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第二十六話 メメント・モリ

兄である死神タナトスの復活を願い、麻生の魂を刈り取ったヒュプノス。

その凶行を止めようとセシルがヒュプノスに戦いを挑む。


 タルタロスへのゲートを開いた瞬間、セシルが飛び出してヒュプノスに掴み掛かってきた。


「に、兄さん!?」


「ヒュプノス!ランタンを渡すんだ!!」


 しかし、ヒュプノスが答えるよりも先に、その奥にいたリエリカたちの姿と横で倒れている麻生の姿を見てセシルは悟った。


「ヒュプノス…奪ったのか……ジンの魂を…!!」


「……兄さんのためだよ」


 セシルの手を振りほどいてヒュプノスはランタンを懐に隠した。いつもは慕うように兄を見つめるヒュプノスが、今は反抗的な目で睨みつけてきている。


「セシル君は私たちと同じく石に吸い込まれたはずじゃ…パンドラさん、これは一体…」


「わ、妾にもわからぬ…しかし、ヒュプノスが戻ろうと開いたゲートの先は、おそらくあやつらの住むタルタロス。タルタロスは普通の転移魔法では行くことはできぬ。神のみが使える特殊な転移魔法でないとな…そして、神でなくなったセシルがそこにいたということは、やはり石の力で飛ばされて今も試練の最中なのかもしれぬ。仮想空間ではなく現実に飛ばされるなど聞いたことがないがの…どうなっておるのじゃ……」


 睨み合いを続ける兄弟であったが、セシルが先に魔剣を抜いた。


「兄さん…本気なのかい?こんな人間のために…?」


「僕も今は人間だ。大人しくランタンを返してくれれば、手は出さない」


 ヒュプノスは落胆し、身体中に魔力を込め始めた。途端に辺りに霧が立ち込め、ヒュプノスの姿が見えなくなった。


「ここは推し通らせてもらうよ…ペイン・ナイトメア」


 ヒュプノスが呪文を唱えると、セシルやその場にいたリエリカたちの全身に激痛が走る。


「……くっ、幻覚魔法か…」


「あ、あの神め、妾にまで魔法をかけよるとは…忌々しい!」


 痛みに身を強張らせながらもセシルは魔剣で自分の掌を突き刺した。幻覚の痛みを本物の痛みで相殺することで魔法からの呪縛を解き、ヒュプノスの魔力を感じる方へと走った。そして、霧を裂くように魔剣を薙ぎ払うと、霧が晴れヒュプノスの姿が現れ、ランタンが床に転がり落ちた。斬撃を食らったのか、ヒュプノスの右腕からは血が滴り落ちている。

 セシルはランタンを拾い上げ、魔剣をヒュプノスに向けた。


「もういいだろ、ヒュプノス。僕のことを心配してくれるのは嬉しい。でもこんなやり方、らしくない。僕は全ての悪魔を倒して力を取り戻す」


「くっ…72体もいるのに、そんなこと本当に実現できると思っているのか、兄さん!ゼウスはきっと無理難題を兄さんに押し付けたいだけなんだ!悪魔のせいで冥界の枯渇しつつある魂をハデス様に渡せば、ハデス様が直々にゼウスを説得してくれる!」


「……なんだよ、それ。そんな話、初耳だぞ。ほ、本当なのか…?」


 ヒュプノスは感情的になりすぎたせいでうっかり口を滑らせたと口を抑えた。


「なるほどのう…ハデスの指示じゃった、という訳か」


「セシル君!とにかく今はランタンに取り込まれたアソージンの魂の解放を優先させるんだ!」


 リエリカが叫ぶ。たしかにここで考えていても仕方がない。セシルは奪い取ったランタンに魔力を流し込むと、ランタンの中から飛び出た青白いモヤが麻生の身体へと戻っていく。


「ぶはっ!!え!?俺、今、死んでた!?」


「あ、ああ…よく戻ったな。おかえり」


「兄さん…後悔しても知らないよ。僕はもう兄さんの手助けはしない…」


 麻生の魂を取り返され、もはや圧倒的不利な立場に追い込まれたヒュプノスは悔しそうに開いたままのゲートに入り、捨て台詞を吐いてその場からゲートと共に消え去った。

 緊張感に包まれていた神殿内がようやく落ち着いた空気を取り戻す。


「ジン、すまない。弟の粗相を許してほしい」


「構わねーよ!死ぬのは慣れてっからな!!」


「そんなの慣れんでよいわ、バカ者が」


 ーーまったくよ。心配させないでほしいわ


 しかし、セシルの試練の結果はどうなるのかーーこの結末は果たして正解だったのかと、皆が心の中で思案していると、突如としてセシルの持つランタンと魔剣が眩く輝き始めた。やがてその2つは光の中で混ざり合い1つとなってセシルの背丈ほどある大きな鎌へと形を変えた。


"死を司る者よ。迷いもなく魂を運ぶことを使命とし、これまで刈り続けてきたお前は近しい者の死に直面してようやくその生命の重さを知った。死は平等に訪れるが、そこに至るまでの過程を尊重することも忘れてはならない。その魔鎌メメント・モリはお前を死神だった頃と同等の力を呼び醒ます。その力で真なる闇を討ち払うことを願う"


「今の声は…真なる闇って…」


「お、おい、セシル…お前の武器、えらく物騒なのに様変わりしたな…」


「破壊力は剣より増しているだろうが、得物が大きくなったことで立ち回り方が難しくなりそうだな」


 セシルの新たな武器に皆は興味津々であったが、一人だけ浮かない顔をしている者がいた。


「セシルよ。先ほどのヒュプノスの話じゃが…何かウラがあるとは思わんか?」


「うん…僕もそれは感じた。ハデスがヒュプノスを唆した…ってことだよね」


 冥界に死者の魂を運ぶ役目を担っていたタナトスが不在となり、冥界に魂が枯渇しているというヒュプノスの話から、ハデスはヒュプノスに魔導器ソウルイーターを託し、魂を刈って来させようとしていた。そこにタイミング良くパンドラの石の試練でタルタロスにセシルが現れた影響でハデスの計画に誤差が生じた。


「ただ魂を集めるためだけにヒュプノスを唆しただけなら良いのじゃが…他の思惑があるやもしれんの…。ともあれ、試練はこれで全員終了したことになる。全員無事に帰ってくるとは思わなんだが、ようやったのお主ら」


「やれやれだぜ。つーかよ、強くならねぇとここを出られないってふわっとした縛りあったよな…結局どうなんだ?俺ら、強くなった判定クリアしてんのかよ?それにこれ…また来た道を戻らねぇとダメなのか?ダルすぎんぞ…」


「安心せい。石の試練をクリアすることがここを出られる条件じゃ。それに地上まで転移魔法陣ですぐに戻れる。しばらくここには誰も来んじゃろうし、しばしの間、妾もお主らに付き添ってやるかの」


「おお、それは心強い!」


「あ、あの!だったら早く地上に戻りませんか…」


 グレイスは思い詰めた顔をしている。皆、試練で忘れかけていたが、修練窟の道中で襲撃してきた三魔将の1人、ルナ・ディアスによってエルフの里は大きな被害を受けていた。ずっと気に掛かっていたのを我慢してここまで来たのだ。焦るのも無理はない。


「うん、急いで戻ろう」


 パンドラを加えた5人はパンドラの案内で隠し扉を抜けた部屋にある転移魔法陣で、地上の比較的エルフの里に近い場所へと転移した。里へ戻る森の道中、パンドラは更に疑問に思っていたことをセシルに確認した。


「お主、そもそも神の力を失くす原因となったのはゼウス様の雷に打たれたからじゃろ?何故そのような仕打ちを受けた?」


 セシルはシシュフォスという人間の魂を回収しに向かった際に罠にはめられ軟禁され、その影響で人間が不死者になったことを原因に挙げた。


「ふむ。して、そのシシュフォスという男は死亡予定があったのかえ?」


 死亡予定者リストに則って魂を回収していたが、よく考えればシシュフォスはリストに名が載っていなかった。ハデスに呼ばれ、回収を依頼され向かったにすぎない。


「いや、ハデス様に回収を依頼された……」


「やはりな。お主、ハデスに嵌められたのではないか?」


 しかし、そうなってくると矛盾が生じる。シシュフォスがセシルを軟禁したことで人間は不死者となり、悪魔がそれを利用して地上に顕現した。そうなれば魂の回収は出来なくなる。魂を欲するハデスにとっては自らの首を絞める結果になってしまうからだ。


「そうとは限らんじゃろ。現にハデスは魂が枯渇する冥界から全く動こうとしておらぬではないか。本当に必要であれば、何らかの対策を取っておるはずじゃろ」


「……たしかに。でも今思えば、記憶が戻る前、一度だけハデス様から念話があって、人間に扮している悪魔を見破るスキルを与えられたことがあるけど…」


「ほう…では、悪魔を殲滅してほしいのはハデスも同じようじゃな。となれば、悪魔を滅することでハデスが何か得をする仕組みがあるかもしれぬぞ?」


 隊列の後ろでパンドラとセシルの話を聞いていた麻生たちは内容のスケールが大きすぎて若干引いていた。


「ハデスってアレだろ?冥界の王とかいう…もしそんなヤツが黒幕だったらヤバくねぇか?」


「だな…ハデスはゼウスの兄で、神の中でも最高位に近い。悪魔だけでも厄介なのに…セシル君はどうするつもりなんだろうな」


 そんな話をしている内にエルフの里が見えてきた。グレイスは走り出して里の中へと駆け込んでいく。それに続いて麻生とリエリカも後を追った。

 里の様子は酷い有様であった。地面やエルフたちの居住用の大木が何棟も抉られたような痕があり、一部は折れて倒壊しているところまである。その中でラグナス王国騎士団の兵たちが忙しなく動き回って瓦礫の除去や救助活動を行なっていた。グレイスは一目散にテントが張られた臨時の治療所へと入っていく。


「レイアーク様!」


 ベッドに横たわるレイアークは意識がなく、全身の至る所に包帯が巻かれた痛ましい姿にグレイスは涙を浮かべながらレイアークの手を握った。

 治癒魔導士の話では、発見された時点で全身に酷い火傷を負い瀕死の状態であったという。治癒魔法で何とか一命は取り留めたものの、まだ油断は出来ない状態とのことだった。不幸中の幸いとも言うべきか、死者は出ていない。しかし、里の住民たちは皆、生気を吸われ年老いた姿へと変えられてしまっていた。


「……あの悪魔…許さない…っ!」


 テントに入ってきたセシルたちはテントの中の惨状にグレイスに掛ける言葉もなく、ウルド帝国の三魔将にまたしてもやられたという強い悔恨だけが胸を締め付けた。


「おや、お前たち、戻ってきていたのか」


 テント前を通りかかったのは、騎士団長のダンであった。まだ完治していない身体にも関わらず、兵たちを率いて救助に駆けつけてきたという。


「しっしょー!大丈夫かよ、そんな身体で来て」


「ん?ああ、問題ない!身体の頑丈さだけが取り柄だからな!」


 ダンが言うには、治癒魔導士たちでも老人に変えられてしまった里の者たちを治す術は持たないとのことだった。これをやった悪魔に生気を注ぎ直させるくらいしか治療方法がないらしい。


「いや、もう一つだけ方法があるのう。ここから遥か西…ウルド帝国領内のアリューアル砂漠に希少種"アストロペクチ"というサボテンが生えておる。この砂漠は魔力の濃い場所でな…その影響でサボテン内に含まれる大量の水分は魔力によって変異しておっての…"生命水"と呼ばれておる。それを飲ませれば、おそらく元の姿に戻れるはずじゃ」


 しかし、その砂漠には魔力汚染で魔物化しているサソリが大量に生息しているらしく、誰も寄りつかない場所とのことだった。


「んじゃサクッと行こうぜ!せっかく強くなったんだ。腕試しにはおあつらえ向きじゃねぇか!」


「うん。僕のせいで里が襲撃に遭ったも同然だし、必ず生命水を手に入れて皆を助けよう」


「セシルさん…ありがとうございます」


「私も同行したいのだが、すまない。砦の復興もままならない現状、王都の守りもあるし私が王国領を出ることは叶わない。託しても構わないか?」


「妾も砂漠のような劣悪な環境の場所には行きたくないのう。ここで負傷した女王の代わりに結界を張る役目を引き受けようかの」


 こうして、王都に戻るリエリカと里に残るパンドラの2人が離脱し、セシル、麻生、グレイスの3人で敵地となるウルド帝国領のアリューアル砂漠へと生命水を求めて旅立つのであった。

メメント・モリというのはラテン語らしいのですが"死を忘れるな"という意味があるそうです。

一見、なんのこっちゃ?となる言葉ですが、いずれ誰しも死が訪れるのだから、それを忘れることなく毎日を精一杯生きなさいというポジティブな意味合いがあるそうな、、、


ライオン・キングでいうハクナ・マタタと同じですかね!←適当

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