第二十二話 フラッシュバック
ドロ団子こと、パンドラの石に吸い込まれた4人。
気がつくと麻生は全く別の世界にいた、、、
湧き上がる歓声が身体を熱くするーーどこか懐かしい感覚。目の前にいくつも広がるコートの上では素手による戦いが繰り広げられていた。
「いや待てって…なんだよ、これ…こ、ここは…代々木競技場じゃねぇか…セシルたちはどこいったんだ…」
自分のいる場所の違和感にようやく気が付いた。日本だ。神々と悪魔が敵対しているオルテシアなどという、おとぎ話のような場所ではない。東京の試合会場にいる。この規模は全国大会だ。
先程まで地底の神殿にいたはすが、そんなことを考え出す前に背後から軽く肩を叩かれた。
「……っ!?セシル!無事だったか!」
「セシル?何を寝ぼけてるんだ、麻生…ぼうっとするな。次お前の番だぞ。気合い入れて行けよ」
振り返るとガタイの良い見覚えのある中年の男が立っていた。麻生の恩師である土井師範だ。日本を離れ見ず知らずの土地で苦難続きだったこともあってか、久しぶりに見知った顔に出会えて麻生はほんの少し目頭が熱くなった。試合の途中で恩師にろくに別れも言えないまま死に直面して全く未知の世界に飛ばされたのだ。こうして再び会えただけでも幸運だと言える。
会場に放送が流れて自分の名前が読み上げられる。代々木競技場には何度も訪れたことがあるため、以前にも同じ舞台に立っていたような感覚があるが、この既視感は何なのだろう。
コートに入り、立ち位置に立って帯を引っ張り締め直し前を見る。そこでようやく違和感の原因に気が付いた。眼前に立つ対戦相手の姿を見て麻生は戦慄した。この男を知っている。異世界に転生するきっかけにもなった、麻生の首を折った人物であった。
「はじめっ!!」
審判の合図と共に目の前の敵が構えながら進んできて、いきなり上段蹴りを放ってきた。麻生は動揺しながらも左腕でガードしつつ右で正拳突きを放つが相手は右回転してそれを交わすと、その勢いのまま裏拳による回し打ちが顔面に向かってきた。
ーーオイオイ、嘘だろ…こいつ、俺の首に蹴りを入れやがったヤツじゃねーかよ!!
ガードが間に合わず身体を半分捻って左拳で裏拳を相殺した。相手はすぐに正面に向き直り、鷲足立ちから素早く肘による中段突き、拳を突き上げて穿つ連撃の形で攻めてくる。受けるばかりの防戦一方で攻めに麻生は転じることができない。
ーーッのヤロォっっっ!!
麻生は一瞬の隙をついて、下段蹴りを相手のふくらはぎに入れ相手が少し身体を傾かせた瞬間に脚を大きく振り上げて、かかと落としを放った。しかし、ガードされたことで逆に麻生に大きな隙が生まれた。間髪入れずに相手は強烈な回し蹴りを上段から中段の斜めに向かって振り下ろす。
ーーこ、この技はっ!あの時と同じ!?
首筋に目掛けて降りかかってくる蹴り。このままでは死ぬーー麻生は刹那に危機を回避する方法を頭の中で模索した。そして、叫んだ。
「ザ・ワールド・タイムレス!!」
相手のつま先が頚動脈に触れると同時に時が静止した。まさに危機一髪であった。咄嗟の判断があと数秒遅ければ、麻生の首は確実に折れていただろう。
ーーこれって、現実なのか…石に触れて転生する前の時に戻った…なんてそんな都合のいい話じゃねーよな…。
しかし、安堵している暇はない。このまま立っていては時が動き出して二の舞になる。麻生は蹴り下されるであろう場所から2、3歩左にズレて時が動き出すのに備えた。しかし、そこでふと、頭の中に声が響く。
"時を止める外道とも言えるスキル。その力をお前は正しく使い続ける覚悟があるか?"
「な、なんだ?…誰だよ?ったりめぇだろ!セシルたちを守るためならば反則と罵られようが時を止めて起死回生の一手に変えてやる。それが俺の覚悟だ!」
"よろしい。万が一、そのスキルを自己の利益のために使うことがあれば、お前には天罰が下る。そのことをゆめゆめ忘れるな。精進するがいい"
頭の中に響いた声が聞かなくなると、麻生は修練窟の神殿にいた。
「あ、あれ?!戻った…?」
「おや、驚いた…頭の悪そうな童が一番に戻ってくるとはのう。お主だけは戻って来んと思っておったが、意外にやるのじゃな」
キセルを手にしながら驚いて目を見開いているパンドラを前に麻生は勝ち誇ったように言い放った。
「ま、俺にかかればこんな試練、朝メシ前ってことだぜ!!で、俺強くなってんのか?」
「……やはり頭の方は弱いようじゃの。自分でわからぬのか?」
麻生は自分の身体を見下ろしてみるが、筋肉が増量した感じはない。身体に力がみなぎるといった感覚もない。
「えっと…わからん…」
パンドラはため息を漏らして呆れている。キセルの火種を壺に捨てると麻生に近づいてきてキセルの先を麻生の額に押し当てた。
「この石はここ、脳に作用する。内に眠る潜在魔力を解放し高めるのじゃ。ほれ、お主の得意なスキルをどれでもよい。使ってみよ」
「あ、そういう……どれでもって1つしかねーんだけど…」
麻生は言われるままにスキルを発動させるべく軽く念じた。
すると、いつも通り時が静止しパンドラは硬直した。しかし、ふとパンドラがキセルの火種を捨てた壺に目がいった。壺から紫煙がゆるやかにゆっくりと上に向かって糸を伸ばすが如く立ち昇っているのだ。
「えっ!?時が止まってねえ!?」
パンドラの方に視線を戻すと、瞬きがスローモーションのように起き始めている。麻生は訳がわからずパンドラをじっと観察した。瞼が0.1ミリほどの動きで閉じていき、やがて閉じ切ると今度は同じ速さでゆっくりと開いていき白目を経て開き切った。
「スキルが劣化してんじゃねぇか!!」
しかし、数秒の静止時間だったはずが10秒、また10秒と流れていき、1分程度過ぎたところで通常の時の流れに戻った。
「どうじゃ?何か変化はあったかえ?」
「変化っつーか、劣化してんだけど…」
「そんなはずはなかろう。詳細を話してみよ」
麻生は本来、数秒時間を止めるはずのスキルが超スローに変わって、その効果が1分程度に伸びたことをありのままに説明した。
「なるほどのう…それはアレじゃの。スキルが分岐して新しいスキルを得たと考えるべきじゃな。逆算して考えてみよ。とてつもなく速く動ける者は時間が止まって見えるという。お主のそれはその逆で、時間を止めるスキルとは別に、その派生で止まったように感じるほど速く動けるようになった。そして、魔力の消費が時間を止めるよりも少量になった影響で効果時間が伸びた。そうは考えられんか?」
「やべぇ…すげぇ納得した」
パンドラの言う通り、その後スキルの念じ方を色々試した結果、念じ方の強さによって種類の選択が可能であることが判明したのであった。
「お主はとりあえずアホだ。ほんの一瞬、万物を完全に止めて成せること、ゆるやかではあるが動く敵を上回る速さで圧倒して成せること。状況に応じて使い分けられるよう知力の方も上げておくのじゃな」
「言い方…もう少し何とかならねぇのかよ…わーったよ。戦略ってやつだな…考えとく」
その後、スキルを使い過ぎて消耗した麻生はパンドラの案内で奥の部屋で少し休暇しながら、セシルたちが戻ってくるのを待つことにするのであった。
今回は麻生の過去のトラウマとの対峙のお話でした。
パンドラの石は過去や"もしも"の世界を再現させ、そこで本人たちがその障害を乗り越えられるかどうかを試す、というものです。
謎の声の正体は、、、石を創り、パンドラに授けた人。とだけ明かしておきます〜
次回はグレイスさんの出番です。
お楽しみに〜




