子らティターンもお前たちが姑息なことをせねば敗北することなどなかったのじゃ。我らが味わった屈辱をしかと噛み締めるがよい」


「ババア、いつまで喋ってんだ。さっさとゼウスんとこ行くぞ」


「やれやれ…勝利の余韻に浸らせてもくれぬのか。親不孝な子だよ、まったく」


 ポセイドンの亡骸を踏みつけてそのままオリュンポス山に入ったガイアたちであったが、頂上までの道のりでは何の妨害もなかった。


「おかしいのう。人手不足かえ?こんなにあっさり頂上まで着いてしまうとはのう」


「寝ぼけてんのか。前見ろ…勢揃いしてやがんだろうがよ」


 頂上のゼウスのいる神殿の前には名だたる武闘派の神々と2人の英雄が集結していた。

 戦略の女神アテナ、太陽神アポロン、美貌の女神アフロディーテ、狩猟の女神アルテミス、熱狂の神デュオニソス、そしてゼウスと人間との間に生まれ神と同等の強大な力を持つ英雄ペルセウスとヘラクレスである。


「ポッセ叔父様、そして我が弟アレスをよくも…テュポン、そしてガイア様。貴方がたは万死に値します!」


 ゼウスより指揮を任されていたアテナが啖呵を切った。全員がガイアたちを睨みつけ一触即発の状況の中、神殿からゼウスが現れた。


「ガイアよ。アレスを謀りテュポンまで呼びおって。此度の反乱、もはや赦しはせぬ。5体満足でこの地を出られると思わぬことだな」


「坊主が粋がりおるわ。お前もテュポンの恐ろしさは知っておろう。それに加えてアレスの身体じゃ。愚神が何人束になろうとも敵う訳がなかろうて。全員タルタロスに堕としてしてくれるわ!!」


「めんどくせぇ…やんのは俺だろうがよ。まぁいい。出所祝いの景気付けに全員撲殺してやる、来いよ」


 オリュンポス神殿に集結した最高戦力と、神殺しの最凶の怪物との壮絶な戦いが今まさに始まろうとしていた。

セシルたちが地上でわちゃわちゃしている頃、神サマたちも空の上で何やら大変なことになってたんですねぇ、、、

今後、この神々の戦いの行方が地上のセシルたちとどう繋がっていくのか。


あ、神サマに死ぬとかいう概念はないじゃろってツッコミ待ちのアナタ。

フィクションですから、どうかご容赦を。

神サマは肉体が滅びても魂は冥府に行って、ハデスのさじ加減1つで長い年月はかかるものの蘇ることができます!

、、、という設定。←冷めること言うなよ


ひとまず次回もセシルたちはお休みです〜



2026年6月26日追記

誤字脱字が多かったので修正しました。

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