初夜
真っ白でふかふかの布団に移動したあと、私達はしばらく抱き合っていた。
文字通りずっとお互いを求めてきたがゆえに、まずはその感触を確かめているようだった。
ただ、ぎゅっとお互いの肌や温度を共有するような、そんな質素なハグだったけれども、それがいかに困難でたくさんのハードルがあったかを私は思い出していた。
初めてあったときから、はじめましての気持ちがしなかったということは、運命ということになるのだろうか。
また、こうしてこんなにも求めあっているのに、いつか別れがくるのことがあるのか。
それは未来になって見なければわからないことであるが、私はそうした不安も抱えながらますます高揚していく自分の気持と向き合っていた。
私の呼吸も大鷹くんの呼吸も静かなものではなく、はっきりとお互いの呼吸が聞こえるほどに大きくなっていった。
大鷹くんに関しては、体温が上がり汗ばんでいるのがお互いの触れた首からでも伝わってくる。
私は彼の肩に顔を埋める形で、ずっと呼吸を聞いていた。
自ずと彼の心音も聞こえる位置にいたので、運動会で全力疾走したあとのような、激しく打つ鼓動が太鼓のように響いていた。
肌が合う、というのはこんな感覚だろうか。
タコの吸盤のような、といえば語弊があるだろうし、正しい比喩ではないが、お互いの肌に吸い付き、吸い寄せられるような感覚は生まれてはじめてだった。
まるで相手の肌が自分の肌かのような錯覚さえてして、なぜ自分の肌が自分の体の外側にあるのかという疑問さえ湧いてくる。
更に言えば、肌に触れることで安心感が湧き水のようにふつふつと断続的に湧き出てきて、それでいて体にビリビリと電気が走るような不思議な感覚を覚えていた。
今まで私は何人かとこうして肌を合わせて、大人の真似事のようなことをしてきた。
しかしそのほとんどは、相手が満足したら終わりで、私自身は早く終わらないかなと内心別のことを考えていたほどだ。
酷いときには素数を数えたり、ゼミの課題のことを考えることもあった。
私にとって体をまじ合わせることは、そこまで重要ではなかった。
お互いに恋人同士であれば気持ちが通っていれば満足だった。
しかし、今回は違う。
私の中の細胞が大鷹くんを欲しているのが分かる。
恥ずかしながら私の下半身はもう表現できないほどに淫らに乱れており、この状態を彼が見たらなんと思うだろうと心配になるくらいだった。
後から後から、体が大鷹くんを受け入れる準備をして、今すぐにでもひとつになりたいと体が求めている。
早く合体して、生命の営みを始めようと遺伝子が騒いでいる。
案の定大鷹くんの息が私の耳にやんわりとかかるだけで、私は自分の体がビクリと反応するのを抑えていた。
純粋を装ってももう無駄だ。
私は獣になりかけていた。
けれども、ここは彼のリードを持って、彼の用意ができるまで待つしかない。
彼は、今日が初体験となるから。
その後少しだけ抱き合ったあとに、開始の幕は切って落とされた。
大鷹くんが顔を少し上げで、すぐそばにあった私の耳に軽くキスをした。
「あっ…」
思わず声が漏れる。
不意に触れられたことで制御ができなかった。
「かわいい声、出すんやな」
ゆっくりとそれでいて息を切らして耳元で囁かれるその言葉は増々私の欲を刺激していった。
耳に何回かキスをしたあとに、今度は首筋にたくさんのキスをした。
触れるだけの本当に優しいキスだったが、その度に体に触れては離れる動作がいじらしくて、もっと欲しいもっと欲しいと自ら首を差し出していた。
チュッ、チュッっと静かな暗闇に厭らしい音が鳴り響く。
耳から首、そして大鷹くんの唇はどんどんと下に下っていった。
まだ、唇にはしてくれないの?と意地悪されている気持ちで、かえってそれが私をより興奮させた。
ついに大鷹くんの唇は私の胸元にまで達した。
浴衣の間から見える私の肌をじっと見る。
そして、「ホンマにええ?」と少し上目遣いで問いかけた。
問いかけたと言っても、それ本当の問ではなく、あくまでも儀式上の問いかけに過ぎない。
「うん、いいよ」
敏感になった体の反応を抑えるのに必死で私は少しだけ涙声になっていた。
「ありがとう」
そう彼は言うと私の胸に顔を埋めた。
「あ…っ」
声にならない声が喉の奥から出る。
今度は舌を使って、胸の谷間を優しくなぞる。
気持ちが良かった。
頭が真っ白になる、そんな感覚だった。
体の力がどんどん抜けていって、快楽にだけ身体の焦点が当たっていく。
もう他のことは考えられない。
もっと、もっと、私の敏感なところを触ってと、体が自然に動く。
ゆっくりと浴衣を脱がし始めるその手がとてもいじらしかった。
早く服を全部脱がせて、そして下着も捨てて、裸にして。
それであなたの大切なものを私に入れて。
しかしこの焦らしが、私の興奮をさらに刺激するのだった。
大鷹くんが私の浴衣の上だけを脱がせた。
浴衣の帯があったので、私は自分から帯を取って浴衣を布団の上に脱ぎ捨てた。
私は下着姿になった。
もうあとは、下着を脱ぐだけ。
そうすると、裸になる。
恥ずかしくなかった。
むしろ、見てほしかった。
もっと、私のすべてを。
外からは月と星の明かりが少しだけ入ってきた。
やんわりと光に照らされた大鷹くんの顔は見たこともない、欲に取り憑かれたような男の表情だった。
少しの明かりでも分かるが、顔が赤く高揚している。
「ちーちゃん…」
そう言ってまた大鷹くんは私を抱きしめた。
抱きしめながら、大鷹くんも浴衣を脱ぎ始めた。
私が首に手をかける体制で、彼は器用に後ろ手で浴衣の帯を外し、浴衣を脱いで、布団の脇に浴衣を置いた。
「ブラ、外して」
大鷹くんにリードして欲しくて、自分から何かを提案することは辞めていたが、もう我慢ならなかった。
「うん」
大鷹くんは素直に、むしろ待っていましたとばかりに私のブラ紐に手をかけて外す素振りをした。
ああ、見られてしまう。
大鷹くんに私の胸を。
でも、見てほしい。
恥ずかしさで押し殺されそうなその感覚が快感となりより性を刺激した。
ブラはいとも簡単に外れた。
そして支えを失ったブラの紐は肩からだらんと重力に従って下に落ちた。
もう次の瞬間には、私の乳房が大鷹くんの目に映る。
そう考えただけで、私は自分の下半身が果てしなく濡れていくのを感じた。
「外すな」
敢えてそう言われたのが、むしろ恥ずかしくて最高だった。
白にレースがついたブラを大鷹くんは大事そうに私の体から離した。
自分でも、自分の乳房が見えた。
当然、大鷹くんにも見えている。
しばらく大鷹くんは私のその胸にある小高い膨らみに見惚れていた。
触りたい、けれどもどう触っていいか分からない、と手が空中を浮遊していた。
光に照らされた私の乳房はよりいやらしく見えた。
もう敏感になった体を象徴しているかのように、乳首はうんと固くなって、触れている空気にさえ愛撫されているように感じた。
「ちーちゃん」
大鷹くんは大きく私に覆いかぶさり、激しく首と耳にキスをした。
その度に水と空気が混ざる卑猥な音が耳をかすめ、私の下半身は自然に浮いていった。
足をくねらせている中で、大鷹くんの下半身にも何度も触れたが、熱くて硬い熱源をしっかりと確認できた。
更に言えば、下着越しからでも分かるくらい、大鷹くんも濡れていた。
乳房が露呈されたことで、枷が外れた。
私も彼も。
待ちに待った瞬間だった。
もう私達を邪魔するものは何もない。
世界には私達しかいない。
そんな夜に感じた。




