第二十七話 悪魔の王
バタバタしすぎて体調崩して
更新が遅くなりました、、、(言い訳)
セシルたちが修練窟の神殿で試練に挑んでいる頃
エルフの里の危機を伝えるために王宮に戻ったヘルメスであったが、、、
ここはヴァルハラ王宮。この王宮の兵士たちが利用する食堂で物思いに耽っている者がいた。
ーーはあぁ…オリュンポスに帰りたいっす……
ウルド帝国三魔将、ルナ・ディアスに襲撃されたエルフの里から危機を報せるために王都まで全速力で走ってきた神の使者、ヘルメスである。
ーーいくら足の速さが取り柄とはいえ、メレルの森から王都までとか無茶しすぎたっす。明日は筋肉痛、確定っす。いつまでこんなことしてなきゃならないんすかね…タナトスがさっさと悪魔を殲滅してくれりゃ俺もお役御免になってオリュンポスに帰れるんすけどねぇ…はぁぁ…まだ60体以上もいるのに殲滅って、一体いつになるんすかねぇ……
麦酒片手にソーセージにかぶりつきながらネガティヴ全開で考え事をしていると、食堂の扉が開いて数名の兵士たちが入ってきた。
「おい、知ってるか?近頃、噂になってる墓荒らしの件。あれ、魔導士団の奴らが関わってるとかって話らしいぜ」
「マジかよ。王族の墳墓で墓荒らしするならまだわからんでもないけど、それってただの共同墓地が荒らされたってやつだろ?」
「ああ、それそれ。墓が荒らされたその日の深夜、魔導士団の兵舎に布に巻かれた大量の荷物が運ばれてるのを見たって、見回り番のアドルフが言ってたんだよ…それにな、魔導士団長のマリアル様は魔法の研究のしすぎで禁術にも手を出しているとか何とかって」
「おい、待て…よせ。人がいる…」
国防の双璧を成す片翼、魔導士団の不穏な噂。それがもし事実なら、王国内部の瓦解にも繋がりかねない。噂話とはいえ、そんなセンシティブな内容を部外者に聞かれさすがに肝を冷やしたのだろう。兵士たちはバツが悪そうにヘルメスの対角線上となる隅の席に背を向けて座った。
ーーいや、気づくの遅くないっすか…話の内容ほぼ丸ごと聞こえ終えてるんすけど。別にチクったりしないからそんな怯えんでも。…にしても禁術に墓荒らし……とっても嫌な組み合わせっすね。
ヘルメスは残りのソーセージを口に放り込んで兵士たちの話など興味なさそうに何食わぬ顔で麦酒を呷ってすぐに席を立った。
ーー墓荒らしのあった日に兵舎に運び込まれた大量の荷物。それが遺体だったとしたら禁術の中で当てはまるのは降霊魔術…死体を傀儡として操る、俗に言うネクロマンシー。きな臭いっす。とりあえず魔導士団の兵舎を覗きに行ってみるっすかね…
食堂を出て廊下を歩き王宮の敷地内にある騎士団の兵舎とは真逆の方角に位置する魔導士団の兵舎にやってきたヘルメスは、不審人物丸出しの動きで兵舎の中の様子をこそこそと窺いだした。
ーー不自然なほどに誰もいないっすね。はて…地下の方から微弱な魔力の流れを感じるような?
幸い、兵舎の扉は施錠されておらず、ヘルメスはしれっと中へと忍び込み、地下に降りられそうな場所を探した。しかし、1階でそのような場所を見つけることは出来なかった。他に何か手掛かりがないかと2階の魔導士団長であるマリアルの部屋にやって来たヘルメス。
ーーふむ、一見した感じは降霊魔術に関する物は何もなさそうっすね。大量の荷物が運び込まれたという割には兵舎のどこにもそんな物はなかったし、やっぱり地下が怪しいっす。どれどれ…ん?
魔導書がたくさん並んだ本棚。そこに一冊だけ上下逆に差し込んである書物があった。如何にも怪しげなその状態にヘルメスは手を伸ばしその本を抜き取った。
ーーあれ。何も反応しないっすね…普通はこういう時って、本棚が横にズレて隠し扉とか出てくるもんじゃないんすか?ただの差し間違いっすか?
何の変化も見られない部屋の様子に、ヘルメスは一旦抜き取った本を正しい向きにして本棚に戻した。
すると、本棚が横にズレて中に昇降機らしき物が現れた。
ーーやっぱセオリー通りかい!ともあれ、1階からではなくあえて2階から直通で地下に下りる昇降機とは…手の込んだ偽装っすね。ますます怪しいっす。
ヘルメスは引き戸式の扉を開けて昇降機に乗り込むと、カタカタと音を立てながらゆっくりと下降し始めた。
ーーさてさて、鬼が出るか蛇が出るか…
しばらく降下してようやく昇降機は最下層に到着すると、むき出しになった岩肌の洞窟のような場所に出た。人の気配はない。一本道が奥に続いており、ヘルメスは音を立てないように壁に沿って歩いていく。
王宮の地下にこんな人の手が入っていない洞窟があることを王宮の人間は知っているのだろうか。一歩進むたびに魔導士団への疑念が増すばかりであった。
ーん?あれは…
道の先に蝋燭の明かりが揺らめいており、話し声が聴こえる。ヘルメスはより慎重に足を進め、明かりの手前まで来て聞き耳を立てた。
「マリアル様、準備が整いました」
「ご苦労さま〜。じゃあ、始めようかしら〜」
中の様子を窺ってみると、部屋の中に魔法陣が描かれておりその中央に鎖に繋がれた1人の全裸の男の姿が見えた。
「は、放せ!!敵国の魔導士風情が貴族であるこのシシュフォスに何をするつもりなんだ!!」
ーー死体じゃない!?それにシシュフォスだと!?タナトスを監禁していたあの性悪貴族か!あいつは軍神アレスがタナトスを救い出した時に屠ったと思ってたっすけど……いや、そうか!タナトスが囚われていたのだから死ねる訳がない!不死の身体のまま生きながらえていた…って、まさか……
「遥かなる次元の彼方、ソロモンの牢獄に封ぜられし堕天使よ…魔導士マリアルが今この地オルテシアへと誘おう。我が呼び声に応えその御魂、この罪深き死肉へと宿りたまえ」
ーー悪魔召喚っ!?バカな!?ただの魔導士に悪魔を召喚できるはずが…それに72柱はもう顕現……いや、そんな情報をどこで聞いた訳でもない。思い込んでいただけだった…悪魔はまだ72柱全てが地上に顕現していた訳じゃなかったのか!!
もはや最悪の事態に表向きのキャラの口調も忘れてヘルメスは戦慄していた。マリアルの詠唱はまだ続いている。今ここで止めなければ、王宮に再び悪魔の侵入を許してしまうことになる。
「端緒たる日出る地を治めし悪魔の王、バエル。今ここに顕現せよ!!」
ーーバエル!!72柱全てを知っている訳じゃあないが、俺でも知っている…序列1位、原初の悪魔バエル!!急いでゼウス様に報告しなければ…
「そこにいるのは誰かしら〜?」
ーーしまっ!?気付かれたか!
魔導士が数名と団長のマリアルに単身で抵抗は難しいと考えたヘルメスは両手を挙げて無抵抗をアピールしながら岩陰から姿を晒した。
「こ、こんにちは!街の情報通、メルクリスっていいます!よからぬ噂のある魔導士団さんの真相が知りたくてここまで来ちゃいました!ごめんなさい!」
「…………は?」
ーーやはりダメか…
その場にいた全員が唖然としている。怪しすぎるなんてものではない。明らかに不審者でしかないヘルメスを魔導士たちは疑うことを通り越して思考停止しているのだ。
「それはぁ…どんな噂なのかしら〜?」
思わぬリアクション。この状況で話に乗ってくれるというのだろうか。しかし、マリアルの不敵な笑みはより不気味さを際立たせていた。
「共同墓地の墓荒らし…それをやったのが魔導士団……って噂です…」
「ああ〜それね〜お招きするお客様は高貴なお方なのよ〜だから、従者はたくさん必要でしょお〜?仕方なかったのよ〜」
ーーなるほど…バエルが降霊魔術の術者ということか…最悪な誤算だ…
「好奇心がありすぎるのも考えものよねぇ〜とりあえず、知られたからには黙っててもらおうかしら〜永遠に」
「くそっ!俺戦うキャラじゃないってのに!!」
ヘルメスはなんとかこの場を切り抜けようと、自身がかろうじて使うことの出来る低級の攻撃魔法を放とうとした。しかしその時、胸を締め付けるような強烈なプレッシャーとともに声が響き渡った。
「……吾輩をこの地に顕現させし者、前へ出よ」
魔法陣の中央にいたシシュフォスの姿は完全に別の生命体へと変わり果てていた。醜く脂ぎった肌は石膏のように白く、締まりのなかった身体は引き締まって筋肉質に、うぶ毛しかなかった頭部からは白く長い髪が、人の形をしているが明らかに異質な存在感。
「ああ〜バエル様〜ようこそおいでくださいました〜わたくし、マリアルが招待させていた…」
ヘルメスを無視し、降臨した悪魔の前に嬉々として前に出て自己紹介を始めたマリアルの首が宙を舞った。
ーーくっ、愚かな。人間が悪魔を御せる訳がない。今のうちに脱出しなければ…
踵を返し、走り出そうとしたヘルメスであったが、真後ろから声が聞こえる。
「待て。貴様、オリュンポスの神だな。どこへ行く?」
背筋が凍りつくようなドス黒い気配。蛇に睨まれたカエルのように身動きが取れない。それでもここにいては確実に危険。ヘルメスは力を振り絞って振り向くと同時に風魔法を手刀にエンチャントして、振り払い風の刃を放った。刃はバエルに触れた瞬間、春風のように辺りに霧散した。
ーー無傷っすか…終わった…かな。
無表情のままバエルは人差し指を軽くヘルメスの額に突き刺した。
「ネズミは大人しくしていろ」
突き刺さった指先からヘルメスの皮膚が灰色へと変色していく。それは一瞬にして全身に拡がり、ヘルメスはその場で彫像のように石と化した。
マリアルが一瞬にして殺害され、ヘルメスは石にされたその様子を見ていることしかできなかった魔導士団の兵たちは壁に張り付いて震えている。
「……ゴミめ。我が血肉となることを赦してやろう」
洞窟内に兵たちの断末魔が響き渡り、魔法陣のあった部屋は血飛沫で紅く染まった。返り血を浴びた白い悪魔はルージュのように口元を特に紅く染め、満足そうに両手を広げ魔力を放出した。
王宮全体を激しい揺れが襲い、魔導士団の兵舎の建っている地面は崩落し、一瞬にして地中へと沈んだ。
主人公の出番なしという、、、スピンオフかよ。←違います
ヘルメスの"〜っす"っていうのは本人的にキャラを作ってる状態なんですけど、神の威厳を示す時と、テンパってる時だけ素に戻ります。←石になっちゃったけど
次回からセシルたちの生命水を求めての旅が始まります〜




