北高祭を終えて
「よく起きたな。あと一時間は起きないかと思ったぞ」
「うー、なんか意識がふよふよしてた? みたいな? 寝てるのは寝てるんだけど皆の声はちゃんと聞こえてて、何だろ、身体は寝てるけど頭は起きてた? みたいな? あっれ、でもそれってレム睡眠になるのかな? あ、それとも俺、今、幽体離脱しちゃってた???」
「まだ寝ててもいいぞ。寝ぼけてるだろ、絶対」
眼をこすりながら、寝ぼけてませーん、と中谷会長は言いきった。
それでもどこかぼんやりとしたような眼で、私と夕香に視線を合わせる。
「二人とも、今日はお疲れさま。今日っていうか、昨日と一昨日もっていうか、北高祭ね。初めての北高祭はどうだった?」
水内さんが「どうぞ座ってください」と出してくれた椅子に礼を言って座りながら、
「楽しかったです、すっごく!」
夕香の一言目を皮切りに、中谷会長の質問に口々に答えた。
「楽しかったねぇ、俺も楽しかった」
眼を瞑って腕を組んだ中谷会長も、その一つ一つに言葉を返す。
「一日目はびっくりしましたけど」
「うんうん。規模デカいもんねぇ」
「お店も多くて、目移りしちゃいました!」
「三日で全部回るのは無理だよねぇ」
「合唱コンクールも盛り上がったし」「やおちゃんのクラスが優勝だったねぇ」
「あと、あれ! 有志のバンドも!」
「あ、見た? かっこよかったらしいねぇ」
「北二の方もすごく賑わってました」
「今年は行けなかったねぇ。でもそれなら良かったよ」
「私、来年もすっごく楽しみです!」
「よし。乞うご期待、ってとこだねぇ」
「ほんとに。生徒会って凄いなと思いましたよ」
「え。……っと、んん?」
中谷会長は、かくんと首を傾げた。他の生徒会員も驚いたような顔をしている。
だけど、夕香は私と同じ意見だった。
「ね! そうだよね! これだけのお祭りを企画して、取り締まって、大成功だったもん。凄いですよ! 本当に、ありがとうございました! お疲れ様です!」
「ありがとうございました。お疲れ様でした」
だって私たちは、それを言うために此処に来たんだから。
「あー……、照れる。ってゆーか照れたぁッ!」
一番初めに反応した矢面さんは、両手で顔を覆って左右に身体を捩った。
そんな矢面さんを落ち着かせるような、ゆったりとした声で、
「こちらこそ、ありがとうございました。お疲れ様です」
水内さんが私たちにぺこりと頭を下げた。
「ありがとな」「ありがとよ」と、それに滝長副会長と西脇さんが続く。
そして中谷会長は、
「ちょ、不意打ち、何て言うか、……すごく嬉しいけど駄目だって俺の涙腺的に!」
滝長副会長の制服の裾をがしっと掴むと、それに顔を埋めた。
中谷会長の涙腺的にというか、滝長副会長の制服的に駄目だった気がしないでもない。
まぁでも、彼の扱いに手馴れた滝長副会長は流石だった。
「雨里、喰うか?」
「喰う」
中谷会長の分として取っていたいちご飴を差し出した瞬間、中谷会長は滝長副会長の制服から顔を離し、驚くほどの速さでそれを受け取った。
そしてその包みを剥く前に、私たちに向き直る。
「笠見さん、松坂さん。その、えー……ありがとう」
「いえ。本当、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした!」
「……うん」
ぐすぐすと鼻をいわせながらも、照れた様子で飴を咥える生徒会長はやっぱり子供っぽくて。
私はそんな中谷会長を、それでもやっぱり無様だとは思えなかった。




