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BLACK D●T  作者: 笹舟
たまには、暴風●。
72/87

柔らかな逃げ先


 

 カウンターに入った古場さんが紅茶を淹れてくれた。

 予備のエプロンを着た中谷会長は店前の掃き掃除をしている。

 店内に、私以外のお客さんは居ない。


 落ち着いてくると、自分の失態を思い出して頬が熱くなってきた。


「大丈夫?」

「はい。すみませんでした」

 喋ると、喉が少し痛んだ。


 苦笑した古場さんが手で勧める紅茶を口に運ぶ。

 柔らかい口当たりと暖かさに、ふっと気持ちが楽になったような気がした。掃除を終えた中谷会長が「圭太さん、俺も紅茶欲しい」と片手を上げながらやって来る。


「で、どうしよう。理由は聞いた方がいい? 自分で言うのも悲しいけど、俺はともかく、圭太さんはいい相談相手になってくれるよ?」


 私の席からひとつ空けたカウンターの席に座り、中谷会長は首を傾けた。

「……いいえ」

「そ、じゃあ聞かないことにしよう。気にはなるけどねぇ」

 腕を組んで眉を寄せ、中谷会長は大仰な口調で言う。


 尋ねられて、言ってしまおうかとも思った。

 「理由は?」と聞かれたのなら、答えていたかもしれない。

 かなり失礼かもしれないけど、彼自身が言ったとおり、中谷会長はともかく、古場さんなら私の悩みも解してくれる気がした。

 

 それでも首を振ったのは、母さんの言葉が胸に刺さっていたからだろう。

 ――半端に口を挟むくらいなら、いっそ何も言わないで。

 私が古場さんに何かを聞き、それを受けて思ったことを母さんや翔に伝えても、母さんはきっと同じことを言う。どうせそうなら、私の悩み、というよりも愚痴に該当するだろうこの話を二人に話し、嫌な気分を味あわせたくない。

 人の愚痴を聞いて楽しい人なんて、そんなにいないだろうから。


「そういえば圭太さん、北高祭来てたんだって? 言ってくれれば案内したのに」

「お前は生徒会で忙しかっただろ。それに雨里のクラスの飴なら買ったぞ。わざわざ連れて行ってもらう必要は無い」

「あ、そーなの? じゃ、いーや」

 

 ニッと笑う中谷会長を、現金な奴めと古場さんが半眼で睨んだ。


「まぁ、雨が降らなくて良かったな」

「だよね、それが一番。来月頭の体育祭も晴れだといいんだけど。つーか、絶対に体育祭までの期間短すぎだよねぇ。準備も忙しいっての」

「はっはっ、頑張れよ、生徒会長」


 ぐしゃりと中谷会長の頭をかき回し、古場さんが笑った。

 頬杖をついた中谷会長が難しそうな顔をする。空いた手の指折りをして日数を数えながら、眉を寄せる。


「俺はまだいいんだけど、みずうっちゃんがねぇ。入場門の色の修復と、ポスターの完成版作んなきゃいけないでしょ。今度の学生絵画コンクールにも出品するみたいだし。本人は大丈夫だって言ってるけど、まぁ仲間思いの俺としては心配なわけですよ、ね」


「はぁ、仲間思いの」呆れたような声の古場さんに、

「えぇ、仲間思いです」真面目腐って中谷会長は返す。


 古場さんはため息を吐き、自分の珈琲を一口飲んだ。

 カップを静かに置きながら、少し厳しい目線をして中谷会長を見る。


「とはいえ、な、雨里。お前、自分のことも気にしろ」

「最近ちょっと運動不足気味のこと? まぁ確かに、この年でメタボはねぇ」

「それは知らん。……この間、ゆかりさんが来たぞ」



 茶化すような態度だった中谷会長が、動きを止めた。


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