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BLACK D●T  作者: 笹舟
●あがり、それから。
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謝りはしない


「天道さん。お茶のおかわり、淹れましょうか」

「お気遣いをすまんな。だがそろそろお暇させてもらうよ」

 古場さんに向けて首を振ると中谷さんはゆっくりと立ち上がった。


 それに対して、

「じいちゃん、俺まだお茶請けのマドレーヌ食べてないって!」

 ブーイングを起こしたのは中谷会長だ。 


「持って帰れ。まぁ、残っている茶を飲む時間だけはやろう」

 

 中谷さんは笑って、ひとぉつ、ふたぁつ、と数を数えだした。

「うえっ、ちょっと待っ――」

 途端に急いでカップを傾けた中谷会長は、飲み干した後で軽く咳き込み、

「――ッご馳走様でした!」

 と、それでも礼儀正しく古場さんに向けて両手を合わせた。


「雨里。わしは車を取ってくる。もう少し待っとれ」

「……ねぇじいちゃん。だったら俺、急ぐこと無かったんじゃない?」

「気付かなんだか。陽介の言うとおり、まだまだ注意力がなっとらんな」


 からからと笑いながら、中谷さんは店を出た。


 中谷会長はマドレーヌを中に入れようとスポーツバックのジッパーを開きつつ、じいちゃんめ…、と口を尖らせていた。

 その、開いたジッパーの間に。

 中谷会長が自分の分をそうしたように、私は私の分のマドレーヌを入れる。


「帰るまでに潰さないようにしてくださいね」

「…………うん?」


 心底怪訝そうな顔をして首を傾げる中谷会長を、見据える。


「一応、お詫びです。自己満足ですから気にしないでください」

「…………うん」


 よく分かっていない中谷会長は、雰囲気にのせられたように、こくりと頷いた。


 分からなくていい。それでいい。

 さっきの言葉通り、向かい合って謝らない代わりの、これはただの私の自己満足なのだ。


 私が笑みを浮かべると、中谷会長もそれにつられたように笑顔になった。

「うん、折角だから貰う。ありがと」

 そう言って、彼はマドレーヌを荷物の一番上に置き直した。


 それから数分もたたない内に店の前に軽トラックが止まった。此処に居る間は、近くの駐車場に停めていたらしい。

 スポーツバックを肩にかけた中谷会長は、私たちに手を振って、またねと片足をひょこひょこさせながら帰っていった。運転席に座っている中谷さんは、車窓のむこうからこちらに軽く会釈をして、車を発進させた。


「さて。上の写真の貼り替えでもしてくるか」


 言いながらカウンターから出た古場さんに「俺のタバコが置きっぱなしだからついでに頼むわ」と、陽介さんが片手を挙げた。


「へぇ。今日はもう吸わないのか?」

「いやぁ……、吸えないだろ、そりゃ」

 苦笑する陽介さんは、何処か照れているようだった。


「笠見さん。十五分くらいで降りてくるつもりだけど、その間に帰るなら気をつけて」

「はい。ありがとうございます」


 写真が入っているらしい茶色い袋を手にして、古場さんは二階へ上がった。

 一階だけでなく二階の壁にも貼ってある写真は、撮った本人がレイアウトもしているのだ。


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