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第二十三話 眠れる獅子

パンドラの石 グレイス編

グレイスはエルフの里で目を覚ましたが、何やら身体に異変が起きていた、、、


 パンドラの石から一番乗りで試練を乗り越え、皆を待つ間、暇だからと神殿で筋トレを始めた麻生。その姿にパンドラがちょっぴりイラついている頃ーー



「私はいったい…。神殿にいたはずなのに、里に戻ってきている…」


 独り言のように呟いたグレイスは、自分の声に異変があることに気がつき、自分の身体を見下ろした。


 ーーえ、ち、小さくなってる!?


 グレイスの身体は7〜8歳の少女のように幼く若返っていた。しかし、不思議なことに服装も年齢に合った服に変わっている。何が起きたのかわからず混乱していると、里の長であるレイアークがやってきた。


「グレイス、今日から貴女も魔法訓練に参加するのですから、こんなところで油を売っていないで、そろそろ支度しなさい。いいですね?」


 ーー魔法訓練!?そんな…これって……


 グレイスは青ざめた。エルフの里に生まれた者は8歳から本格的に魔法のノウハウを学ぶべく、学校のような場所で訓練を行なっている。生まれながらに高い魔力を持つ種族が故に、誤った使い方をしないための指導を受けるのだ。


「レ、レイアーク様!私、魔法は……」


 グレイスの言葉を聞く前にレイアークは去っていってしまった。どうして8歳にまで時間が戻っているのかわからないまま、グレイスは重い足取りで訓練所に向かった。

 訓練所に入ると同い年の子たちがすでに4人集まっており、グレイスの到着を待っていた。


「グレイスおっせーな!ちこくだ、ちこく!」


「はいはい、静かに。それではグレイスちゃんも来たことですから、そろそろ始めましょうか」


 先生らしき人物が皆を集めて、攻撃魔法の基礎となる4属性の魔法の講釈を軽く語り、グレイスの憂鬱などお構いなしに実践へと移ることになった。


「はい、ではまずシレーヌちゃん。この松明に火を灯すイメージを頭の中で練って、火魔法を撃ちましょう」


 皆が次々と先生の指導通りに魔法を発動させていき、グレイスの出番が回ってきた。


「せ、先生!私、魔法はつか……」


「はい、グレイスちゃんはそこの紙吹雪を舞い上がらせるように風をイメージして風魔法を撃ってみましょうか」


 言い淀んだグレイスの言葉は届かず、前に立たされた。グレイスの表情がどんどん曇ってゆく。仕方なく言われた通りに頭の中で風をイメージし、手を伸ばした。


「シルブリーズ!」


 グレイスは祈るように強く念じて詠唱したが、紙吹雪はおろか埃ひとつ舞い上がることはなかった。静まり返る訓練所。そして1人の男の子が笑い出した。


「グレイスだっせぇ〜の!へたっぴかよ!」


「コラ!茶化さないの。グレイスちゃんは少しイメージするのが苦手なのかしら…木々の葉がなびいたり、落ち葉がふわりと舞うイメージよ。さ、もう一度がんばって」


 自分には魔力が皆無で魔法は使えないということがわかっているだけに、先生の激励がより一層グレイスにプレッシャーを与え惨めにさせた。

 それから何回か繰り返したが、やはり何も起きなかった。徐々に周囲の空気も事の深刻さに笑えない空気へと変わっていき、顔に不安感を滲ませながら先生は魔力計測器を取り出してグレイスの腕を掴み魔力値を測ろうとした。


「や、やめて!測らないで!」


 測定器の針は一瞬ブレるように動いたものの、0のところで止まっている。グレイスは目を潤ませながら訓練所を飛び出した。泣きながら里を走っていくグレイスの姿を見かけたレイアークは訓練所を訪れ、何があったのかを尋ねた。


「そんな…グレイスに魔力が……」


 グレイスのことを思い、この事は他言無用と先生に釘を刺したレイアークではあったが、狭いコミュニティというのは残酷なもので子供たちから大人へとすぐに広まり、グレイスは里の落ちこぼれとして皆が認識するようになった。

 "一族の恥"と後ろ指さされ、親でさえもグレイスに強く当たるようになり、やがてグレイスは家を出た。そのことに心を傷めたレイアークはグレイスを引き取ることにした。


「グレイス、皆が何と言おうとも魔力がないことを恥じることはありません。魔法が使えないのなら、別の方法で誰よりも強くなれば良いのです。明日からは弓の訓練を私としましょう」


 レイアークの言葉に救われたグレイスであったが、依然として里の者からは腫れ物扱いされ続けた。それでもグレイスは来る日も来る日も弓の練習を続け、命中率の精度は間違いなく里で一番の弓の使い手となった。


 そんなある日、魔物が里を襲撃してきた。その魔物は元は森に生息する巨大ムカデであったが、魔力汚染による変異種で凶暴化しており、次々とエルフたちを襲った。里を守護する衛兵も歯が立たず入口でやられており、里の男たちも魔法で応戦したが強固な外骨格に守られた身体には効果がなかった。


 里の裏手の広場で弓の訓練を終えて戻ってきたレイアークとグレイスはその惨状を目にして、すぐに参戦した。レイアークは強力な魔法を放つが、やはり魔法は効かなかった。グレイスも木に登り高所から弓を放ち続けるが矢尻が刺さらず弾かれてしまう。


 ーーああ、私は何をしているのだろう。セシルさんについて行き里の外に出れば何かが変えられると思っていた。でも、魔力のない私など弓が通じない相手に遭遇すれば、この通り何の役にも立たない無能。やっぱり足手まといにしかならないんだ…


 絶望的な状況であったが、さらに追い討ちをかけるように不幸が襲う。偶然その場に居合わせたグレイスの母親に魔物が襲い掛かろうとしていた。


「お母さん!!」


 ーーまただ。私はまた、お母さんを守れないんだ……


 必死に矢を弾き魔物の注意をこちらに向けようとするが、もはや手遅れだった。グレイスの母親に魔物の毒牙が迫ろうとしていたその時ーー


 ーーいや!!ミドガルズオルムにだって立ち向かえたんだ。私はもう昔のように落ちこぼれじゃない!今だけ…どうか今だけはこの手に魔力を!!


 グレイスの強い思いが風を起こし雷鳴を轟かせる。稲妻が身体を覆っていき、その雷は弓と矢にまで伝播していった。


「穿てっ!!レオボルト・レイ!!」


 放たれた雷撃の矢は魔物と同等ほどの巨大な幻獣のように獅子の形に姿を変え、魔物の身体を貫き大きな風穴を開けた。

 呆然と腰を抜かして座り込むグレイスの母の前で魔物は塵と化していった。


「お母さん…よかった……」


"風魔法の派生、雷魔法を操る気高き者よ。ここで経験した出来事はあくまで別の世界線。本来はお前の母はこの時、魔物に殺されておりその事実は変わらない。だが、この経験を経てお前は内に眠る強大すぎる魔力をようやく開花させた。この力を以てこれから起きる苛烈な戦いを終わらせるのだ"


 頭の中に語りかけてきたその言葉はやがて聞こえなくなり、グレイスは気を失うように倒れ込んだ。


 しばらくして目を開くと、麻生が心配そうに覗き込んでいた。


「……あの、不愉快だから顔を退けて」


「お前なぁ…心配して看病してやったのに、最初の一言がそれかよ…かわいくねーな」


 グレイスはパンドラの石から帰還してすぐ気絶したため、麻生が慌ててパンドラの寝室に運んだのだという。数分もしない内に目覚めたのは、初めての魔法を魔力全開で"ブッパ"したため気を失ったのだとパンドラは言っていた。


「私…魔法が使えたんだ……」


「よかったじゃねーか!これで落ちこぼれ卒業だな!」


 麻生の裏表のない笑顔につられてか、グレイスは大人になって久しぶりの笑顔を見せたのだった。

この作品を執筆し始めて、初めてキレイに終われた気がします、、、笑顔、いいですね!!←少しテンションおかしい


次はリエリカ姉さんの出番です。

ヴァルキュリアのリエリカには一体、どんな試練が待ち受けているのか、、、

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