第9話 彼津野第三迷宮
# 彼津野第三迷宮
*かづのだいさんだんじょん*【固有名詞】
## 意味
1. 宮浜県彼津野市に、ある日突然現れた迷宮だ。市内で三番目に確認された、比較的新しい迷宮だ。主に初心者の探索者が訓練のために潜ることが多い、比較的に御しやすい魔物が生息している。奥の階層には、まだあまり情報がない未知のエリアがあるとも言われている。
## 解説
彼津野の地に現れた迷宮の中では、三番目に発見されたから、この名前がつけられたわん。初心者向けの迷宮であり、比較的安全に探索ができる場所として知られているんだわん。そのため、新米の探索者が迷宮探索許可証を取得して、初めて潜る迷宮として選ばれることが多いわんね。とはいえ、油断は禁物だわん!奥へと進めば、強力な魔物が現れたり、珍しい魔石やアイテムが見つかる可能性もあるんだわん。特に、この迷宮特有の、探索者を惑わす、ちょっと不思議な重力魔法陣が存在するわん。移動に少し慣れが必要なギミックだわん。
## 閲覧者コメント
* 彼津野第三迷宮は初心者の登竜門だわんね。基本を学ぶには最適だけど、油断すると痛い目に遭うから気をつけるわん。 -- 熟練探索者 疾風のジン
* この前、第三迷宮で初めて魔物を倒したんだ!もっと強くなって、いつか奥の階層まで行ってみたいわん! -- 新米冒険者 コボルト・コボ太
* 第三迷宮は、他とは異なる独特の魔素の揺らぎが観測されているわ。特に重力魔法陣周辺のデータは興味深い、研究の価値があるわね。 -- 研究者 アリス・ローゼン
## 追記メモ
- 第三迷宮の奥の階層で、特定の魔物が非常に珍しい魔石をドロップするという噂があるわん。未確認情報だけど、検証の価値はあるかもしれないわん。
- ナビゲーターさんから聞いた話だわんが、第三迷宮は特定の条件で迷宮再構築が起こりやすいらしいわん。今後の動向に注目だわんね。
◆ ◇ ◆
「シンラ君が最初に潜るならこの『彼津野第三迷宮』が良いと思うの」
昼ご飯を食べながら週末の初ダンジョン探索に向けてパーティを組んだ立夏さんと探索先ダンジョンについて打ち合わせをしている。
場所は昨日と同じく生産科の研究棟の一室だ。有名人でもある立夏さんと教室や食堂で打ち合わせをする勇気はない。
「初心者オススメのダンジョンだな。ちょっと調べてみるけど大丈夫か?」
『も、もちろんわん! ダンジョン辞典だからダンジョンの事はおまかせわん』
何気に実在のダンジョンについて調べるのは初めてかもしれない。
「ところで『ダンジョン辞典』というか、『万象言海』のスキルでできることにはどんなものがあるの?」
いつの間にか昼食を食べ終わっていた立夏さんは研究者モードでノートPCを広げていた。
「まずは『ダンジョン辞典』の表示。これは他の人には見えないタブレットが目の前に出るんだけど、エアフォンの『ダンジョン辞典』アプリとほぼ同じかな……」
今となってはサイズが大きくて見やすいのがメリットなだけだ。
「あ、別な単語へのリンク作成はこのタブレットからしかできないか。で、機能としては単語のページへのリンクの作成、単語のページ作成が基本でそれぞれMPを使用する。いつの間にか増えた機能として直接単語のページを作成があって、こっちはリンクからのページ作成よりもMPの消費が多い。後はスキルの機能と言うべきかわからないが、ナビゲーターがついていておしゃべりができる」
「ナビゲーターいいよねー。私も欲しいかも」
彼女の目は俺のエアフォンの中でなにやら作業をしてる風のわんこの尻尾に釘付けとなっている。
『書けたわん! けど、情報が少ないんだわん。やっぱりマスターが実際に足を運んだほうが得られる情報は増えると思うわん』
「情報が増えた場合、『ダンジョン辞典』の中身には反映されるの?」
振り向いたわんこを立夏さんが細い指先でつついている。
『え、あー、えーと、自動での反映はされないわん。ただ、ページを書き直すことはできるわん』
「なるほど、ページは新規登録に更新も可能、っと。どうやらシンラ君のスキルの機能についてはわん太君に色々聞いたほうが良いみたいね……」
彼女の伊達メガネ、いや、ARグラスが怪しく光った気がした。
ワキワキと動いている彼女の手は見なかったことにして『彼津野第三迷宮』のページを読む。
「情報として目新しいというか、特筆すべきことはかかれてないな」
強いて言えば公開してすぐだと言うのに閲覧者コメントが多くついているぐらいだ。
なんだが語尾にわんをつけてる探索者が増えて……、コボルトは犬だから問題ない気もしてきたがもう一人は普通の探索者だよな。
「いえ、気になる情報もあります。まず、未知のエリアですけど、彼津野第三迷宮は完全踏破済みです。だからこそ初心者向けとして推奨されています。そこに未知のエリアと言うのは例え噂レベルでも注意すべきです。それに、特定の条件で迷宮再構築とメモの方ではありますが書かれています」
立夏さんがじっとわん太を見つめた。
「このメモもわん太君が書いてるのですよね? 詳しく聞くことはできますか?」
目が泳いでいるわん太の耳が伏せた。
『うーん、ボクが書いていると言えば書いているし書いていないと言えば書いてないわん』
なんとも歯切れの悪い返事が返ってきた。
「なんだそれ? お前は『万象言海』の編纂者なんだよな? じゃあ、執筆もしてるんじゃないのか?」
『執筆してるのはボクだけど、ボクが直接書いているわけではないわん。あくまでもダンジョン辞典を更新してるのはマスターのスキルで、ボクはスキルから生まれたナビゲーター。根源は同じだけど役割が違うわん?』
自分でも上手く説明できないのかわんこは首をかしげる。
「ナビゲーターの存在自体が謎に包まれているんだし、わん太君とスキルの謎は一旦置いておきましょう。後は重力魔法陣への言及が多いのも気になるけど、迷宮再構築については詳しく知りたいわ」
「迷宮再構築は授業でも習ったけど、珍しいやつだよな。ダンジョンが改造、いや、改装されるんだったか」
「ええ、ダンジョンの謎の一つと言われてますね。『ダンジョン辞典』があれば核心に迫れるかもしれません」




