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外へ出ると、日差しが励たちを照り付ける。午前十時を過ぎた頃である。何日かぶりの外である。
「家に帰るとはいったけど、一体ここはどこなんだ?」
玄関の前で、早速、翔喜が言った。
「そうよね……」と、羽鳥さんも頷く。
外へ出たのはいいが、誰もここがどこなのかなんて分からなかった。
ペンションの前には黒色の車が停まっていた。その車はあの男のものだろうと励は思った。
「あ、スマホの地図アプリで位置情報を調べればいいんですよ!」
健斗が思い出して言った。
「えーっと」と、健斗はポケットからスマホを取り出して見る。「あ、充電切れだ」
そう言って、健斗はガックリする。
励もポケットからスマホを取り出す。充電はあるだろうか、と見てみたが無いようで使えなかった。
「僕のもダメだ……」と、励は言う。「俺のも」と、翔喜も言う。
「それじゃあ、どうしましょう」と、健斗は言って考える。
「とりあえずは……」
励が言おうとして、「歩こう」と言ったのは、穂乃果である。
全員が穂乃果を見る。
うんと励が頷く。それから、「そうだな」と、翔喜が言った。その後、他の皆も頷く。
励たち六人はそのペンションから離れ、道なりを歩いた。
そのペンションはどうやら森の中にあるようで、周囲には沢山の木々が生えている。虫が飛んでいたり、時々、鳥の声も聴こえたりした。
それから少し歩くと、川が見えた。
六人はその川沿いを歩く。少し進んだところに橋を発見した。
「やまいりかわ……って読むのかな?」と、羽鳥さんが言う。
橋には「山入川」と書かれた看板が立っていた。
「そうじゃない?」と、翔喜が言う。
「山入川って、どこの川でしょう?」
健斗が皆にそう訊いた。
「さあ?」と、翔喜が首を傾げる。
「私も知らない」と、羽鳥さんが言う。「ねえ、小木曽くんは知ってる?」と、羽鳥さんが励に訊いた。
「ううん」と、励は首を横に振る。励もそれがどこの川か知らなかった。
十五分くらい歩いただろうか。しばらく歩いていると、民家がちらほらと建っているのが見えた。
人が住んでいるのが分かると、励は一気に緊張が解けたような気がした。他の皆の顔も安堵の表情が窺える。
その後も、励たちは道を真っすぐに歩いて行く。五分程歩くと、励は大きな建物を発見した。
「神社だ!」と、励は大声で言った。
「ホントだ! ここ、何の神社だ?」と、翔喜が訊く。
「日枝神社って書いてあるわ!」
羽鳥さんが看板の文字を見て言った。
「日枝神社か……」と、励は呟く。聞いたことのある名前だなと励は思った。
「あ」と、萌ちゃんが声を上げる。「わたし、前、ここ来たことある!」
萌ちゃんが思い出して言った。
「本当?」と、翔喜が訊く。
「はい。お正月に、おじいちゃんやおばあちゃんたちとハツモウデでここに来たの」と、萌ちゃんが話す。
「初詣か……ということは、案外、八王子に近いのでは?」
励がそう言うと、「そうかも!」と、萌は笑顔で言った。
「神社なら、誰か人がいるんじゃないですか?」
健斗がそう言う。
「そうよね」と、羽鳥さんが頷く。
「いたら、ここがどこなのかも訊いてみよう」と、励が言った。
五人は頷く。
早速、六人は鳥居をくぐる。その神社は閑散としていた。参拝客などは励たちの他には誰もいなかった。
境内に入ると、すぐに二つの狛犬の像を見つける。一つは、「阿」の口をしていて、もう一つは、「吽」の口をしていた。
まっすぐ進むと、そこには拝殿があった。せっかくなので、皆で手を合わせることにした。
目の前に賽銭箱があったが、励たちは生憎持ち合わせがないので、宙づりになっている鐘だけを揺らし、六人全員で手を合わせた。
〈無事に家へ帰れますように〉
励はそうお願いをした。
参拝を終えて、励たちは境内を見て回ったが、そこに誰も人がいなかった。
「誰もいないのか……」
翔喜が呟くように言った。
「ねー」と、羽鳥さんも残念そうに言う。
「仕方ない。また少し歩こう」
励がそう言って、神社を後にしようとすると、
「ねえ、これ見てください!」
と、鳥居の横の看板の目の前に立っていた健斗が急に皆を呼ぶ。
「どうしたの?」と、励が彼の方を向いて訊く。他の皆も健斗の方を向く。
「ここ、八王子みたいですよ」と、健斗が言う。
「え? 本当に?」と、翔喜が驚く。
「ええ、ここ見てください。この神社名の隣のところです……」
その看板はどうやら由緒書きのようであった。「日枝神社」と名前が書かれたその隣に、その神社の住所が記載してあった。
「本当だ!」と、翔喜がまたしても驚く。
その後、健斗がその住所を読み上げる。
「東京都八王子市川口町……」
「そうか……」と、励は頷く。
「八王子市ということは、私たちって案外近くにいたのね」と、羽鳥さんが言う。
「ね」と、萌ちゃんが相槌を打つ。
穂乃果もそれを聞いて、少し顔が緩んだ。
「八王子」と聞いて、全員が安心したようだった。
「それじゃあ、もう少し歩けば、駅なんじゃない?」
翔喜がそう言った。
「そうだよね」と、羽鳥さん。
「それなら、わたし、頑張ってもう少し歩く」と、萌ちゃんも言った。
「いや」と、励が口を挟む。「そうとも限らないよ」
「なんで?」と、羽鳥さんが訊く。
「だって、僕たち、誘拐された時、車であそこまで連れてこられたでしょ? だから、駅まではだいぶ離れていると思うんだ」
励がそう言うと、「そんなぁ……」と、羽鳥さんがガッカリしたように言う。
でも、と励は続ける。
「この先、バス停があるかもしれない」
「バス停?」
「うん、バス停が見つかれば、バスに乗れる。それに乗れば、駅まですぐに行けるよ」
励がそう話すと、「なるほど!」と、健斗が感心する。
「それはいいアイデアですね!」
そう言って、健斗は笑う。「よしそれじゃあ……」
「皆でバス停を探そう!」
翔喜が大声で言った。
オーという掛け声が神社に響き渡る。
「けどさ、その前に少しだけ休憩しない?」と、翔喜が言った。
太陽はちょうど励たちの「天頂」にやって来ていた。時計がないので、正確な時間は分からないが、天頂なのでおそらく今は正午頃だろう。この間、理科の授業で励は習ったところだった。ペンションを出発してから、かれこれ三十分以上は歩いていた。
歩き疲れていたので、励たちは十分くらいその神社で休むことにした。
「喉渇いた」
ふと、穂乃果が言った。
「俺も」と、翔喜が言う。「わたしも」と、萌ちゃんも言う。励や他の皆も喉が渇いていた。
「さっき、近くに自販機があったね!」と、羽鳥さんが言う。
「お! そこで飲み物を買おうよ!」と、翔喜が言った。
皆で近くの自販機まで向かう。羽鳥さんはそこでお茶を一本買った。それから、彼女はそれを飲んだ後、穂乃果にそれを手渡した。穂乃果もそのお茶を飲む。
「はー、生き返る」と、穂乃果は声を上げる。
その後、「羽鳥さん、俺にも」と、翔喜がそのお茶を貰おうとする。
「ダメよ。男子は男子で買って、回し飲みして!」と、羽鳥さんは言った。
「分かった……。励、俺、金ないから奢ってほしい」
翔喜がそう言うので、励は「はいはい」と言ってその自販機でお茶を一本買った。
「励、サンキュー」と翔喜は言って、取り出し口からペットボトルのお茶を取り出してごくごく飲んだ。
「ふー、生き返った」
翔喜が励にそのお茶を渡す。励もそのお茶を一口飲む。それから、励は健斗にそのお茶を渡した。
「ありがとうございます」と健斗はお礼を言って、そのお茶を一口飲んだ。「はあ」と、健斗も息を吐く。
「さあ、行こうか」
休憩を終えて、励たちは境内を出る。再び道なりに沿って歩いた。
「あ」
それから十分程歩くと、ようやくバス停を発見した。
「あった!」と、翔喜が嬉しそうに言う。皆も嬉しそうな顔をする。
バス停の前に到着して、看板を見る。バスは「高尾駅」まで行くようだった。
「高尾駅までは行けそうだね」と、励が言う。
「俺、最寄り駅は八王子駅だけど……」と、翔喜が言う。
「私も」と、羽鳥さんも言う。他の皆も頷く。励もそうだった。どうやら全員が八王子駅らしい。
「そこからは電車で帰ればいいよ」
励が言うと、「そっか」と、翔喜が納得する。
「それじゃあ、本当に家まで帰れるんだな!」
翔喜が嬉しそうに言う。
「でもさ、バスとか電車に乗るって言っても私、お金ぜんぜん持ってないけど……」
羽鳥さんが持っていた財布を見て正直にそう言った。
「俺は財布、家だ」と、翔喜も言う。
「わたしも……」と、萌が小声で言う。穂乃果も財布を持っていないらしく、頷いた。
「大丈夫、僕が貸すよ」
そう言って、励はズボンのポケットから小銭入れを取り出す。そこには、お小遣いでもらった千円札が二枚入っていた。
「いいの?」
羽鳥さんが申し訳なさそうに励に訊く。
励は頷く。
「励、サンキューな!」と、翔喜がお礼を言う。
「励さん、ありがとうございます」と、萌ちゃんも笑顔で言ってお辞儀する。
「ありがとう」と、穂乃果が照れ臭そうに言った。
「もし足りないようなら、僕も出します」
健斗がポケットから財布を出してそれを見せた。
「ありがとう」と、励は健斗に言う。
「ところで、バスは何時に来るんだ?」
翔喜がそう訊いた。
「あー、確かに」と、萌ちゃんが言う。
「今、何時でしょうね?」と、健斗が言う。
「天頂だから、正午頃だとは思うけど……」
励がそう言うと、「正午か」と、翔喜。
「十二時だとすれば、二十八分と五十八分に来るみたいですね」
健斗が時刻表を見て言う。
「まあ、待っていれば直に来るわよ」
それから、羽鳥さんがそう言った。
「そうだね」と、励は頷く。「もう少し待とう」




