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107.Re:ゼロから始める友人関係(3)

前回の話

イスラはノインとに交友関係を結びなおした。

ユフィー、ノインに会ってからしばらく経ち、次はミレイヌと会うことになった私は一つの葛藤を抱えていた。


(ミレイヌにどんな顔をして会えばいいのか……?)


前世でユフィーやノインにも酷いことはしたが、ミレイヌはそれに輪をかけて散々な目に遭わせてしまった。


その手口はミレイヌから家族を奪い、私だけに依存するよう仕向けた挙句に、お金を毟り取るという悪逆非道そのものな手段だった。


人間を体のいい財布扱いするその姿勢を考えれば、まともな死に方をしなかった前世での

最期はある意味当然の結末だった。


今回はそんなことはしないと決めているのは当たり前だが、それはそれとして心のどこかに申し訳なさを感じてしまう。

しかし、ミレイヌからしてみれば初対面の相手から意味も分からず謝られるのも訳が分からないだろう。


「イスラお嬢様、ミレイヌ様がお見えです」

「ありがとう。今行くわ」


そんなことを考えているうちにミレイヌが屋敷にやってきた。

まあ、あまり難しく考えても仕方がない。


今日はミレイヌと純粋に仲良くなるためのきっかけになれば、それでいい。

償いの方法はじっくり考える時間がある。


私が客間に入ると、よく見慣れた小柄なミレイヌの姿が目に入った。

椅子にちょこんと座った彼女は、こちらを見ると勢いよく立ち上がり小走りで近づいてきた。


「イスラ様! 今日はお招きいただきありがとうございます!!」

「ミレイヌさんこそ来てくれて嬉しいわ」

「ちょうど私もイスラ様とお話してみたいと思っていたところだったんです。私達、気が合いますね!」


ミレイヌは私のことを立ててくれるようなことを言いながらニコニコとした顔で挨拶をしてくれたが、その態度は冷静さを保っており、こちらの様子を伺うような慎重さを含んだものだ。


前世の最後の方ではミレイヌは狂信に近い感情を私の方に向けていたので、適度な距離感で接してくれるのは随分久しぶりに感じる。


元々ミレイヌは商人の娘としてしたたかさを持った少女だったはずだが、それを私が狂わせてしまったのだ。

今度はそんなことはないようにして、正しい友人関係を結びたいものだ。


挨拶を終えた私達は椅子に座って雑談を始めた。

他愛のない話から入ったが、それは恐らくミレイヌが場を温めるために振った話題だ。


そして話の切れ目でミレイヌは私に聞いてきた。


「そういえばイスラ様、この前のラスカル様との勝負では見事に勝ちを収めていましたね」

「ありがとう、ミレイヌさん。でもあれはたまたまよ」

「またまたご謙遜を! イスラ様が聡明な方だからあのような結果になったのでしょう」


ミレイヌの表情は先ほどまでと変わらぬニコニコ笑顔のままだが、目だけが真剣さを増している。

ミレイヌは言葉巧みに私のことをおだててくれるが、これこそが彼女が私に会いたいと言っていた理由ではなかろうか。


今まではレティシアの取り巻きの筆頭はラスカルだったが、私が現れてからそのパワーバランスに変化が生じた。

ラスカルは低い身分の者を軽視するような態度を取っていたので、貴族の中でも最下位の爵位である男爵令嬢のミレイヌは肩身が狭かったことだろう。


そんな中で子爵令嬢でありながらラスカルとも互角以上に渡り合う私が現れたことで、ミレイヌには私と懇意な関係を築き、取り巻き内での立場の向上を目指すという意図があるに違いない。

早い話が派閥を作ってラスカルに対抗しようという魂胆だ。


その考えは自然なものだし、弱者に優しくないこの貴族社会では否定されるようなものではない。

だが、私が目指すのはあくまで友人関係だ。

ミレイヌのことを自分の都合がいいように使うのは、もうたくさんだ。


「ミレイヌさん!」

「!! はい、なんでしょう!?」


私はあえて少し大きな声でミレイヌのことを呼んだ。

その声に驚いたミレイヌはようやく作り笑顔を崩した。

ここからは嘘偽りなしの直球勝負だ。


「ミレイヌさんは私と会いたかったと言ってくれたけれど、それはどうしてかしら?」

「それは、ラスカル様との件でのお話を聞いてみたいと思いまして」

「さっきも言ったけれど、あれはたまたまよ。私が特別に聡明なわけではない」

「でも、だったらどうしてイスラ様はラスカル様に勝てたのですか?」

「私の方がラスカル様よりも想いの籠ったプレゼントをレティシア様に渡せたから。それだけよ」


私はミレイヌの目をまっすぐ見つめて彼女と向き合った。

ミレイヌは私の迷いない視線に少し怯みつつも、納得のいかなさをぶつけてきた。


「それだけで侯爵令嬢をあそこまで負かすなんてあり得ません! イスラ様は私に何か隠しているに違いありません!!」


ミレイヌから出た苦し紛れの言葉は意図せず本質を突いた。

ここでその言葉を躱すのは簡単だ。

だけど、私は嘘偽りなしと決めた自分を曲げたくはない。


「ええ、私はミレイヌさんに隠し事をしているわ」

「え?」


私は前世のことは話さない。

だけど、何か隠していることは伝える。


対等な友人関係の中で、隠し事、というのはグレーなものだと思う。

だけど、これが今の私にできる最大限の誠意だ。


困惑するミレイヌに、私は話を続けた。


「そういえば、私がミレイヌさんを今日ここに呼んだ理由をまだ話していなかったわね。私は、あなたと友人になりたいの」

「友人、ですか。私にとっては願ってもいない話になりますが、イスラ様には何かメリットがあるのでしょうか?」

「損得なんてどうでもいい。私は、あなたがミレイヌさんだから仲良くなりたいの」


ミレイヌは“メリット”という単語を持ち出したが、商人らしい考え方だ。

友人になるのに理由は必要ない、ということを理解してもらわなければならない。


だけど、ミレイヌは私の言葉の真意を量りかねている。


「お言葉は嬉しいですが、先ほどの隠し事の件も含めて、私にはまだイスラ様のお考えがよく分かりません」

「それもそうよね。おかしなことばかり言ってごめんなさい」

「いえ、謝るようなことではありません! むしろ私が至らないばかりに申し訳ありません!」


ミレイヌはしきりに頭を下げてくれたが、これは私が望む関係とは遠いものだ。


結局この日は最後まであまり親しくはなれなかったように感じた。

ミレイヌが帰った後、私は自室で一人自問した。


(私は本当にミレイヌと友人関係になれるのか……?)


そもそもミレイヌと私では爵位が違う。

ミレイヌはノインとは違い、社会性が高いので、そういった上下関係には敏感だ。

いくら私が対等に、と言っても聞いてくれるか分からない。


そしてそれよりも深刻な問題がある。


(私は、“知り過ぎている”)


ミレイヌは私の考えを良く分からないと言った。

これは当然のことで、彼女が私という存在を知ったのがつい最近のことだからだ。


しかし私は前世での経験からミレイヌの性格、好み、抱えている悩みなどプライベートなこともかなり深く知っている。

この情報量の非対照性を残したまま友人関係など築けるのか。


課題はまだまだ残っているが、今世での私とミレイヌの関係はまだ始まったばかりだ。

これから頑張って進んでいくしかない。

次回投稿予定日:7月16日(火)

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