第90話 最愛の憎悪
「……あたった」
拳に伝わる確かな衝撃。
天明流を使うようになって長らく忘れていた感覚に、俺自身がいちばん驚いている。
だけど、だからこそ確証した。
自信に起きているズレがなんなのか。
こんな感覚だったのか、レベルが上がるってのわ。
「あ?何んな奴にやられてんだ」
ハデスが黒服に対して言葉を吐き捨てる。
「この城の中ではか、なるほど。ハデス、あんたのスキルが分かったぜ」
まぁ、正直分かったからなんだと言うんだけど、情報を武器にする戦い方もある。
「何?」
「レベルに干渉するスキル、しかもただ下げるようなスキルじゃなく、この城の中にいるレベル持ちのレベルを一定にするって感じだろ?」
千國がほぼ変わらず戦えているところを見ると、だいたいレベル50くらいになってるんだろう。
「ほう、名推理だな、で?わかったからなんだってんだ?ここに来れるようなレベルの高い奴らは軒並み弱体化、こっちにはこの環境で訓練された黒服部隊、テメェらの負けは確定してんだよ」
漆原さん達が苦戦している理由はそういうことなんだろう。
もしここに来たのが秩序之番人のメンバーだけなら、苦戦ですんだか分からない。
「だけどここには俺がいる。聞いたこと無いか?レベル上限1の冒険者」
「……テメェがあの厄災だって言いてぇのか?」
おう、流石にランカーの二つ名ともなれば、こんな地下深くにまで届いてるのか。
「お陰で随分強くなったぜ?」
レベルだけならな。
正直ブラフだ、感覚がズレすぎてて天明流を扱える気がしない。
呼吸はともかく型はほぼ使えなくなったと思っていいだろう。
単純なステータスが上がっても、それに感覚がついてこなければ宝の持ち腐れだ。
「なるほど、だけどオメェよ。俺が自分のスキルを理解してねぇとでも思ってんのか?急にレベルが49も上がって、まともに戦えるわけねぇだろ」
これでスキルを解除してくれる、なんてことは流石に無いか、しかも冷静に返されるとちょっと凹むな。
「確かに、この状況にすぐ慣れれるほど俺は勘が良くない自覚はしてるぜ、俺はな」
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「おい源志、マジでやるのか?」
スピーカーから胡貴の不満そうな声が響く。
「ああ、スキルって訳じゃないが、ものに出来れば間違いなく力になる」
「言っておくが、この施設にだって限界はあるからな!」
俺は信じてるぜと言わんばかりに胡貴へサムズアップをする。
『頼む、空を守るために、力を貸してくれ』
ゆっくりと意識を掌の魔石に向ける。
そこにあるのは圧倒的なまでの憎悪。
『人が憎い、許さない、殺す、殺す、コロす、コロス…コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!』
そのまま俺の意識は途切れることになる。
「……し!源志!源志!」
胡貴の声で我に返る。
辺りを見渡すと、実験ルームの至る所に傷がついている。
「……飲まれてたのか」
身体が妙にだるい、だけどあの時と違って意識は保ててる。
自分から話しかけたから、だったりするのか?
それからも俺は胡貴に何度もドヤされながら、毎日欠かさず白虎に語りかけ続けた。
『……何故そこまで我が子を思う』
どれくらい語りかけただろうか、根負けしたかのように、未だ残る憎悪を抑え、白虎が語りかけてくる。
『何故、と言われてもな、理由がいるか?』
『何?』
『特に考えたこともなかったけどさ、無理やり理由をつけるなら、自分のためかな』
『己の為とは、憎い人間らしい答えだ』
『そうだな、誰かの為とかそんな綺麗事が言えるほど、俺はできた人間じゃない。空と過ごす生活が幸せで、それを守れる力が欲しい。だから力を貸してくれ』
『なるほど、我が子の幸せが我の幸せのように、お前もそうだと言いたいわけか』
身体に力がみなぎる、意識もはっきりしている。
「今の会話、俺の妄想じゃないといいんだけど」
「源志、やったのか!」
スピーカーから胡貴の声が響いてくる。
どうやら白虎の力を引き出すことに成功したらしい。
これで、空を、皆を守れる。
俺は胡貴に向かってサムズアップをしてみせる。
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『……変われ、変われ』
ハデスの城に来てから、ずっと白虎の声が聞こえている。
白虎の声がしっかりと聞こえたのは、多分3度目。
憎悪にまみれたその声は、厳島ダンジョンで聞いたそれに近い。
だけど、俺は信じている。
『今の状況、俺じゃ確かにどうしようもない。空の幸せはお前の幸せなんだろ、あの言葉を信じてるぜ』
「俺はなって、じゃあ誰かがこの状況を何とかできるように聞こえるぜ?」
ハデスがこちらを小馬鹿にしたような声色で話しかけてくる。
「ああ、いるぜ?お前に恨みたっぷりの奴がな」
『バトンタッチだ、派手にやってやれ』
まるで幽体離脱のように意識が身体から切り離されるような感覚、しかし意識が途切れるわけではない。
きっちり周りが見えているその不思議な感覚に、少しこそばゆさを感じる。
『敵はあのふんぞり返ってるクソと、黒服共で良いな?』
それは紛れもなく意志を持った声。
『ああ、それで間違いない』
自分の意思とは無関係に、手を何度も握りしめる。
まるで感覚を確かめるように。
『なるほど、随分と強化されているな、これなら余程のことをしても大丈夫だろう』
余程のことって、何するつもりだ?
と思った瞬間に視界がブレる。
自分の意思じゃない分、何が起きたかマジでわからない。
気づけば黒服が数人、壁にめり込んでいた。
「お主ら、簡単に死ねると思うなよ?」
読んで頂きありがとうございます!
母は強し!
さぁ、目にもの見せてやれ!




