彼の熱源を体に感じて
キラキラと埃が空気中に舞う。
なんときれいなことだろうか。
今まで、埃をこんなにきれいと思ったことはない。
私は視線を天井に移していた。
目の前で私にまたがる彼を直視できないために、視線をあえてずらしていた。
今私たちは、ベッド上にいる。
私が仰向けで寝転ぶ形で、彼は私に膝立でまたがっている。
開いた彼の両足に挟まれるように、私の両足が行き場を失っている。
私を見つめる優しい視線を、ずっと浴びていた。
このまま時が止まってもいい、とさえ感じていた。
でも止まってほしくない。
私たちはもっと先に進むのだ。
この友達でも恋人でもない中途半端な関係から、恋人のもっとその先の関係になりたい。
そのために、この過程は必須なのだ。
きっとあと数分後、私たちは一線を越える。
そして、新しい世界に飛び込む。
それがどんなに尊くて、どんなに儚いことか。
出会ってから数ヶ月。
それでも運命の出会いだった。
こんなにも空気感が合って、意気投合して、気を使わずに心の中を見せられる人は、今までいなかった。
どんな過去の恋人ですら、交際期間が長くても越えられなかった私の心の壁を、何の抵抗もなく越えてきたのは彼だけだった。
「ちーちゃん」
小さな声で私の名前を呼ぶ。
「なに?」
思わず私も小さな声で返答する。
「ほんまにええ?」
彼の唇が少し震えるように言った。
微睡むような彼の視線が気持ちよかった。
「…いいよ」
迷う余地なんて全くなかったが、私は一呼吸置いて返した。
次の瞬間、ドサッと音がして彼が私に飛び込んできた。
ついに来た、と確信を得た。
私は彼に服を脱がれされて、キスを重ねて、お互いの恥ずかしい部分を見せてあって、欲望に心を委ねて、ひとつの到達点に向かう。
その過程で汗を共有し、体液を交換し、普段聞かないような声を発しながら、お互いを求めあう。
その様子がありありと目に浮かぶ。
彼はどんな愛撫をするのだろうか。
どんな風に私を抱くのだろうか。
どんな声で快感を漏らすだろうか。
知りたい。
知りたい。
彼が男になるところを。
彼が私の体に呼応する姿を。
彼が欲に貪欲になるところを。
彼が快感に到達する姿を。
見てみたい。
感じてみたい。
触れてみたい。
早く。
早く。
さぁ、早く。
私を、あなたの女にして。
私は次の瞬間を今か今かと待ちわびた。
彼は焦らすのが好きなようだ。
しばらく私の顔の横に、彼の顔を埋めて息を整えている。
今か、今かと私の鼓動は激しく打っている。
自分でもからだの火照りを感じている。
しかるべき準備はできた。
もうどこからでも、彼を受け入れられる。
自分の体が湿り気を帯びているのも分かる。
逆に恥ずかしいくらい準備万端だ。
彼の体も確実に熱を帯びている。
彼の熱が私の下半身を刺激する。
熱源が私の体に押し付けられているからだ。
彼はこんな私をどう思うのだろうか。
欲に溺れていると嫌煙するだろうか。
逆に欲に順応だと幸悦してくれるだろうか。
どちらにせよ、早く彼の反応が見たい。
早く。
早く!
それからしばらくして、彼の呼吸が寝息に変わっているのだと確信した。
それは、彼が私に体を預けて5分ほどたった頃だった。
思い切って一回だけ彼の名前を呼んでみた。
「大鷹くん?」
耳元で聞こえるように、優しく呼んだ。
しかし、返答はなく、聞こえたのは彼の安らかな寝息だけだった。
そういえば、大鷹くんは夜寝ないで私を見守ってくれていたと、さっき聞いた。
睡眠不足なのだろう。
普段も仕事が激務と言うこともあって、あまり寝ない日もあるのだとか。
コンサルタントという職業柄、結果にコミットするのは当たり前で、顧客の成果のためなら、持ち帰り仕事も厭わないと言っていた。
そんな中でも彼は仕事が好きで楽しんでいた。
きっといつも金曜日は少ない睡眠時間で体力を温存し、毎週私とのデートに備えててくれたのだ。
まだ若いといっても、人間だから体力に限界はある。
その中で私との時間を大切にしてくれていたことに涙が出そうだった。
そういえば、大鷹くんは一回も遅刻したことはなかった。
むしろ、私よりも早く集合場所に着いていたくらいだ。
家にいると寝てしまうから、早く家を出ていたのだろうか。
そう考えると、より彼が愛おしくて堪らなかった。
今回もまた、恋人の営みはお預けされてしまったけれども、それは意外にもそこまで悔しくはなかった。
もったいない気持ちはあるのは正直だが、彼が私を思う心に更に気がつくことができて、むしろ私の心が逆に満たされた。
すやすやと寝息をたてる彼の顔を覗きたいが、角度的に頭のてっぺんしか見ることができない。
ふわふわな髪を一撫でする。
まるで子供が母の胸で寝るようだ、と感じた。
私はせっかくなのでこのまま彼が起きるまで、彼の体温を感じていようと決めた。
今までにないくらい、彼と接近した、むしろ触れあっている貴重な時間だ。
それに、私も朝早く起きたこともあり、まだ眠気が体に残っているを感じ始めた。
私も一眠り。
恋人でも友達でもない二人が、男の部屋のベッドの上で、女が男を抱くように寝た。
それだけでも、満たされる気持ちは、愛と呼ぶ他ない。
私はまた夢の続きが見られるように祈って、睡眠に全部を委ねて、意識を手放した。




