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BLACK D●T  作者: 笹舟
たまには、暴風●。
71/87

駄目な涙

 


 怒りの涙は駄目。

 そう豪語する彼、中谷会長は何と言ってたっけ。

 ……疲れ損?

 ……自分との戦い?

 その感性はよく分からないけど、とにかく駄目だ。

 泣くな。自分。笠見颯子。

 こんなことで泣いてどうするっていうの。

 そもそも、どうしてここまで悔しいの。

 

 ――……やっぱり図星だから?


 *


 家を出たものの行くところも無く、そうなると足は通い慣れた『BLACK D●T』へと自然と向かっていた。

 店に足を踏み入れた瞬間に、ほっとしたような気持ちが広がる。


「あぁ、笠見さん。いらっしゃい」


 店内の壁の写真を代えていたらしい古場さんの笑顔に、私も挨拶を、


「こん、……っ」

「……おい。何やってるんだ、雨里」


 返すことは出来なかった。


「あ、これ洗濯したばかりのやつだから!汚くないよ!」


 カウンターの奥に居たはずの中谷会長が、いきなり私に駆け寄り、自分が着ていたエプロンを脱いで私の顔に押し当てたからだ。


「何…なんですかっ」


 エプロンから逃れながら、少し苛立ち混じりに尋ねる。

 中谷会長はきょとんとして、「あっれ、俺の勘違い?」とエプロンを着直した。


「だから、何がですか、さっきから」

「あー、いやごめん本当」 

 

 軽く笑いながら、


「なんか、笠見さんが泣く直前に見えて」


 ごめんねーと手を合わせる中谷会長に、


「……やめてくださいって」

「だよねぇ、ごめん。いきなりあれは失礼だっ……、って、笠見さーん?」


 彼の言い方をするなら、折角、自分との勝負に勝てていたのに。

 中谷会長の言葉を聞いてしまった私はあえなく撃沈をした。

 涙はそれほど流れていなくて、その分、嗚咽が止まらない。止めようとすると息が苦しくなる。それを察したように、中谷会長が背中を軽く叩いた。


「あー、無理して止めると喉が痛くなるよ。経験者の俺が言うんだから間違いない」


 そう言ってもう一度エプロンを脱いだ中谷会長は、それを私に差し出してくれた。

 ありがたく受け取って、押し付けるように顔を覆う。


「何があったかは分からないけど、とりあえず座ろ」


 何も言わずに――言えずに頷いて、背中を押しながら促してくれる手に私は歩みを任せた。


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