第二十八話 死神とドワーフ
悪魔ルナ・ディアスによって生気を吸い取られたエルフの里の皆を救うためにアリューアル砂漠のあるという生命水を求めて出発したセシルたち。
しかし、アリューアル砂漠のある帝国領に入るにはザイオン砦跡地に臨時に建てられた関所を抜ける必要があった、、、
エルフの里を出てメレルの森を抜けたセシルたちは、近隣の街で馬車を手配し、ウルド帝国領にあるアリューアル砂漠を目指していた。
先の戦いで国境のザイオン砦が崩壊した影響で、ラグナス王国兵による臨時の関所のみが設営されている国境付近。行商人たちが列を作り、越境の手続きを行なっていた。
「めちゃめちゃ混んでるじゃねぇか…これ何時間待ちだよ」
「見た感じ20組くらいいるわね。でも、ここ以外に帝国領には行けないし、待つしかないわね」
御者に順番待ちを任せて馬車を降りたセシルたちはラグナス王国兵のいるテントへと足を運んだ。
「すみません、僕たち急いでいるんだけど、これで何とかならないかな?」
セシルは予めリエリカに渡されていた署名入りの通行手形を兵に見せた。
「これは…リエリカ副団長の…いや、これがあっても順番待ちは守ってもらわないと、商人たちがうるさいからね。悪いが、特別扱いは出来ない」
予想通りの返答だった。仕方なくセシルたちはテントを出て、関所付近で商人たちが開くバザールで買い物がてら各々の時間を過ごすことにした。
「俺、あっちの木の下でトレーニングしてっから、終わったら声かけてくれよな」
「こんな時までトレーニングってどこまで脳筋なのよ…セシルさん行きましょうか」
ウルド帝国は不毛の大地が多く、砂漠地帯が広がっているため帝国領を旅をする者にとってはこのバザールの存在は欠かせないものであった。食料品から織物まで様々な物が所狭しと並んでいる。
セシルたちも砂漠への旅に向けて、水と傷みにくい乾物食糧や日除けのためのスカーフや大判のショールなどを買い集めることにした。
「グレイスは森から出たことなかったんだよね?……ん?グレイス?」
隣にいたはずのグレイスがいなくなっている。周囲を見回すと、宝飾品の露店の前で立ち止まって釘付けになっていた。
「す、すごい!これ、石なんですか!?こっちは銀!?すごい!」
「お、おーい、グレイス。どうしたんだい?」
「あ、すいません!セシルさん!見てください!これ!とても綺麗じゃないですか?!こんなものが世の中にはあったんですね!」
初めて見る宝石や銀細工に、まるで少女のように目を輝かせてはしゃいでいるグレイス。大自然の中で暮らしていたのだから、加工品に心躍らせるのも無理はないとセシルは少し苦笑いしながら、店主に銀細工の価格を尋ねた。
「せっかくだから、買ってあげるよ」
「え!そ、そんな!いいですよ!ちょっと驚いただけなので!」
「気にしないで。グレイスは元がいいんだし、女の子なんだからオシャレに興味を持つのはいいことだよ」
そう言って金を払い、銀の髪留めを受け取るとグレイスにプレゼントした。
「あ、ありがとう…ございます…」
ーーほんとはこういうの、ジンがやってあげた方がグレイスは喜ぶと思うんだけどなぁ…あいつはそういうこと鈍そうだし、仕方ないか。
それから必要なものを買い揃え、麻生がいる木の方へ向かうと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
麻生がヒゲ面で屈強そうな身体つきをした幼児くらいの低身長の男と殴り合っていたのである。
「ちょ、ジン!何してるんだよ!?」
「セシルわりぃ!今取り込み中だ!!このオッサンが絡んできたんだよ!!」
ーーあれはドワーフ?この辺じゃ見かけたことなかったけど…
呆れるグレイスとともに仕方なくしばらく見守っていると、互いの拳が頬を抉り、2人とも倒れ込み決着がついたようであった。
「クソいてぇ…オッサンやるなぁ!!」
「お前こそ若造のくせにやりおる!汗臭いとか言ってすまんかったのう!!」
ーーいや、どんな理由だよ。
地面に倒れた2人は何故か笑い合っており、さっきまでの殴り合いが嘘のように和やかな雰囲気に包まれている。
「あの…オジサン、ドワーフだよね?この辺じゃ見ないけど、帝国領から来たの?」
「ん?うむ、いかにも。ワシはドワーフの鍛治職人だ。帝国にいてはまともな仕事はできんからな。泣く泣く店を畳んでラグナスに来たのだ」
「帝国領はそんなに酷い状況なんですか?」
このドワーフの話によると、この関所から丸一日ほど歩いた場所にある"テナンス"という村から来たらしく、村の周りはおろか、その道中も凶暴な魔獣が跋扈する危険な地帯と化しているとのことだった。その影響で村からどんどん人が流出していき、深刻な過疎化を迎えているらしい。
「以前は獰猛な獣などを帝国兵が巡回して討伐してくれておったのだが、今はもう帝国兵すら簡単には出歩けん状況でな。命からがらここまで来てみれば、関所でえらく時間をとられてのう。腹が立っておったところに、この若造が汗を撒き散らしながら演武をしておって、それでワシの顔にその汗が付着したんじゃ」
ーーどんな激しい演武だよ…
「んでまぁ、汗なんて細かい気にすんなよってことで喧嘩になっちまったんだけど、オッサンが思ったより強くて、結果的にはいい稽古になったってワケよ!」
汚物を見るような目でグレイスは無駄な騒ぎを起こすなと麻生を説教しているが、この時、セシルには死相を予知するヴィジョンのスキルが発動していた。
ーーここに…魔獣が攻めてくる…
前へと突き出した角に雄牛のような佇まい。その魔獣の群れがここに目掛けて突入してきて、商人や兵たちを次々と屠っていくーーそんな映像が見えた。
「みんな!!ここは間も無く魔獣の群れが押し寄せてくる!!急いで避難するんだ!!」
セシルは力一杯に叫んで辺りの人間に呼び掛けたが、何の前触れも無しにそんな信じがたい話を誰が信用するだろうか。商人たちは怪訝そうな顔でセシルを見ており、動こうとしない。
「おぬしらー!!この少年の声が聞こえんのか!!魔獣の恐ろしさを知らんのか!!死にたくなかったらさっさとここから逃げんか!!」
ドワーフの男からの思わぬ援護射撃。怒号ににも似た警告でようやく危機を感じたのか商人や冒険者たちは慌てて関所から離れるように走り出した。
「セシルさん!本当なんですか!?」
「お前が言うならマジなんだろ。数はどれくらいだ?」
「お前たち戦う気なのか?フン!面白い!ワシも手伝うぞ!!」
なぜか麻生と殴り合っていたドワーフの男も協力する形で、魔獣の群れを帝国領側で迎え撃つことになった。
「数はたぶん20〜30。角による突撃が攻撃の型っぽいけど、動きが速そう。気をつけて!」
そして、間も無く地平の彼方から砂煙が舞い上がるのが見えた。魔獣は一目散にここを目指して走ってきている。
セシルは大鎌を手元に呼び出し、グレイスは弓を構えた。ドワーフの男は鉄製のハンマーを手に持ち臨戦態勢に入る。
「グレイスとオジサンは討ち漏らしたやつが関所を通らないようにお願い!ジン、僕たちは前線で片っ端から殲滅!」
「おしゃ!ばっちこい!!」
セシルと麻生は突撃してくる魔獣に向かって駆け出した。両手で握った大鎌を棒術のように目の前で高速回転させ旋風を起こすと、前方向に向かって竜巻が飛んでいく。突き抜ける竜巻によって魔獣たちは四方八方へと飛ばされていく。宙に浮いた魔獣たちを麻生はスキルを使って時間の流れを低下させ高速移動しながら次々と急所をひと突きしていく。
麻生のスキルの効果が終わると、魔獣の8割は一気に消滅した。
「な、なんじゃあの若造!!ワシと殴り合っておった時より数段強いではないか!!手加減しておったのか!」
「すごい…2人ともこれほど強くなっていたなんて…私も負けてられません!」
グレイスも雷魔法をエンチャントさせた矢を何本も同時に放ち始める。3人の活躍によって、ものの数分で魔獣は全滅した。
「みんな、お疲れさま。2人ともすごいよ」
「いやいや、セシル。おめぇが一番ヤベェよ。そんなでけぇ得物でよくそんなに器用に立ち回れるな。天才かよ」
「はは…まぁ、元・神サマだからね」
「おぬしら!!何者だ!!ワシの出る幕が全くなかったではないか!」
「いや、逆に出番なくて良かったじゃねぇか…わざわざ危険に身を晒す必要もねぇだろ?」
「ぐぬぬ…生意気な若造め…」
騒動が落ち着いたのを察して関所の兵たちがセシルの元にやって来た。
「ありがとうございます…本来、我々が成さねばならなかったことなのに。あの、お礼にもならないですが、先ほど手形も見せてもらいましたし、信頼に足る方たちとお見受けしました。どうぞ、このままお通り下さい」
「ほんとに?ありがとう。助かるよ」
予期せぬアクシデントを鎮静化させたことで思わぬ幸運を得たセシルたちは、馬車に戻り関所を抜けた。馬車が走り出すと、後方から短い脚で必死に追いかけてくる人影が見えた。
「ん?オッサン!?何してんだよ!?」
「待たんかい!!ワシもお主らと共に行く!!乗せてくれ!!」
あまりに必死に追いかけてくるその姿に、仕方なく御者に頼んで馬車の足を止めた。
「オッサン逆方向だろ?どうしたんだよ?」
「お主ら、帝国領は初めてなんだろ?ワシはお主らのことが気に入った!案内してやるぞい!」
「セ、セシルさん…どうします?」
「いいんじゃない?案内してもらえるなら助かるし」
「うむうむ!話のわかる少年だ!ワシはドレイク・ダンドルフ。よろしく頼んだぞ!!」
こうして、汗くさいメンバーがまた1人増え、セシルたちは無事、帝国領に入ることが出来た。目指すアリューアル砂漠までは馬車で2日ほどの場所。過酷な砂漠越えの旅が今始まる。
男率がまた上がってしまいました、、、
せっかくこないだまではリエリカにパンドラにグレイスと女率が高かったのに。
砂漠という暑い場所に汗くさい男たち。
次回から男汁200%でお送りしたいと思います←読む気せんて




