第三章 1
九月十四日。日曜日。午前九時。
桂刑事と竹之内刑事は、八王子市美山町の西にあるペンション『王子壮』に来ていた。
昨夜、市内に住む親子の母親の通報があり、すぐに二人はそこへ駆けつけることになった。なんでも、最近、市内で子どもを誘拐する事件と関連があったからである。警察がその事件の捜査を開始してから十日が経っていた。
そのペンションで一人の男が殺害されていた。
「男は四十代くらいだそうで、包丁で背中を刺されていたようです……」
茶髪で背の低い桂が犯行現場の状況を説明する。
「なるほど。その男の身元は?」と、黒髪で背の高い竹之内が訊く。
「持っていた財布から運転免許証が見つかり、おそらく芹沢勇作であることの確認は取れました。それから、ペンションの前に黒のソリオが。レンタカーのようですね。その男が借りたモノで間違いないかと……」
「なるほど。芹沢勇作……というのか。どこかで見覚えのあるような……」
「はい」と言って桂はポケットの手帳を取り、ペラペラとめくる。
「この芹沢と言う男、昨今の児童連続誘拐事件に関与していたと思われます」
桂がそう言うと、竹之内は思い出す。
「そうか! その事件の犯人か!!」
「はい」
「そうか……」
そう言って、竹之内は気付く。
「ということは、ここが子どもたちが誘拐されていた場所か?」
「おそらく。誘拐というよりは、監禁みたいですね」と、桂は言う。
「監禁?」と、またしても竹之内は驚く。
「ええ。さきほど確認したんですが、外の扉に南京錠が掛けられていたみたいです。もう外されていますが……」と、桂が話した。
「ええ、そいつはひどいなあ……」
「同感です……」
「まだ中に子どもたちがいるんじゃないのか? 先に救出しなくては!」
竹之内が思い出したようにそう言った。
「いえ、もう子どもたちはここにはいません」と、桂は指摘する。
「いない? それじゃあ、もう救出し終えたのかい?」
竹之内がそう訊くと、「昨日、子どもたちが全員で脱出したようです」と、桂は真顔で言う。
「ええ、全員で? そりゃあすごい!!」
まるで映画のような話だなと、竹之内は思った。
「ええ、僕も信じられませんよ」と、桂は言って笑う。
「一体どうやって脱出したんだろう?」
竹之内がそう呟くと、「さあ?」と、桂は首を傾げる。
「しかし、まあ、子どもたちが無事なだけでも良かった……」
竹之内は安堵するように言った。
「ええ、本当にそうですね」と、桂も頷いた。
「しかし、一体、この男を誰が殺したのか……?」
そう呟き、竹之内は考える。けれど、犯人が誰かなんてすぐに見当が付かなかった。
「あ」
桂が思い出したように口を開く。
「なんだ?」と、竹之内が桂を見る。
「もしかしたら、子どもたちの中に男を殺害した人物を目撃した子がいるかもしれませんよ?」
そう言って、桂はにやりと笑う。
「ああ、確かに」と、竹之内は納得して言う。
「確か連絡があったのって、そのうちの一人の子の母親でしたよね? ええっと……」
桂はそう言って手帳のページをめくる。「あった! 小木曽励という子です」
「よし! その子や他の子たち全員に話を聴こう!」
竹之内はにやりと笑って言った。




