全員2
お気に入り件数7000件突破記念その11。
ネタ提供:トレクナルさん。
設定:
①みんなで仮装パーティ
[トリック オア トリート!だよ]
「那智、今日は一段と可愛いね。本当に妖精みたいだ。この会場の中でも一番なんじゃないかな」
「お兄ちゃん……」
私の沈黙に続く言葉は「嬉しい」とか「わぁい」とか喜びの声でも「やだもう」などの恥ずかしさを現す言葉でもない。もし言うとしたら「なにその褒め言葉の嵐、恐いんだけど」である。
私たちは西園寺家主催の仮装パーティ会場に参加するため、私は妖精、お兄ちゃんはドラキュラの格好をしてこの会場にやって来た。
これは吹雪ちゃんの案による西園寺家所有の豪華ホテルでの学園生徒を中心としたパーティだ。
会場にはそこかしこに色々な格好をした生徒たちがひしめいていた。和洋中または異国色を織り交ぜたたくさんの姿にめまいがしそうだ。マジでくらくらする。
実は吹雪ちゃんとしては学園の講堂を使ってやりたかったらしいんだけど、顧問の先生に「学園は遊び場じゃない!」と一喝されて却下となってしまったそうだ。
ならば自分の敷地でやろうという吹雪ちゃんの決断力と財政力に脱帽する。
参加は強制ではなく自由。三千円を参加費として出せば誰でも出席可能。三千円という価格は破格の設定料金だ。だって衣装のない人には西園寺家から無料で貸し出すという特典付きなのだから。
豪華な会場で食べ放題のドリンクフリー・貸衣装付きでこの値段って、他には存在しないんじゃないだろうか。
お兄ちゃんはその価格設定にも渋っていたけど、吹雪ちゃんのごり押しに負けて参加することになったのだ。
私への賛辞の嵐は、内心で「何でこんなとこに来ないといけないんだ」と、表とは逆の黒い感情が渦巻いていると判断する。
「那智は本当に可愛いなぁ」
その笑顔やめて。妹でストレス発散しないで。
ついでにお兄ちゃんの魂胆も分かっているから、もういいよ。こうして私を褒め称えて、女子たちに対する防御柵として働いてもらおうと思ってるんだよね。心配しなくても、ちゃんと防御柵になってあげるから大丈夫だよ。
お兄ちゃんはすれ違う人がみんな振り返るような美ドラキュラ様に変貌していた。
思い起こすこと一週間前。
吹雪ちゃんがわざわざ運転手さん付きの車で乗り付けて、お兄ちゃんの制止にもひるむことなく家に乱入してきたのが始まりだ。
「今度うちで仮装パーティをするのよ。恭平クンも是非参加してね」
取り出した案内状をすぐさまゴミ箱に投入しようとするのを止めたのはお母さんだった。
「あら、楽しそうね。私も大学の頃だったけど、ダンスパーティなんてものがあってね。楽しかったわぁ」
楽しそうに語り出すお母さんにはさすがのお兄ちゃんも勝てなかったようだ。
「え、参加費がいるの? なら出してあげるから行って来なさいよ」
お母さんの鶴の一声で私とお兄ちゃんのパーティへの参加は決まってしまったのだった。
私は嫌がった。
「じゃあお兄ちゃん、行ってらっしゃーい」
ひらひらと手を振った。
だって和顔の私に仮装とか似合わなそうだし。でも「那智が行かないと僕一人じゃ寂しい」のお兄ちゃんの言葉で私の参加はさくっと決まってしまった。えー。
衣装は吹雪ちゃんが用意していた。
「恭平クンはドラキュラね。妖艶で高潔。恭平クンにぴったりじゃない」
黒スーツなドラキュラの衣装はお兄ちゃんによく似合いそうだった。なかなかいいセンスだね。
「チビッコはコロボックルでもやってなさい。ちびっこいからお似合いよ」
吹雪ちゃんが取り出してきたのは和風の民族衣装だった。コロボックルというものはよく分からないけど、バカにされているのは分かった。さっきのは訂正する。最悪のセンスだ。
「吹雪」
「ひいっ。冗談よ。冗談!」
お兄ちゃんからの冷風が吹いて、結局私の衣装は妖精となった。まぁ、無難なところかな。とりあえず吹雪ちゃんは一度は私を貶めないといけない性癖をなんとかしたほうがいいんじゃないかと思った。
――という経緯を辿って現在、パーティ会場。
ここまで送ってくれたのは諒ちゃんだった。
「諒ちゃんも参加すればいいのに。えーっと……お兄ちゃんと対のドラキュラとか」
仮装に対するイメージが妖精とか魔女とかドラキュラぐらいしかないので他に思いつかない。
「何でこいつと同じ格好をしなきゃいけないんだ」
諒ちゃんにはむっとした顔をされて怒られてしまった。
「俺は客寄せパンダになる気はないからな」
確かに、生徒受けの良い諒ちゃんが仮装で現れたら男子も女子も寄ってきて大変なことになるかもしれない。
「帰りは迎えに来るから」
そう言って送り出された。
「変な奴に付いて行くなよ」
「小さい子じゃないんだから付いていかないよ」
「そうですよ。僕が付いているから安心してください」
「……やっぱりそいつにも気をつけとけ。いいな」
ついでにこういうやり取りもあったりした。
最初は嫌がっていた私だったけれど、会場に入るとその熱気に心が浮き立った。
手には受付で渡されたアメ玉やチョコの入った袋があった。それを持って出会った人に「トリック オア トリート」と話しかけるようにと説明を受けた。
私はさっそく声をかけるべく知り合いの姿を探して会場をキョロキョロと見渡した。
「トリック オア トリート!!」
重なる声で笑っているのは海道兄弟だった。
晃太先輩はネコ耳で、星太先輩はイヌ耳を付けていた。どちらともお尻には長い尻尾が付いている。手には肉球も愛くるしいヌイグルミ的な手袋を装着していた。
うわぁ、よく似合ってる。あの肉球気持ち良さそう。後で触らせてもらえないかな。
「でも、ちょっと無理そう……」
彼らの周りには女子が大量にたかっていた。みんなして「イタズラしてー!!」を鼻息を荒くしている。
海道兄弟はそれににこにこと対応していた。不自由な手でみんなをこちょこちょして回っていた。――あれの輪に入るのはごめんだ。そっとしておこう。
「あ、那智ちゃん」
ぽんと肩を叩いてきたのは愛梨ちゃんだった。
愛梨ちゃんは黒いゴシック調のドレスを着ていた。でもってミニスカート。それがふわりと広がっている。すらりと伸びた長い足に太ももまで長さのある黒タイツを履いていた。
隙間に見える白い肌が眩しい――こ、これが絶対領域ですか!! 思わずガン見してしまった。
「な、那智ちゃん……!?」
危険を察知した愛梨ちゃんが戸惑った声を出す。おっといけない。オヤジモードに入り込んでしまっていた。
困った顔も可愛らしい愛梨ちゃんの頭の上には短い角が二本、ちょこんと居座っていた。
小悪魔っぽいってのは分かったけれど、何の格好なのかはいまいちよく分からない。
「その格好は?」
これは聞いたほうが早いだろう。
「えっと、わざわざ生徒会長が来てくれて――」
愛梨ちゃんのところまで行っていたのか、吹雪ちゃん。気になる人にはとことん声をかけまくっていたんじゃないだろうかあの人。なんという情熱、というか執念。
「サキュバスですって。あなたにはお似合いだから是非にとこの衣装を渡されてしまって」
「サキュバス?」
それはいったい何だろう。
「人の夢に入って性的なイタズラをする夢魔のことだよ」
お兄ちゃんがこそっと耳打ちしてくれた。私の顔がぼっと赤くなるのが分かった。
「ふ、吹雪ちゃんサイテー!!」
私は愛梨ちゃんの手を握って「吹雪ちゃんは後で私からお仕置きしておくね」と約束しておいた。私の横でお兄ちゃんもうんうんと頷いていた。
愛梨ちゃんには慰めの代わりに「トリック オア トリート」と聞いてから、袋の中からたくさんのお菓子をあげておいた。
ご立腹の私は吹雪ちゃんを探し回って会場内をぐるぐると回った。
「きゃー、冬吾先輩。私にイタズラしてくださーい」
「私、先輩になら噛み付かれても全然構わないですぅ」
黄色い悲鳴があがる中心にいたのは冬吾先輩の姿だった。灰色の光沢のあるスーツに灰色の耳、ふさふさの尻尾――。
「なにあれ。狼男?」
首をひねっていると、女子たちに囲まれる冬吾先輩のがっつり目が合ってしまった。
「あ、いいところに来た。そこの――」
言いかけたところで、お兄ちゃんが私の襟首を掴んで風の速さでその場を後にした。ぐえっ。そのため冬吾先輩が言おうとした言葉を聞くことはできなかった。
でも大した用事はなかっただろうと思う。どうせ私の格好を小ばかにしようとしただけに違いない。悪かったな。似合ってなくて。
触らぬ狼に祟りなしだ。
あの人が私をかまえば、桃色空間から一気に殺伐とした空気になること間違いなしだ。くわばらくわばら。
そういえばお兄ちゃんには珍しく女子が寄ってこないな、とお兄ちゃんを振り仰ぐ。
「ん?」
きらきらしい笑顔の向こうで複数の女子が腰砕けになるのが見えた。随分と艶やかな笑顔デスネ。
今日のお兄ちゃんのドラキュラ姿には、いつもの倍量の威力があったらしい。そうそうの強者でないと近寄れないみたいだ。ということは、この笑顔に腰砕けにならない私は相当の強者なのではなかろうか。私すごい。
「うぅん、何でもないよ。……あっ」
腰砕けになる女子たちの向こう。もっと奥に見知った顔を見た気がして、興味を引かれるまま、私はお兄ちゃんを伴って近寄っていった。
「もしかして……委員長?」
クラスの男子たちと混じって委員長の姿を発見した。
白のタートルネックに黒い上下のスーツ。頭には横向きにボルトが刺さっていて、額には横一文字に縫い後の線が引かれている。
委員長の横には五人の女装戦士たちがいた。ピンク・緑・青・オレンジ・黄色の戦士はいかついけれど、その格好には思い当たるものがある。
愛の戦士プリティ・アップルだ。小さい女の子に人気のアニメだと記憶している。
「よう、桂木」
中の一人、アップルピンクが話しかけてくる。クラスメイトの男子だった。
「みんなすごいね」
格好が。よくその仮装をしたものだ。ひらひらのスカートから覗く太い足が気持ち悪い。
「だろー」
いや、褒めてはいない。頬を染めるな。
「みんなのはプリティ・アップルだって分かるんだけど、委員長のは何なの?」
代表的なキャラは見れば分かるが、サブキャラ的なものはアニメを見ていないので分からない。もしかしたら敵キャラなのだろうか。
「よくぞ聞いてくれました。彼こそが私たちプリティ・アップルのサポート役のフランケン博士です☆」
なりきってるね。五人の女装戦士に囲まれても委員長は無表情だった。
続けてアップルピンクはフランケン博士の非業な運命について熱く語ってくれた。
曰く、悪の組織ポイズン・アップル社に肉体改造を施されたフランケン博士。
寡黙な彼は胸に熱い正義の心を宿し、世界を脅かそうとするポイズン・アップル社に対抗する戦死を育てあげた。
物語中盤で敵に肉体を深く傷つけられた彼は、脳だけの存在になって(エグイ設定だな)最後まで彼らをサポートし続けたのだという。
一部熱狂的なファンの間では、真の英雄はフランケン博士! となっているそうだ。
どうでもいい。そんな情報を耳に入れてくれるな。そう思いつつも、彼らに付き合ってフランケン博士の仮装をしてあげた委員長の優しさに、私はお菓子をプレゼントしてあげることにした。
「委員長。トリック オア トリート」
「……。トリッ」
言い切らない間にお兄ちゃんが私の袋をごそごそを漁って委員長にお菓子を手渡していた。
笑ってはいたけれど、ちょっと眉間に皺が寄っていた。きっとアップルピンクの話が長くてつまらなかったからだ。付き合わせてごめんね。
吹雪ちゃんの姿は、会場のど真ん中で発見することができた。
白い着物に雪の結晶の文様が描かれた薄藍の帯を締めている。頭は真っ白なカツラを被っていた。吹雪ちゃんのしている雪女の仮装は、周囲の人間を差し置いて一番の美女に見えた。
それに唯一対抗できているのは、吹雪ちゃんの隣に立つ妖艶な美女くらいか。
「え、あれって蝶子さん!?」
蝶子さんは吹雪ちゃんの属する生徒会の副会長であり、吹雪ちゃんの恋人である奇特な人だ。
普段は切れ長の目にメガネをかけていて、優秀な秘書という姿なのだが、今日は違った。
黒と紫をベースとした着物に内側に着た赤地の布色が映えている。襟元を少し肌蹴させているのが色っぽい。
足元の裾もあえて肌蹴させていて、ちらちらと白くてもちもちな肌が見え隠れしている。やだ、あそこの人鼻血吹いてる。
蝶子さんの衣装にはところどころに蜘蛛の文様が入っているので、蜘蛛をモチーフとした妖怪の仮装なのだと分かった。
「女郎蜘蛛をイメージしてってところかな」
博識なお兄ちゃんがそう教えてくれた。
蝶子さんの立ち姿は、これぞ艶やかという姿だった。なんでこんな美女が吹雪ちゃんと付き合っているんだろう。この世の不思議だと思った。
おっといけない。吹雪ちゃんにはお仕置きしなければいけないんだった。
「ちょっと吹雪ちゃん! 愛梨ちゃんになんて格好させるの!! ついでにトリック オア トリートっ」
私は返事を待たずに吹雪ちゃんにお菓子を投げつけ、そのまま逃走を開始した。
背後でお兄ちゃんも私同様、「トリック オア トリート」と言って、問答無用で吹雪ちゃんの腹部に拳をめり込ませていた。
会場を抜けてホテルの中庭に出る。
私は室内からは見えないところまで逃げて、ようやく足を止めた。そこは花で彩られたアーチがきれいな場所で、くぐると白いベンチがいくつかランダムに置かれていた。
「はあっ。いい気味」
私に追いついたお兄ちゃんと、そこにあったベンチの一つに座り込む。
「吹雪ちゃんの顔見た? ビックリした顔してた」
ひとしきり思い出しては笑った。
十月三十一日の時刻は二十時。ほてった体は夜の空気にすぐに冷えてしまう。
ぶるっと身を震わせて戻ろうとする私に、お兄ちゃんが上着をかけて「もう少しだけ」と微笑んだ。
「そういえば、まだ那智にはしてなかったね。トリック オア トリート」
じゃあお菓子を、と取り出そうとして手が止まる。袋の中身は空っぽになっていた。お菓子は吹雪ちゃんに投げつけたので最後だったみたいだ。
「じゃあイタズラしか選択肢は残ってないね」
はい、どうぞ。お兄ちゃんが両手を広げて私のイタズラを待つ体勢をとる。なんで楽しそうにしてるの。イタズラするのは私のほうなのに、お兄ちゃんは楽しそうに笑っていた。
「では失礼して」
私は身を乗り出して、お兄ちゃんの耳元に近寄った。誰もいなかったけれど、恥ずかしいので外に漏れないようお兄ちゃんにだけ聞こえるように手を添えて囁いた。
「――へい」
くすぐられると思ったでしょう。ふふん。まさかの妹からの名前呼びだよ! さあ、どうだ。びっくりしただろう。……あれ?
どうしよう。お兄ちゃんが固まって動かなくなってしまった。
そんなに屈辱的だったのだろうか。目下の者から呼び捨てされたことが。やばかったかな。
私はびくびくしながらお兄ちゃんからの冷風を待った。無礼を働いたので、甘んじて裁きを受けようという気持ちだった。
――お兄ちゃんが固まること数分。
「……那智」
「はいっ」
「もう一回」
何故かお兄ちゃんの悦に入ってしまったようで(どこが? どのように!?)、私は「トリック オア トリート」の「トリック」部分を何度も繰り返させられるはめになってしまった。
そうこうしているうちに帰宅時間を過ぎてしまい、迎えに来た諒ちゃんに「遅い!」と怒られるのはまた少し後のこと。
兄が萌えた。




