第17話 必殺
桜子と和人はバス停でバスを待っていた。
「大木さん、何か思い当たることでもあるの?お兄さんが何だか一枚噛んでるみたいだけど、一人で大丈夫? 家まで送ろうか?」そう和人は桜子に尋ねた。
「和人君、ありがとう。でも大丈夫よ。マコ兄のヤツ…何が裏クラブよ、何が生徒会は何か知ってるかもよ!! 自分が首謀者っぽいくせに! 帰ったらとっちめてやるゥ~~~。」と、桜子は相当おかんむりのようである。
「私、速攻で帰ってマコ兄捕まえるから、ここでね。明日また。今日は一緒に行ってくれてありがとう!」そう言って家へ行く方面のバスが来たので、和人より一足早く乗り込んだ。
シートに座り、バス停に今だ立ってバスを待つ和人に窓から手を振った。
「ただいま~。」家に帰るなり、桜子は玄関に靴を脱ぎ棄てて、誠の部屋めがけて走って行く。
そして誠の部屋のドアもノックせず、バーンとドアを開けて仁王立ちしている。
誠は相変わらず家に帰ると部屋に引きこもり、ゲームに夢中になっている。
桜子が後ろで仁王立ちしているのも構わず、コントローラーの操作に忙しそうだ。
桜子はツカツカツカと誠に歩み拠って、スクールバッグで頭をスコーンと殴った。
「おまっ、何すんだよ!」
桜子はワナワナと直立し、
「自分の胸に聞きなさいよ!」と相当怒っている。
誠はニヤッと笑って、「楽しめただろ?」と一言、言った。
「何が楽しめただろ?よ! 私、友達まで巻き込んであっちに行ったり、こっちに行ったり、もう大迷惑よ!」
「ま、お前が他人に大迷惑かけるのなんて、お手の物だろ?今更!」と良く桜子の事を知っている。
「それより、裏生徒会長って何なのよ! 家ではいつもボケーっとしてるくせに、訳分からないわよ!」とカンカンな桜子に
「どうやって俺が裏会長だって分かったんだ。」と尋ねた。
「学校で色々と聞き込みしてた時に、裏会長の噂を耳にしたのよ。最初はもちろん噂だと思っていたけど、ハッキングの天才だとか、喧嘩が強いとか、ライオンみたいだとか、必殺仕事人みたいとか色々とつなぎ合わせていったら、そう言えばマコ兄、コンピュータにかけては天才的だったなとか、見た目はアレだけど、喧嘩なんて負け知らずだし、後ろから見るとライオンそのままだし、極めつけは…マコ兄のカバンから生徒たちの願い事メモをいくつか見つけたのよ~」と言って桜子は今だに信じられないような仕草をしている。
「お前、何時、俺のカバンなんて開けたんだよ! それってプライバシーの侵害!」
「だって~辞書を借りに来たらお兄ちゃん居なくて、カバンが開いてて手紙みたいな束が覗いてたから、ラブレターかな?と思って…そうだったら、からかってあげようと思っただけなの!」と形勢逆転している。
そして段々と弱気になってくる。
桜子は兄に対して弱気になると、猫なで声でお兄ちゃんと呼ぶ癖がある。
悪く言うと、ただ単に甘えているのである。
「全くお前は…」と言ってポンと桜子の頭をなでる。
兄達も桜子にはてんで弱い。
「で、何がどうなって裏会長になったの?」と尋ねる桜子に、
「生徒会長である海の願いなのさ。」と答える。
「何故そこまでして?」と尋ねる桜子に、
「ほら、正規の生徒会長だと、手が出せない部分とか出て来るじゃないか。学校とのぶつかりで。あいつは根っからの優等生だからさ、ブラックな部分が俺に回って来たのさ。あいつとは小学校の時からのダチだからさ。酸いも甘いも、俺の事を良く知ってるんだよ。適役だってね。」
それを聞いて桜子が呆れかえっている。
そして続けて、「でもさ、そんな友達、お兄ちゃんにいた~?」と言って少し考え込んでいる。
すると束さず誠が、
「居ただろ、家にも良く来たじゃないか、小学低学年の時は、お前に良くピーピー泣かされた…」というのを聞いて桜子は、
「……、海坊主????? うちの学園の生徒会長って海坊主なの~?!」とびっくりしている。
「だって…だって…あいつ、眼鏡でチビでガリでお兄ちゃんの後ろ何時もひっついて回ってて、今と全然ちがうじゃなーい!」と叫んでいる。
「あ~、お前があんまりいじめるから、家からはちょっと遠のいたけどな。学校では何時も交友があったんだよ。」
それを聞いて桜子は「ゲッ」と一言、言った。
「あいつが生徒会長…あのイケメン君が海坊主…」と今だに信じられない。
「ああ、あいつホント、生真面目な奴でな、どうしても生徒たちには学園の型にはまらずに、少なくとも、自分が生徒会長の時は、学生生活を精一杯楽しんでもらいたいってな。」
「じゃ、必殺みたいにしてお兄ちゃんにブラックな部分を任せて、生徒の願いを叶えてたって訳なのね。でもどうやって必殺が居るって噂が広まったの?」
「決まってるじゃないか。生徒会がわざと広めたんだよ。」
「汚いわね~ 腹黒!」と桜子が言って、
「でも、お前も楽しめたろ?」とニヤッと笑って見せる。
「何なのよ、この学園は!私の苦労が~~~」と、頭を抱え込んでいる桜子に誠が、
「誰にも言うんじゃないぞ。」と一言。
それに対して桜子は「努力はする」と答えた。
「あ、そう言えば、義人って知ってる?」
「義人?」と誠は聞き返した。
「放課後、海坊主に煽られて、あるビルにある部屋に行ったのよ。そしたら、義人って人が居て、凄い奇麗に魔法陣を壁に描いてたの。で、同人誌も出してて、お兄ちゃんに色々と情報をもらったって。あ、ちょっと待ってて、私、その同人誌持ってるから、ちょっと取ってくる。」
そう桜子は言い残して、自分の部屋まで走って行った。
2,3分ほどして、同人誌を片手に抱えて、桜子が誠の部屋に帰って来た。
「ほら、この本」と言って誠に差し出した。
本の中には、魔法に関する歴史や、恐らくおまじない程度であろう魔法の類や、シンボル、また、ポーションの作り方や、色んなイラストなどが描かれていた。
誠は「うーん誰だったかな…色んな奴に頼みごとをされるから、一つ、一つ覚えてないんだよな。」と言った。
「あ、でも、この人、必殺の仕事じゃないと思う。お兄ちゃんの事知ってたから。」と桜子が言う傍ら、ページをパラパラとめくっていると、一つのメモがヒラリと本の中から落ちてきた。
桜子は「こんな物入れた覚えないんだけど、何だろう」と言いながらメモを拾い開けてみた。
中には義人が、クラブの部屋の壁に描いた魔法陣が書いてあり、魔法陣のシンボルや、文字についての一つ、一つの意味が事細かに書かれていた。
「お兄ちゃん、これ見て。」そう言ってメモを誠に渡すと、
「あ~このメモ。そう言えば、お祖母ちゃんに頼まれた本を本屋に受け取りに行った時に、本屋のミステリー部門でブツブツ言ってる子がいたから声かけたんだよ。で、魔法陣に付いて調べてるけど、中々これと言った本に巡り合わないって言っててね。それでそのメモを上げたんだよ。丁度カバンの中に入れていたからね。こんな魔法陣見たこと無いって凄いよろこんでね。」
「それでお兄ちゃんの事知ってたのね。」
「ああ、丁寧に自分たちのサークルの宣伝もして行ってくれたよ。いつかお前が世話になるだろうからと、海に頼んでいたんだ。もしお前が裏クラブを探して生徒会を尋ねたら教えておいてくれって。」
「そんな裏話があったのね、でもこんなメモ、何処で見つけたの?お兄ちゃん、魔法なんて興味ないでしょ?」
「お前、ゲーマーを舐めるな。ゲームに出て来るあらゆる知識を習得するのは俺のモットーなんだ。今のゴールはスケールのでかいファンタジーのゲームを作る事でな、イラストを描くのもその一部分なんだ。その時ちょうど魔法陣のイラストを描いていたんだ。クリエーターになるには色んな事に精通してないとな。」とブレイン自慢である。
「でもさ、お兄ちゃん、私、この魔法陣、どこかで見たことがあるような気がするんだよね。」と桜子が言うと、
誠が眉をしかめて、
「あ、やっぱりか?」と答える。
「どういうこと?」と桜子が聞き返すと、
「俺も分からん。魔法陣を描き始めたら、不思議と手が進んでな。何だか前にも同じのを見たことあるような気がしてな。何も考えずにスラスラと出てきたんだよ。不思議なもんだよな。」と誠。
「ね、きっと私達、どこかでこれと同じものを見たことあるんだよ。」
「ほんとにな、でも、一体、何処で見たんだろうな?」
そう言って二人は不思議そうにその魔法陣を見つめていた。




