第91話 最上の憎悪
「……何が起きてやがる」
ハデスの驚いている声が聞こえる。
急に動きの変わった俺が、黒服をバッタバッタと薙ぎ払っているからだろう。
先程まで押されていた状況が一変する。
俺の三半規管を犠牲にして。
いや、多分正確には三半規管ではないんだろう。
俺の精神と肉体の動きのズレから、精神的に酔っている感覚に陥っいる。
「我が宿主にも困った物だな」
白虎に呆れられてしまった。
だけどこればっかりは仕方ないだろう。
意識がある状態で誰かに身体を動かされるなんて初めてのことだ。
「テメェにばかり良いとこ持ってかせるかよ!」
俺、というか白虎の奮戦に感化され、千國の敵を倒すペースも上がっていく。
漆原さん達も流石にトップクランと言うべきか、形勢が有利に傾いたのもあるだろうが、どうやら相手のスキルに順応して来ているみたいだ。
「レベル50くらいかな、これくらいならまだ戦える」
レベル1で戦ったことのある漆原さんなら、レベル50の状態に慣れるのも時間の問題だと思っていたが、本当に流石だ。
風間さんや服部さんの対応速度にも本当に驚かされる。
「どうやら貴方の命運もここまでのようですね」
自分の周囲の黒服を処理しきった輝夜が、ゆっくりとハデスに歩みを進める。
「ギャウギャウ」
空も近くの黒服を一掃し得意気に鳴いている。
くっ、戦場だってのに癒されちまう。
「クソ共が、調子に乗るなよ?チッ、この手は使いたくなかったんだがなぁ。大人しく殺されとけよ」
ハデスがそう言って指を鳴らす。
すると、その場にいた黒服たちが忽然と姿を消し、代わりに様々なモンスターの特徴を持った亜人達が現れる。
「檻に入れてねぇ亜人は1匹もいないんじゃなかったのか?」
そう言っていたのは紛れもないハデスだったはずだが、まさか自分が支配している人を好きに移動できるのか、とんでもないスキルだな。
「テメェらが簡単に死んでくれりゃあ、こんな汚ぇ奴らをこのフロアに呼ばなくて済んだんだがな、この落とし前はきっちりつけてもらうぜ。ここにいる亜人共は外で戦ってきたヤツらとは一味違う、どいつもこいつもフロアボス級の奴らの子供だからな」
まるでもう全てが終わったかのような口調で状況を説明してくれる。
親切なクソ野郎だ。
だが間違いなく状況は一変した。
言ってしまえば大量のエリアボスと、レベル50で戦わないといけないということ。
めちゃくちゃ不利な状況だ。
「そいつらをぶち殺せ」
ハデスの指示で亜人達が一斉に襲いかかってくる。
その強さは尋常ではなく、白虎の力ですら苦戦を強いられる。
正直皆もいっぱいいっぱいと言った感じだ。
分かってはいたが、強い亜人がいる可能性は念頭に置いていたが、まさかここまでの数を従えているとは、流石に思いもよらなかった。
漆原さんが亜人の攻撃で体勢を崩しているのが視界にはいる。
『頼む白虎、漆原さんを!』
「ええい、面倒な」
そう言いながらもかけ出すと、漆原さんに襲いかかる亜人に対して飛び蹴りをかます。
「ありがとう源志くん」
白虎はその感謝に対して、一瞬横目で漆原さんを見ると、すぐに別の亜人へと攻撃を始める。
一瞬見えた漆原さんの顔が、悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。
いや、今はこの状況を何とかする方が先決か。
「流石に疲労が溜まってきたわい、こんなマナの薄い場所ではこれ以上は厳しいな」
俺の方にも肉体的疲労が伝わってくる。
このままじゃジリ貧だ、根元を立たなきゃこちらがやられる。
『白虎』
「わかっておるわ」
亜人の一瞬の隙をついて横をぬけ、ハデスへと迫る。
「今までより速く」
その動きを察知して、 風間さんがバフを入れてくれる。
「まぁ、そう来るよなぁ」
ハデスは侍らしている女を平然と盾にするように前に立たせる。
「お前ら甘ちゃんはこれで攻撃できねぇんだろ?」
余裕そうに立つハデスと、恐怖に怯えた表情の女性たち、その対象的な光景に吐き気すら感じる。
だがその盾に白虎は問答無用で裏拳をかましぶっ飛ばすと、ハデスの腹に拳を突き立てる。
「なっ!!この……やろう……」
腹をぶん殴られたハデスがソファからずり落ちる。
『ちょっ、白虎、お前な』
『はぁ、宿主も甘い、だが安心せい、加減はしたから死んではおらんはずだ』
ちらりと横目で女性の方を見ると、確かに息はしていそうだ。
『そんなことより』
「あの時は世話になった、今日この手で貴様を殺せると思うと歓喜のあまり手が震えるわ」
憎悪と歓喜、相反しそうなその感情が渦巻いている、そんな声色で白虎はハデスに話しかける。
「あ?……テメェに恨みを買ってる覚えはねぇぞ、厄災」
確かに、俺はこいつに対して嫌悪感はあれど恨みはない。
だが、白虎はお前に対して恨みたっぷりだぜ?
「稀有な状況故、分からんのも無理は無い、そして、説明する気もさらさらない、訳もわからず死んでいくがいい」
しかし、その攻撃はハデスに届く前に、幾重もの肉の壁に阻まれる。
そう、先程まで他の人たちと戦っていた亜人が、主人を守るために一斉に駆けつけていた。
「はっ、はは、そうだ、お前らちゃんと俺を守れ、俺の為に死ねるなら本望だろ?」
くそ、やっぱり亜人を全て倒さないと、こいつはやれないのか?
「動くな!!」
ただ一言、そんな一言がこの場に響き渡る。
その途端、ハデスを守る為にこちらを攻撃しようとしていた亜人達の動きが、ピタリと止まった。
読んで頂きありがとうございます。
この声、こんなことが出来るのは、まさか!
さぁさぁこのカオスな状況、どうなる事やら。




