106.Re:ゼロから始める友人関係(2)
前回の話
イスラはユフィーとに交友関係を結びなおした。
梅雨になり、雨の多くなった頃。
こういった時期は屋内でできることが捗るものだ。
そんなある日、私はレティシアの取り巻きの一人であるノイン・ヴァレンシュタインを屋敷に招いていた。
「……お邪魔します」
「足元が悪い中、来てくれてありがとう、ノインさん」
前世でも接点のあったノインではあるが、私が思い出すことができる彼女の顔はいつも同じような顔だった。
無表情に近い、変化に乏しい表情。
今の彼女も同じような顔をしている。
「突然声をかけて驚かせてしまったかしら?」
「……いえ」
「ノインさんと少しお話してみたかったの。今日はよろしくね」
「……はい。よろしくお願いします」
ノインがローテンションなのはいつも通りではあるものの、少し他人行儀な感じが強い。
とはいえ、ノインにとってはほとんど初対面みたいな相手なのだから当たり前だ。
ならばここから始めていけばいい。
私とノインの新しい関係を。
私はノインを客間ではなく、書庫に通した。
(そういえば、前もこんなことがあったな)
前世の時もこの部屋にノインを呼び、一緒に本を読んだりしたのを思い出した。
例に漏れず、私は前世でノインのことを駒の一つとしてしか考えておらず、その時は私自身を唯一の友人として認識してもらうよう動いていた。
そして、信頼を得られたところで、私にとって都合の良いように動かすために、虚言で彼女を惑わせた。
今回はそんなことをするのはやめて、ノインにも私の傀儡としてではなく、自分自身の人生を歩んでほしい。
そのためには、まずは対等な友人になるところからだ。
「ノインさんのお父様は裁判官をされているのよね?」
「……はい」
「ノインさん自身もそんなお父様から色々教わっていて、教養が深いと伺ったけれど」
「……ほどほどです」
まずはアイスブレイクと思い、ノインにとって馴染みのある話題を出したつもりだったが、どうにも食いつきが悪い。
しかも心なしかこちらを見る目つきが鋭いような気がする。
一体なぜだろうか。
疑問に思っていると、ノインは私に問いかけた。
「……イスラ様、この前のラスカル様との勝負はどういう意図だったのでしょうか?」
「どういう意図も何も、私は自分の思うままに発言をしただけよ。後は、話の流れで勝負することになっただけで」
「……質問を変えます。あなたは何故、ラスカル様を負かすことができたのですか?」
「それは……」
「……ラスカル様は私達のような身分の低い者には高圧的に接する方なので、思うところがあるのは理解できます。しかし、いくら何でも出来過ぎている」
ノインは淡々と自分の考えを並べた。
ユフィーは何の疑問も抱かずにいたが、よく考えればいきなり現れた子爵令嬢が侯爵令嬢に喧嘩を売り、なおかつ勝利するなど何か裏があるのではないかと疑いたくなるような筋書きだ。
まさか、私がこの世界を生きるのが二週目だとバレた?
ありえない可能性に少しだけドキッとしたが、ノインの話は思いもよらぬ方向に進んだ。
「……イスラ様はレティシア様の弱みを握ってラスカル様を負かすようレティシア様を脅したのではないでしょうか? そうとしか考えられません」
「違うわよ? 私はそんなことしないわ」
どうやらノインは私が良くない手段で勝利を得たと思い込んでいるみたいだ。
確かにノインは私が吹き込んだ陰謀論を信じ込んだり、思い込みの激しいところもあった。
しかし実際に汚い手段を使っていた前世での私は無条件で信じられ、真っ当に生きている今の私は裏を疑われるとは皮肉なものだ。
ノインは私の否定にも納得できないといった様子だ。
「……では、なぜイスラ様はラスカル様に勝てたのでしょう?」
ノインの疑問は結局そこに落ち着いた。
なぜ勝てたか、と言ってもラスカル自身が自滅したとしか言いようがないが、それを予測できたのは前世で得た知識があったからだ。
(前世のことを話すのは……流石に突飛過ぎるか)
嘘を吐いて言い訳をしたくはないけれど、今の私とノインの関係では、下手に前世のことを話すと逆に信頼を失いかねない。
そのうち全てを話すことになるかもしれないけど、今はその時ではない。
それならば、何と言うべきか。
(悩むまでもないか)
隠し事はしても、嘘は言わない。
それは自分で決めたことだから、少し恥ずかしさはあるものの、ノインには本当のことを話すことにした。
「私がラスカル様に勝てたのは、私の方がレティシア様のことを深く想っているからじゃないかしら?」
「……え?」
ノインは予想外の回答だったのか、珍しく露骨に驚きの表情を見せた。
私は気にせずに堂々と自分の想いを語った。
「私はレティシア様のことが大好きだし、どんなものがお好きか調べて、考えた結果、プレゼントを喜んでもらえただけで、それ以上のことはしていないわ」
「……イスラ様はどうしてレティシア様のことがそんなにお好きなのでしょうか?」
「理由なんているかしら? あんなに優しく、美しく、聡明で高貴なお方は中々いないと思う。ノインさんもレティシア様のことが好きだからお側にいるのではなくて?」
「……それもそうですね」
少しばかり大げさな物言いにはなったが、私の熱弁でノインは納得したみたいだ。
私達取り巻きは多かれ少なかれレティシアのことが好きだから集まっているのだ。
ノインも前世ではレティシアのことを尊敬しているようなことを本人が言っていた。
「……先ほどは失礼なことを言ってしまいました。申し訳ありません」
「分かってくれたならいいわ」
ようやく自分の思い込みが勘違いだったことに気が付いたノインは私に深く頭を下げた。
今回は勘違いで済んだが、やはりこの子はこういった危うさがあると再認識させられた。
ノインは頭はいいけれど、時に自分自身の考え方を客観視できていない時がある。
必要なことはいろんな他人の考え方に触れることだ。
そのためにできることはこれから考えるとして、今日は改めてノインとの交流を深めよう。
「それよりノインさん、今日は読書をしましょう。ノインさんの好きな本を教えてくれるかしら?」
前世の時は、あまり興味のない恋愛系の小説を読んでいたが、今回は好きなものを選ぶようお願いした。
よく考えると、私はノインの好みはあまり知らないかもしれない。
友人として接していくならば、そういった好みのことも良く知っておきたい。
「……好きな本、ですか」
ノインは本棚を眺めながら物色を始めたが、やがて一冊の本を手に取った。
その本は法律の入門書だった。
本を大事そうに抱えてノインは教えてくれた。
「……この本は私が法律を勉強する時に何度も読んだものです。ただの説明だけではなくて、分かりやすい解説も挟まっていて、読み物としても面白いと思います」
その本には見覚えがあった。
私も前世で法律の勉強はたくさんしたのだが、その時に役に立ったものだ。
ノインの言うように、内容は専門書であり簡単ではないものの、筆者のユーモアを交えた解説が面白く、難しい法律の話も頭に入りやすかった。
「私もその本は読んだわ。面白いわよね」
「……イスラ様も法律のお勉強をされているのですね!? 教養を深めるその姿勢、素晴らしいと思います」
「少しだけ、ね。それより、せっかくだしノインさんに法律のことを教えてほしいわ」
「……私にお話しできることでしたら、是非」
結局私たちは法律の話で意気投合した。
今はまだ前世と同じような関係かもしれないけど、きっとここから新しい道を探して、そしてノインのことも正しい道に導こう!
次回投稿予定日:7月13日(土)
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