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105.Re:ゼロから始める友人関係(1)

前回の話

イスラはラスカルの権威主義的な考え方を変えるよう動き、その結果ラスカルはレティシアとも和解した。

あれからというもの、ラスカルは他の令嬢への横柄な態度を改めて真摯に接するようになっていった。


もちろん、人間すぐには変えることができない部分もあり、時には身分の低い貴族や平民を見下すような発言をすることは残っているものの、段々とそういったことは減っていった。


そしてラスカルの態度が軟化したことで、レティシアの取り巻き全体の空気が明るくなってきたような気もする。

この勢いに乗じて、ラスカル以外の令嬢とも良好な関係を築きたい。


私の目標はレティシアを笑顔にすることだけど、私一人の力でできることには限界がある。

“みんな”の力が必要になる場面もあるはずだ。

そうと決めた私は各令嬢とのコンタクトを試みることにした。


最初に連絡が取れたのはユフィーだった。

前世では彼女が自宅での学習をサボって外出していた習慣を利用して秘密裏に会ったりもしたが、今回は正面から会いに行く。


「そうだ、メッツ。あれを用意してくれないかしら?」


私は支度をしてユフィーに会いに向かった。


「よく来たな、イスラ!」


ユフィーの屋敷に到着すると、馬車から降りるや否や声をかけられた。

その声はユフィー・グリーア伯爵令嬢本人であった。


出迎えは通常ならば使用人の仕事であり、いきなり屋敷の主人やその家族が直々に来客をもてなしては、その家の格を低く見られてしまうことにも繋がる。

しかしユフィーは恐らくそういったことを気にせず、ただ来たかったから来た、というような行動であることは容易に想像できる。


現にユフィーは満面の笑みを浮かべているし、近くで控えているグリーア家の使用人と思われる男は困ったような顔をしている。


(ユフィーらしいな)


私はそんなユフィーの様子をどこか懐かしく思った。

しかし懐かしいのは私だけで、この世界では私とユフィーが話をするのは初めてだ。

まずはしっかり挨拶をしなければならない。


「ユフィー様、突然押しかけてしまい申し訳ありません。是非ユフィー様と一度ゆっくりお話ししたいと思い、手紙を送らせていただきました」

「こっちこそ、イスラとは一度話しをしてみたかったんだ。この前ラスカルに喧嘩売ったところとか、そのままラスカルに勝ってしまうところとか、見ていてすごく気分が良かったんだ! ありがとうな!!」


ユフィーは既に私に対してかなり好意的だが、それはどうやらラスカルの件が原因らしい。


確かラスカルは勉強や敬語が苦手なユフィーにはかなりきつく当たっていたのだった。

どんな目の上のたんこぶみたいな存在であるラスカルが子爵令嬢に完敗する様を見るのは、ユフィーにとっては痛快だったのだろう。


「立ち話もなんだし、入ってくれ!」

「それでは、お邪魔させていただきます」


ユフィーはご機嫌な様子のまま、私を屋敷の中に招いてくれた。


久しぶりのユフィーとの逢瀬。

楽しい時間になる予感を感じつつ、私はユフィーに案内されて客間に入った。


客間では出されたお茶を飲みながらユフィーと世間話に花を咲かせた。

ラスカルへの愚痴が多かったが、ユフィーもラスカルの変化のことは感じており、最近はマシになったと評している。


そしてラスカルの話は彼女に勝利した私の話題へと移った。


「イスラはどうやってラスカルに勝ったんだ?」

「たまたまです」

「イスラは勝ったのに偉そうにしないんだな。そこもラスカルとは大違いだ。イスラは良い奴なんだな!」

「……ありがとうございます」


ユフィーは純真な笑顔を向けて私のことを褒めてくれたが、その『イスラは良い奴なんだな』という言葉は私の胸に刺さる一言だった。


前世での私はユフィーと表面上は良好な関係を維持しながらも、内心では常に馬鹿な女だと冷笑していた。

しかしユフィー本人はそんな私のことをことあるごとに『良い奴だ』と言ってくれた。


そして最後に私はひどい言葉をユフィーに投げかけて傷つけようとしたにも関わらず、彼女は最後まで私のことを責めなかった。


『イスラは、……嘘つきなんだな』


泣きそうな顔でそう言ったあの時のユフィーの真意は今となっては分からない。

だけど、その顔と声は今でも耳に残っている。


「おい、イスラ! どうしたんだ!? 泣いているのか!?」

「えっ?」


かつてのことを思い出していたら、目の前のユフィーに声をかけられた。

彼女に指摘されて初めて気が付いたが、私はどうやら泣いていたらしい。


目から雫が流れ落ちる感覚がある。

これは意図して流したものではなく、自然に流れたものだ。


突然泣き出した私を見てユフィーはひどく狼狽している。


「何か、嫌な気分にさせちまったか? それともお茶が美味しくなかったか?」


背後に“オロオロ”という擬音でも浮かんでいそうなほど落ち着かない様子ではあったが、私のことを心配してくれている。


やはり、ユフィーは優しい。

今度こそは彼女の優しさに報いたい。


私は手の甲で涙を拭って笑顔で応えた。


「すいません、目にゴミが入っただけです」

「なんだ、なら良かった!」


あからさまな言い訳だと思ったが、ユフィーは素直に胸をなでおろしている。

その様子がおかしくて思わず笑ってしまった。


「ふふ」

「今度はどうしたんだ? いきなり泣いたり、笑ったり。何か悪いものでも食べたのか?」


ユフィーは私が突然笑ったことに戸惑いつつも、やはり私のことを心配してくれた。


前世で私がユフィーに行った仕打ちは、もう取り返しが付かない。

本来ならばそのままで終わっていたことだったけど、幸いにも私はもう一度だけやり直すチャンスを得られた。


だから私は償わなければならない。

それは私自身が自分を許すために必要なことだ。


今の私にできることは限られているし、あくまで最優先目標はレティシアだ。

だけど、ユフィーにもできる限り幸せになってほしい。

そのためにできることをやるだけだ。


「そういえばユフィー様は運動が得意だという噂を聞いたのですが、本当ですか?」

「ああ、特にテニスは誰にも負けたことがないくらいには得意だ。イスラもテニスはやったことあるか?」

「はい。……もしよろしければ、少し教えていただけないでしょうか?」


私の提案を聞いたユフィーは分かりやすく顔を輝かせた。


「ああ! やろう!! 服はそのままだと動きにくいよな? 貸してやるよ」

「お気遣いありがとうございます。ですが、実はこんなこともあろうかと運動着を持参してきました」

「おお!! やる気十分だな!」


ここに来る前にメッツに用意させていたのは、運動着のことだった。


ユフィーがテニスで遊ぶのが好きなのはよく知っている。

それでしんどい思いをしたこともあったが、今となってはいい思い出だ。


ユフィーを笑顔にするためには、余計なことは必要ない。

一緒にいっぱい遊べばいい。

今度は、利用するためではなくて、普通の友人としてユフィーと接していこう。


着替えを終えた私達は、ユフィーの屋敷の庭でテニスを始めた。


やはりユフィーは強い。

私の実力では全く歯が立たなかった。

途中からユフィーは多少手加減をするようになってくれたが、それでもボロ負けだった。


「そろそろ終わりにするか?」

「はい……」


息も切れ切れな私の様子を見かねてか、ユフィーは自分から終了を提案してくれた。

私は疲労感のピークに達して思わずコートの中に座り込んでしまった。


「大丈夫か、イスラ?」


ユフィーは私の元に駆け寄ると、心配そうに声をかけてくれた。


きっと前世の私なら、もうテニスはこりごりだと思っていたに違いない。

だけど、今は違う。


私はユフィーの方に顔を向け、笑顔を作った。


「大丈夫です。それより、またお相手してくださいね」


人の縁は簡単に切れてしまうことだってある。

だから私は“また”という言葉でユフィーとの縁を繋ぎとめる。

そうすれば、その“また”が続く限り私達の関係も続いていく。


「ああ、もちろん!」


ユフィーも最初は少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔を返してくれた。


改めて、ここから始めよう。

この優しく、素直で、それでいて少し勉強が苦手なこの少女との関係を。

次回投稿予定日:7月10日(水)

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