第31話 奈々は何処?
魔法陣から出た桜子はその世界を見て心を奪われた。
それは桜子が夢にまで見たままの景色がそこに広がっていたからだ。
ありとあらゆる緑で飾られた木々、何処までも、何処まで深い済んだブルーの湖。
立ち上る湯気と木々の間から入る木漏れ日。
どこからどう見ても、この世の物では無いような景色。
吸う空気でさえも何だか違う…
そして見たことも無いような…んん?????見たことも無いような???
桜子はそっと水辺に近ずいてそこに咲いている花を手に取って見た。
「え~~~???これ…つゆ草?????ここ、まだ地球上?」桜子が困惑していると、
「これがムーアの花よ。」横に立った加乃がポツリと言った。
「あ、そうだ、これ!お祖母ちゃんの指輪の!これ、つゆ草そのものじゃない!葉を見ると、より一層その疑いが増したわ~」そう言いながら、ムーアの花をマジマジと見据える桜子をよそに、
「懐かしいわね。木々も、湖も、木漏れ日も、ムーアの花も、あの時のままね。」と加乃が懐かし気に辺りを見回している。
健吾も、直人も、誠もただそこに立ち伏して空を見上げ、辺りを静かに伺っていた。
彼らが感じていることも、どうやら桜子と同じようだ。
「ここがお祖母ちゃんがお祖父ちゃんに会ったという湖?」そう桜子が聞くと、
「そうよ、ほら、あの茂みの向こうに私の住んでいた村に続く道があるの。でも今はもう通れないかもしれないわね。」と加乃が言った瞬間、
「あ、痛てっ。」
「わ~!」
と声がして、直行と和人が宙から転げ落ちてきた。
尻もちをついて降り立った二人は、「えへへ」と言って頭を掻いている。
それを皆目をぱちくりとして暫く凝視した後、
桜子が「えーーーー!」と大声を出した。
「ちょっと、ちょっと、あなた達どうしたの?」
「あ、イヤ…実は…」と言ってお互い顔を見合わせた後で、
「あれ?奈々は?奈々は来なかったの?」と桜子が尋ねた。
和人と直行は周りを見回して、
「あれ?確かに奈々も一緒に魔法陣に飛び込んだよな?」と和人に聞いている。
「ちょっと、魔法陣に飛び込んだってどういうこと?」と怒る奈々に、
「あ…イヤ…魔法陣が閉じる瞬間にな、皆で同意してやっぱり俺たちも行こうって飛び込んだんだよ。」と直行が説明した。
桜子は腕を組んで、二人の前に仁王立ちして、「あなた達~!」と怒った後で、
「一緒に来たんだったら、何故奈々が居ないの?」の聞いた。
直行と和人も顔を見合わせて困惑している。
「奈々~!奈々~!居たら返事して!」そう桜子が叫んだけど、何の返答も無かった。
ただ、桜子の声だけがこだまして、辺りに響き渡っていた。
奈々からは何の返答も無い。
そこで、直行も、和人も一緒に奈々を呼んだが、やはり一向に返事が無い。
「おかしいな?確かに俺たち、手をつないで魔法陣に入ったよな?」と直行が和人に同意を求める。
「はい、奈々さんは私の手を掴んでいてくれました。でもいつはぐれたのか…全く気が付きませんでした。」そう和人が言うと、
「奈々、やっぱり向こうの世界に残ったのかしら…」そう桜子が困惑していると、
「いや、魔法陣を潜ったのは間違いない。おれはこの目で奈々が魔法陣に入った瞬間に閉じたのを見た。」そう直行が断言した。
「はい、僕も途中までは奈々さんの手を掴んでいたのを覚えています。」と和幸も証言した。
「じゃ、奈々はどこに?」だんだんと心配になって来た桜子に、
「とりあえずは長の塔へまいりましょう。何かわかるかもしれません。」とジャンが提案した。
「そうね、それが良いわね。ジャン、あなた、ここから塔までは魔法陣、開けるんでしょう?一度ギリアンに、ここから長の塔に連れて行ってもらったことがあるの。」そう加乃が尋ねると、
「はい、ここは長の塔のポータルの間に繋がっています。皆さん、少し下がっていて下さい。」そう言って、横に立っている桜子を見た。
桜子がジャンを見て、「何よ?」と言うと、
「あの…桜子様、あなたも…」と答えたので、
桜子はジャンの方を向いて、「ん???」と言う顔をした。
ジャンは少し照れながら、「あの…手…」と言っている。
桜子が手に目を落とすと、二人の手はまだつないだままになっていた。
桜子はバシーンとジャンの背中を叩いて、「ちょっと!何時まで繋いでるのよ!」と言って、手を振り払った。
「お前、失礼な奴だな。」と直人が言うと、誠が続けて、
「そうだぞ、ジャンはお前が迷わないように手を引いてくれたのに、何だその態度は!」とたしなめている。
桜子はジャンを上目使いで見て、「ごめん。」と一言言った。
「じゃあ、長の所への魔法陣を開きますので、皆さん、準備は良いですか?」
そう言って何時ものようにクイッと人差し指で眼鏡を押し上げると、皆頷いた。
そしてジャンは、長の塔のポータルに繋がる魔法陣を開ける為の呪文を唱え始めた。




