第33話
加乃の言葉に皆がギョッとして彼女を一斉に振り向いた。
「君にはこのオーブがギリアンの物だと分かるのか?」と、ダンテが尋ねると、
「はい。僅かですが、このオーブからは、ギリアンの魔法を感じます。」と加乃が答えた。
「ギリアンが亡くなってもう40年以上経つのに、このオーブだけは次の持ち主が現れないんだ。」とダンテが言うと、
「触っても良いですか?」と加乃が尋ねた。
「ああ、問題無いよ。」そうダンテに言われ、加乃はオーブに手をかざした。
その時、オーブが金色に光り、凄いスピードでバジルが無限大の形を作り出した。
小さな金の粒のようにバジルは煌めきながら、光を放って回っている。
加乃がジーっとオーブを見つめていると、オーブの中から微かに声が聞こえた。
「今、何か聞こえたか?」そう誠が尋ねると、桜子が頷いて、
「ええ、確かに…ノーラと…」と答えた。
そして誠に向かって、「ノーラってお祖母ちゃんの…」と言いかけると、
今度ははっきりと、「ノーラ…君はノーラだね?」と聞こえてきた。
皆はびっくりとしてお互いを見回した。
ジーンやダンテさえも驚いている。
どうやら、今までオーブがこの様になった事は一度も無いようだ。
加乃はオーブを抱え上げて、
「ギリアン、ギリアンでしょう?私の声が聞こえる?あなたにもう一度会いたい!」そう言って涙をボロボロと流した。
「ああ、とても懐かしい声だ…君の声を、また聞くことが出来て本当に良かったよ。」
「ギリアン、何故あの時、私から離れてしまったの?ずっと一緒に居ようって誓ったのに!」
「ノーラ、君を一人にしてしまって本当に済まない。だが僕達が結ばれた後、今まで隠されていた予言が予言の書に現れたんだ。
その事をオリバーに聞いて、私は君が身籠った事を悟った。君と私たちの未来を守るには、あの時は、あれが最良の選択だったんだ。」
そうギリアンは加乃に伝えると、彼女は首を横に振って、
「そう言う事だったのね…あなたは命がけで私と私の小さな命を守ってくれたわ。それだけで十分よ。」とギリアンに告げた。
そしてギリアンは、「私はこの世を去る時、思いったけの魔力を放出して私の残った魔力をこのオーブに閉じ込めた。また君がここへ戻ってくる時の為に…ノーラ、私には時間が無い。君はもうどうしなければならないか、ちゃんと分かっているね?」と加乃に尋ねた。
加乃はコクンと頷いて、
「桜子、こちらにいらっしゃい。」と言った。
桜子はキョロキョロとして、
「え?私?何をするの?」と言いながら加乃の所へと歩み寄った。
「桜子、このオーブに手をかざして。」
そう加乃に言われ、桜子は恐る恐るとオーブに手をかざした。
その時、急にオーブが更に光り出し、虹色の光を放ちながら宙に浮いた。
そして宙に浮いたかと思うと、オーブは忽ち虹色の光の矢となって、桜子の体の中に吸い込まれていった。
虹の光が桜子の体内に吸い込まれるや否や、桜子が目をカッと見開き宙に浮き、何か呪文のような言葉を発した。
そして呪文らしき言葉を発し終わると、桜子の体は地に降り立ち、彼女はそのまま地に倒れ込んでしまった。
そしてジャンはいち早く桜子のもとに走り、彼女を抱え上げた。
その呪文を聞いたジーンが
「まさかここで古の呪文を聞くことになるとは…」とポツリと言った。
誠はジーンの方を振り向いて、
「我、此処にありき。
我、既に甦り。
力は我に支配され、
全ての地と、全ての空は我にひれ伏すだろう。
我を得るは幸いかな。
その者は全ての業を手に入れるだろう。
我、滅びる時、力は失われ、この地と空も共に滅びるなり。」
と言う意味ですよね?と尋ねた。
ジーンは誠の方を振り向いて、「君は古の言葉が分かるのかい?」と、聞いた。
「いえ、どちらかと聞かれれると、分かりません。ただ、魔法言語や、古の言葉が話される時、自然と言葉が入ってくるのです。まるで俺の理解できる言葉に変換されたように…」と答えると、
「君は古のルナーだったよね。」とジーンが尋ねたので、
「そのように聞いています。」と誠はうなずいた。
「それだったら説明がつくね。」とジーンが言うと、誠は首を傾げて、「どういう意味ですか?」と尋ねた。
「禁断の書の中に、魔法使いの中にも余り知られていない事柄があって、それによると、古の時代にとても魔力の強い魔法使いが三人いたそうだ。
そのうちの一人がルナーと言って、全ての魔法陣と呪文を統べた。そしてもう一人がスーラと言い、全ての空と地を統べる魔法を施行した。そして残るもう一つ…これが分からないんだ。どのような魔法使いで、どのような力を持ったのか。ただ、今桜子にあったように、体内にオーブを溜めて魔法を施行したらしい。あとの二人は必要に応じて額にオーブが現れた。そしてその三人は、再びその力を得、この世に生まれ出でるとある。それが恐らく、君たちだ。」そうジーンが説明すると、
「それじゃ兄貴が…」と誠が言いかけると、
「恐らく残りのスーラだろう。」そう、ジーンが答えた。
「では彼にも洗礼を?」
「いや、彼の洗礼は私では出来ない。」
「それでは、どうやって?」
「スーラは自然界に洗礼を施されなければいけない。」
「自然界?それはどういう意味でしょうか?」
「この塔にあるポータルから、魔法の森と呼ばれる森に行くことが出来る。そこは幻覚の森であり、また命の森と呼ばれている。直人はその森へ行き、ある事をしなければならない。」
「ある事とは?」
「私には分からない。だが森へ行けば案内人が教えてくれるだろう。そう言う風に禁断の書には記されている。」
「それは命に関わることをしなければいけないのですか?」
「直人が古のスーラであれば、問題はないだろう。」
「では直人がスーラとして洗礼を受けた後は?」
「3人が古の魔法使いとして覚醒すれば、何かが起こる筈だ。」
「何かとは?」そう直人が聞き返すと、
「禁断の書には隠された部分があり、私達ではその情報を得ることが出来ない。古の三人が覚醒するとき、何かが起こるだろうとある。ただ、桜子の発した言葉と関連がある筈だ。分かっている事はそれだけだ。」とジーンが答えた。
「じゃあ、兄貴は何時その森へ?」と誠が聞くと、
「森への道が開くのは満月の夜の午前零時だ。暦を計算すると2週間後の今日だな。」とジーンが答えた。
「2週間後か…」そう言って誠はジャンの抱える桜子の方に目をやった。
そしてそこには顔を少し歪ませて、目を覚まそうとする桜子が居た。




