魔物達の蹂躙祭 〜王都防衛戦 後編〜
「ガァァアアアッ!!!」
オーガの咆哮。とてつもない音量が王都中に響き渡る。
「私が行く」
そう言って飛び出したクナイは数本の苦無を手に取ると、目に見えぬ速さで投げた。
高速で飛来するそれは、オーガの頭、両腕両足、心臓を目掛けて一直線へと向かっていく。
かつて冒険者試験で一度喰らったこの技は、その時よりも遥かに上回る速さだ。
「<蓮華>」
オーガは鮮血を吹き出して絶命する。その血は確かに蓮華の如く咲き誇り、背中を向け技名を告げるクナイは前よりも格段に強くなっていた。
「クナイにだけカッコつけさせる訳にはいかないですね」
負けじと飛び出したサクヤは、ゴブリン数十匹を目の前にコツっと足音を鳴らす。
「さぁ醜い小鬼よ。せめて楽に逝かせてあげます──『咲き誇る薔薇』」
足元から一斉に吹き出る薔薇の棘はゴブリンたちが為す術なく絡み取り、そして鮮血を薔薇として絶命していく。
「私と似てる気がする」
「そんな事はないですよ──ッ!!」
口論する二人に襲いかかるはポイズンスパイダー。口から放たれる毒と尾から放たれる鋼鉄の糸は非常に厄介で、まさにその毒牙にかかろうとした所をレーデがカバーした。
「話してる暇はないわよっ!」
「そのようですね。ありがとうございます」
「ん。ごめん」
謝罪し即座に魔物討伐へ向かう二人を背後に、レーデは魔法を放つ。
「焼き尽くしなさい──『荒れ狂う獄炎』」
サラマンダーとの試練の時に受けた『荒れ狂う獄炎』。
魔法陣から噴射される高熱の炎が、刹那のうちにポイズンスパイダーを丸焼きにした。
だが、その近くにもう一体のポイズンスパイダーが居たようで、上級の魔法を放ちスパンがあるレーデに襲いかかる。
俺が行こうと思ったが、俺よりも先にアイツが飛び出していた。
「拙者が行くでござるっ!」
放たれた鋼鉄の糸をものともせず、まるで紙切れを切るが如くカグヤは刀を振るった。
「<烈風斬>」
目にも止まらぬ神速でポイズンスパイダーを切断した。
初めて会った時のポンコツはどこへやら頼もしい背中につい顔を綻ばせる。
「おっと、俺もやらないとまずいよなッ!」
アイシングキャット、ゴブリン、ファングウルフ。まぁ勢揃いでお出迎えですか。
これは退屈しないかな?
「さぁ来いよ。一瞬で終わらせてやる」
先陣を切ってきたのはファングウルフ。その素早い機動に、恐ろしいのは牙だ。見習いたい歯並びではあるが、そのパワーはえげつない。
そんな奴に得意分野で挑むなんて馬鹿な話である。
「オラよっと」
丁度転がっていた手頃な石を投げると、ファングウルフは構わず突っ込んでくる。
まぁそう来るよな。お前にとって小石なんてただの蝿と同じだ。
が、それが命取りなんだよなぁ。
「それ弾丸だよ──<銀滅の弾丸>」
凝縮した魔力を纏った小石が正面からファングウルフを貫いた。
「近距離相手には遠距離ってのが鉄板だぜ。っと、次はアイシングキャットだな」
ゴブリンも一緒に来てやがる。
アイシングキャットが遠距離で氷属性を放つ、ゴブリンが近距離で攻撃。確かに悪くない作戦だが──
「俺には届かない──<縮地>」
一瞬にしてアイシングキャットへ間を詰めると手刀で切断。絶命させる。
あまりの出来事に放心しているゴブリンたちの首を『星喰』で切り落とす。
「ガァァアアアッ」
ハハッ。オーガもポイズンスパイダーも、上からはガーゴイルまで。
そろそろ魔力が減ってきたし、やるか。
「<魔力・絶>」
魔物達は何が起こったか分からないといった様子で絶命していく。
これである程度終わったかな。
「クリクソン、とりあえずこのフェーズは乗り切ったみたいだぞ」
「·····俺のセリフ思い出してみて」
「ん? セリフ·····?」
新しい記憶として残っているのは。
「『よしっ、ひとまずこのフェーズを乗り切るぞッ!!!』」
「それなのにお前らで終わらせちまったやん」
「·····」
「俺が仕切ってみんなで頑張るシーンを、お前らが秒で瞬殺しちゃったよ·····」
「やっちゃったZE☆」
「いや、やっちゃたぜじゃないだろ!?」
でもやっちまったもんは仕方ないな。うん。仕方ない。
「とりあえず──」
「話を切り替えるな。俺めっちゃダサいじゃんか。タンクとして見せる気満々だったのに」
「とりあえず、何故フェーズごとに分かれているかそれの考察といこうか」
「無視かよっ!?」
まぁシリアスだからね。仕方ないね。
ここでギャグ要素持ってくるとややこしくなっちゃうから。
それに、変な胸騒ぎもする。
「確かに十分な戦力は揃ってるはずだから一気に攻めてきた方が確実に王都を落とせたわよね」
「ん。そうなると別の目的があると見ていいと思う」
「そうだな。別の目的か·····」
涙目になっているクリクソンを尻目に、俺たちは考察に耽る。
「そもそも恐怖を集めることが目的じゃなかったのではないか?」
「そこなんだよ。魔王因子術式を展開するのに必要なのが人の恐怖。まぁ負の感情だな。なのに、王都の避難は完了しているのにも関わらず攻めてくる。しかもフェーズ事に分かれてな」
クリクソンの言った通り、誰かが来るのを待っていたのか?
──となると、だ。今ここに到着したのは俺たちとエルサ、セリカの七人。
この中で『魔王の意思』と関わりがあるのが俺とクナイとサクヤかな。
一番確率が高いのはクナイだが·····。
「ルーロ、心当たりある?」
「·····いや、まだ確証までには至らないんだよ」
チラッとクナイを見る。
確率が高いと判断したのは望月家の一件だ。あれは望月家を抱き込んでまでクナイに接近しようとしたのには理由があるはずだ。
次に可能性があるのが俺。俺は『死門』を所持している。
師匠が言うにはこれを誰にも取らせてはいけないとの事だ。これが俺の手から離れると世界の終わりが近づくって。
んで、狙ってくる連中で思い浮かぶのが『魔王の意思』だ。あいつらはサクヤの一件で破滅の世界を展開するナニカを生み出した。
なら、総合的に見て俺が狙いだな。
『死門』を奪い返しに来たってのが正解か。
なら、わざわざ王都を襲ったのは? 俺と戦うため? 分からねぇ事が多い。
「クソっ」
そんな俺の手を柔らかな感触が包み込む。
「大丈夫」
「あ、あぁ。ありがとな」
見るとクナイの手であった。
暖かくて気持ちがいい。心が穏やかになっていく。
一人で隠し切るのも難しい頃合になってきたな。そろそろ打ち明けるべきだ。
「なぁ話しておきたいことが──ッ!」
そう思って口を開いた瞬間、おぞましい殺気が肌を突き刺す。
この感じ、あのナニカの気配に似ている。
「ようやく来たね。ルーロ」
「誰だお前はッ」
空から舞い降りるのは見たことの無い青年。だけど、心が、俺の中にある全てが見覚えがあると教えてくる。
「僕はアルカ。君を殺す者さ」
やはり俺が狙いか。
にしても喋り方が少しおかしい。無理やり感情を押さえ込んで、努めて冷静さを貫いているような感じである。
「でもここでは戦わない。君の本気を潰したいんだ。だから──」
アルカと名乗った青年は指を鳴らす。
だが、特別何かが起こったような気配はしない。
「そんなに悠長にしてていいのかな? 今の音は魔物に信号を送ったんだよ。スタンバイさせていた魔物達は一気にある場所にへと走り出す。そう──ナリン村にね」
「ナリン村って言ったの!?」
レーデが驚愕する。
だってナリン村は俺たちの故郷。
「てめぇっ!!」
「だからそんなに悠長にしてていいの? ハハッ。ほら、ファングウルフとかはそろそろ村に着いてるんじゃないかな?」
その言葉を聞いた瞬間、セカンドをフルバーストにして駆け出した。
父さん、母さん、ネル。無事で居てくれ。そう祈りながら最高速度で向かったのだった。




