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 駅から十分ほど歩いて、励はようやく家の前まで来た。

 いつものように玄関の扉を開ける。扉は開いていた。玄関には母の靴があったので、母が家に居ることが励には分かった。

「ただいま」と言って、励はリビングに入る。リビングのソファで母は眠っていた。

 励はもう一度、ただいまと言う。ややあって、寝ていた母が目を覚ました。

「おかえ……って、励!?」

 すぐに励に気付いた母が飛び起きて言った。

「母さん、ただいま」

 励がそう言うと、彼女はソファから立ち上がり、励を抱きしめた。

「励……あんたどこ行ってたの!! お母さん、本当に心配したのよ!」

 彼女は怒りと悲しみと安堵で、励にぶつかるように言う。

「母さん、ゴメン。でも、聞いて!」

 励は母の顔を見て真剣に言った。

「何よ」

「塾があったあの夜、僕、知らない男に()()()()()()()……」

 励が正直にそう話すと、彼女の顔は蒼白(そうはく)になった。

「誘拐? 本当なの……?」と、母は訊き返す。

 励は頷く。「本当だよ。因みにね、誘拐された場所に()()()()()()()()()!」

 励がそう言うと、「羽鳥さん? 誰だったっけ?」と、母が訊いた。

「同じクラスの女子だよ。ほら、塾の前、車の中で話したでしょ?」

「そう言えば、そんなこといってたっけ?」

「うん」

「そっか……。それじゃあ、その子と励が誘拐されてたのね……」

 母はそう言った。

 励は首を振る。「ううん、他に四人」

 励がそう言うと、「四人も!?」と、母はビックリする。

「そう」

「そう……なんだ。それじゃあ、あの事件は本当だったんだ……。なんで励まで誘拐されちゃうの……」

 母は泣きそうな声で言う。それから、まもなく彼女は嗚咽(おえつ)交じりに泣いた。

「でも……でも……、励が……無事に帰って来てくれて……良かった……」

 母は泣きながらそう言った。

「あ、そうだわ! 励が帰ってきたこと学校に連絡しておかなきゃ!」

 しばらくして、母は言った。「あと、警察にも!」

 母は学校と警察へ電話を掛けた。


 一時間後には、励の家に警察官の男性が二人来ていた。

 警察官に誘拐された時の話を詳しく聞かせて欲しいと言われ、励は事情を説明した。

 一通り全ての話をし終えた後、励は男が殺害されたことを思い出した。それについて言おうか迷ったが、やめておいた。「どのように帰ってきたか?」と質問され、男がいない時間を見計らって、子どもたち全員で逃げたと話した。幸い、貴重品は奪われていなかったので、歩いてバス停を探し、バスや電車で帰ってきたことを話した。警察官の二人はもちろん驚愕していた。

 三十分程、事情聴取を受けた後、二人の警察官は帰って行った。

 午後七時を回った頃、お風呂に入った後、励は母に夕飯に呼ばれ、ダイニングテーブルの自分の席に着いた。

「わあ、おいしそう!」

 夜ご飯は励の好きなハンバーグであった。

「でしょ? お代わりもあるから、いっぱい食べてね!」

 母が笑顔で言った。帰って来た時とは機嫌が違う。

「いただきます」

 励は手を合わせて、早速、ハンバーグを一口頬張った。

「うん、うまい!」

 肉汁が口の中で溢れ出し、肉のうまみが感じられた。

「おいしい?」と、母が笑顔で訊く。

「最高!」と、励は親指を立てる。

 久々にまともなご飯が食べられて、励は嬉しかった。しかも、母の手料理である。それから、ご飯も一口食べる。炊き立てのその白いご飯も美味しかった。付け合わせのブロッコリーやニンジンなどの野菜も食べる。その野菜もなんだかおいしく感じられた。

 ハンバーグを平らげて、励はもう一つそれをお代わりすることにした。

「ねえ、母さん」

 ふと、励が口を開く。

「なあに?」と、母は訊く。

「あのね……さっきの話の続きなんだけど」と励が前置きすると、

「誘拐の話? だったら、その話はもうおしまい」と、母が断りを入れる。

 励がためらいながら「ちょっと聞いてほしいんだけど」と言うと、「じゃあ、何?」と母が訊く耳を持つ。

「実はね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 励がそう言うと、母はビックリした顔をする。

「え? 本当なの?」

「うん、本当」

「うそ……」と、母は言葉を失う。

「これって、事件だよね?」と、励は母に訊く。

「ええ……」

「母さん、警察に連絡しなきゃ!」

 励がそう言うと、母は目を丸くする。

「連絡しなきゃって……、励、さっき警察の人に言わなかったの?」と、母が訊き返した。

「うん。さっきは言いづらくて、言い出せなかったんだ……」

 励がそう言うと、「そう。分かった」と言って母は席を立ち上がる。それから母はすぐにダイニングにある受話器を取り、電話を掛けた。

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