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ボードゥアン4世を救え!  作者: 登録情報がありません
17/20

#17<未来へ>

一方エルサレム王国では事件が起こっていた。


地中海の嫌われモノ、ルノー・ド・シャティヨンだ。

ルノー・ド・シャティヨンはその後も蛮行を繰り返したが、とうとうその命運も尽きた。


略奪と蛮行の果てに、サラディンの身内(姉?妹?)を殺してしまったのだ。

怒り狂ったサラディンは、それでもエルサレムに使者を送り、身柄を要求した。


だが使者は帰ってこなかった。

サラディンは憤怒の魔神と化し、側近が必死に取り押さえた。


サラディン「いかな博愛と慈悲の英雄といえど限度があるわ!」

翌日、ルノー・ド・シャティヨンは自室で、他殺死体として発見される。


その手練手管があまりにも見事だったので「身内暗殺説」も持ち上がった。

一時、ボードゥアン4世の配下イブラン家のディブランが手引きしたとの噂が立った。


だがどの陣営からも声明はなく、真実は闇の中である。

サラディンの命を狙い、後に和解した暗殺(アサシン)教団の手練手管かも知れなかった。


ボードゥアン4世は身内の死にピクリとも眉を動かさなかった。

むしろ清清したという感じであった。


この頃、遠くアジアの中央で妖しい動きが始まった。

モンゴル国の青年テムジンの跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)である。

次々と部族を統一してゆくその姿はサラディンの青年時代を思わせた。

後に中東最大の脅威となる人物を、まだ中東の誰もが知り得なかった。


一方、中東エルサレムの共同統治は何事もなく続いていた。


サラディン「ワシももう年だ」

モーシェ「黄熱病のワクチンを打っておきましょう」

王の侍医である彼は、王の加齢による抵抗力の低下が心配だった。


サラディンは在位中に自らのアイユーブ朝を連邦共和国にし、子弟に委ねた。

アル=アーディル(弟)、アル=カーミル(弟の長子)、アル=サーリフ(弟の長子の息子)の3人である。

それぞれが領土を持ち、それぞれの国王となった。

これで兄弟間の跡継ぎ争いは、成り行きで消滅した。


サラディンは引退し、国父という地位になった。

統一国家アイユーブ朝はもうないのだ。


また、奴隷制度に自由と権利を持たせすぎた為、奴隷制度そのものを廃止した。

奴隷の身分にも拘わらず、戦功により、将軍や司令官の身分の者が出たからだ。


自国の徴兵による正規の軍隊を統率するのが「奴隷」では軍の規律が乱れる。

敗戦国の兵士は戦利品で、生きた道具「奴隷」になる運命だった。


この戦地での戦利品としての奴隷制度をやめたのだ。


この時代、ほとんどの兵士は奴隷だった。

先遣隊や突撃隊は消耗品であり、正規軍は温存である。


この事が奴隷たちの鬱積した不満となって渦巻いていた。

戦功による地位はあっても、所詮は奴隷兵士である。


奴隷兵士は表面上は、忠実を装っていた。

が、サラディンは敏感にその動向を察していた。


奴隷兵士は、突然、職業軍人となったのだ。

人間の形をした道具から、身分のある人間になったのである。


かつて不穏な動きを見せていた奴隷兵士たち……。

この改正で、奴隷(マムルーク)の反乱心はピタッと止まった。


これで連邦共和国は盤石の体制である。

奴隷(マムルーク)の反乱によるマムルーク朝は勃興しない。

・

・

・

1206年アジアのモンゴルで妖しい動きが広がった。

テムジンという若者がモンゴル帝国を興したのだ。


サラディン「胡乱(うろん)なヤツで油断が出来ん」

「あの速さで帝国を興し、見ろ、領土をどんどん拡大しおる」

サラディンはモンゴル帝国の異常な拡大に懸念を抱いていた。

自分がファーティマ朝を滅亡させ、アイユーブ朝を勃興させた姿を思い出したのだ。


サラディン「監視を怠るな」

「きゃつには西征と東征の野望がうかがえるぞ」


だがもはや、その結末を見る事は叶わなかった。

カスピ海に近づくモンゴル帝国を睨み付けるサラディン。


1217年サラディン死去。

享年80歳の大往生であった。


1235年ボードゥアン4世死去。

享年74歳の大往生である。

ボードゥアン5世が生前譲位している為、空位はない。

エルサレム王国も盤石である。

・

・

・

1260年アイン・ジャールートの戦い。

とうとうモンゴル帝国の西征はシリアに迫った。


ボードゥアン5世はサラディン3子弟と供に戦力を結集し、ガリラヤの丘陵地帯で激突。

モンゴルお得意の待ち伏せ戦法を逆手に取った。


先鋒隊をわざと全面に出し、わざと負けて敗走させる。

一気にカタを付けようと突進してくる敵軍を、待ち伏せ隊が包み込んで撃滅する。


ここで、エルサレム・連邦共和国の連合軍が、キト・ブカ率いるイル・ハン朝軍を撃破。

イル・ハン朝は中東バクダードを壊滅させ、占領し勃興したモンゴル人の国家だ。


この戦いでモンゴル勢を退けた事が、モンゴル帝国の西征にストップをかけた。

これ以降シリア以西にモンゴル勢は進駐してこない。


ここがモンゴル帝国拡大の限界点だったのだ。


未来は白紙だ。

だが暗黒ではないようである。


この第17章で本編は終了です。

第18章~第20章の近代編はいわゆる「蛇足」です。

サラディンとボードゥアン4世が開いた新しい世界線。

それが後世をどのように変えていくかを示す番外編になります。

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