那智&諒一1
以前、活動報告にて載せていたもの。
ネタ提供:啖嶋 樢子さん。
設定:
①那智が体が弱い。
②那智と諒一が恋人同士。
[雪とラブレター、そして月]
ザッザッザッ
次第に深く積もっていく雪を踏みしめて歩く。
足音は二つ。
前を歩くのは従妹の那智。その後ろをついて歩く。
押し黙ったままの二人の間で足音だけが雪にくぐもって溶けていく。
「私怒ってるんだからね」
「うん」
怒らせたのは自分。
今日の放課後、女子生徒からラブレターをもらった。
今時古風だとは思うが、気持ちをしたためられたそれをただ突き返すのも悪いかと感じて持ち帰ったのがそもそもの間違いだった。
アパートに帰ってきて放り出した鞄の中から滑り出てきたそれを見た那智は、当然のごとく怒って自分のもとを飛び出してしまった。
すぐに追いかけたが、歩みを止めることなくこうしてずっと黙って歩き続けている。
冬の寒さは那智の茹だった頭を冷やすことはないようだ。
「なんでついてくるの」
「那智が心配だから」
那智は人より少し体が弱く、こういった雪の日などはすぐに熱を出してしまう。
一人で歩かせて、どこかで倒れてしまわないかと心配してしまうのは当然のことだろう。那智は生まれたときから知っている従妹であり、それ以上に大切な恋人なのだから。
「私が何に怒ってるか分かってる?」
ザッ
一音。足音が鳴って歩みが止まる。三歩の距離をとって自分も足を止めた。
「俺がラブレターを返さずに持ち帰ったこと」
世間体もあり公表はしていないが、那智という恋人がいるのにするべき対応ではなかった。
教師であるという立場から、生徒の心を大事にしなければという思いがあったため、そうしてしまった。その子のためにもその場で終わらせるべきであったと今は思う。余計な期待を持たせてしまったかもしれない。
「それと、ラブレターを破こうとしたこと」
那智はそれを発見して即座に破り捨てようとした。けれど、ビッと端の部分に亀裂を入れただけで手を止め机の上に置いたのだ。
そしてすぐに部屋を飛び出した。
それをしたためた相手の心を踏みにじってしまうようでできなかったのだろう。
那智は人の心と向かい合おうとする子だから。
破り捨てようとした自分に対しての怒りも半分含まれているのだ。
「言い当てるな、バカ……諒ちゃんは私のこと知りすぎ」
那智に対する分析は正解のようで、振り返った那智が顔を隠すように腰に腕を巻きつけてきた。涙を見られたくないのだろう。
那智は体は弱くとも、心の弱さを見せたがらない。それは恋人である自分でも例外ではないのだ。
だから気がついていないフリをして、なだめるように髪を梳き背中をなでた。
日がすっかり暮れてからは、やはりと言うべきか熱を出してしまった那智のそばにつき、額に乗せたタオルを幾度となく交換した。
那智は興奮していたためかなかなか寝付かず、じっと自分の顔を見てきた。
「なに? じっと人の顔を見てきて」
「諒ちゃんがいてくれるのが嬉しくて……」
熱のせいで赤くなる頬はリンゴのようで、昔から熱を出すたびにこうして付き添っていたなと思いだす。
「諒ちゃんはいなくならないでね」
那智は父親を亡くしているためか、誰かにいなくなられることに極度の怯えを抱いている。
手を握り存在を伝える。
「いるよ」
求められるならばいくらでも。
「今日は那智が眠ってもそばにいる」
「へへっ。諒ちゃん……だい、好きだぁ」
那智の意識は夢の中へ。良い夢を見られるようにとまぶたに口付ける。やわらかなまぶたは弾力を持って唇を押し返した。
熱があるときの那智は素直だ。たがが外れるためか気持ちを伝えることに迷いがなくなる。
ストレートな思いに胸がうずく。
求められることは幸いなこと。できればずっとそばにいてくれたらいいのに。そう思うのはむしろ自分のほうだ。
一番のライバルは那智の義理の兄、恭平だ。彼等の間には自分とはまた違った絆がある。それを疎ましく思い、そして羨んでいる。彼がいなくなればいいのに、と何度思ったことか。
腕に閉じ込めて他を見られないようにしたいと思うが、那智がそれを知ったら逃げ出してしまうかもしれない。だから甘やかすだけ甘やかして、自分に依存してもらおう。
まだまだ那智は幼いから、今は優しい従兄のままでいる。そう余裕を持てるのは、那智が自分の気持ちを受け入れて恋人にしてくれたからこそだ。
そうでなければ――。
「今夜は眠れそうにないな」
窓の外、分厚い雲間から見えるかすんだ月を見上げて呟いた。
翌朝:
「あら、諒くんったら」
明け方頃、ようやく眠りについた諒一に布団をかけようとした伯母がその顔を見て笑いをこらえる。
寝息をたてる諒一の頬にはマジックでこう書かれていた。
『これは私の』
「やだもう、那智ったら」
眠りから覚めた諒一がその文字に気がつくのはあと一時間ほど経ってからのことだった。
ややブラック諒ちゃん。




