魔物達の蹂躙祭 〜修行の成果 前編〜
ルーロが一瞬にして消えたかと錯覚するほどに去った直後、それを追おうとしたクナイたちの動きをアルカが止めた。
「君たちは行かせない。これは僕とルーロの戦いで、あいつを殺すことでそれは終わる。それに邪魔される訳にはいかないからね」
再度、指を鳴らすとそれが信号として魔物達に伝わる。
直後、地面が揺れ、大地が震えた。それは全て魔物達の足音で奏でられたものである。
「今までフェーズ事に分けていたのはこちらの戦力の温存。さて、今までよりも遥かに上回る魔物達の数に君たちは王都を捨ててルーロを追えるかな? 追える訳ないよね。冒険者だもの。それに追えるほどの余裕なんてないよ」
「待ちなさいッ!」
レーデの制止も聞かず、アルカはルーロを追うため去っていった。
「このままじゃ、私たちの村が·····」
「村はルーロに任せて、私たちは防衛」
クナイの言葉に、レーデは頷く。
頭では理解しているのだ。それが最適解であると。だが、何処か引っかかる。あのアルカという人物にはどこか既視感を感じさせた。
が、次いで聞こえてくる魔物達の雄叫びにその思考は隅にへと追いやられた。
「なに、魔物達を倒して追えばいいだけの話でござる。その力は得たのだから」
「そうね。やるしかないわね」
眼前にへと広がる魔物達の大軍。
それを視界にへと収めた瞬間、クナイたちは攻撃を始めた。
「クリクソンっ、シドウって奴にガーゴイルとかの飛行隊の対処をお願いしたいのだけど」
「任せろ。じゃあエルサとセリカはそっちを頼む」
「「了解」」
短い伝達と、即時の判断で作戦を決めるとクナイとセリカが飛び出した。
「オレたちは機動力が高い。魔物達を分断するぞ」
「ん。分かった」
クナイが右側に、セリカが左側にへとそれぞれ駆け出し、魔物達がそれぞれに分断した。
だが、もちろん全体が分断された訳では無い。ゆえにそのまま直進してきた魔物達をカグヤが相手をする。
「早速、修行の成果を見せる時」
オーガやファングウルフ、ヘヴィボアーなどが向かってくる中、カグヤは納刀したままで立つ。
「さぁ来いッ!」
魔物との距離が近づいていく。そしてその距離が五十を切った所でカグヤは踏み込み、抜刀した。
「抜刀術──<三日月>」
抜刀から放たれる神速の太刀。横薙ぎされた刀は魔物の首を易々とはねた。
「次ッ」
精霊界での修行。ウィルとシェイドと行ってきたそれは今までのカグヤでは到底乗り越えられるものではなかった。
今までカグヤがやってきた修行と言えば、父親であるオボロとの打ち合い。
それにより技の精度は上がったが、一騎打ちという感覚に慣れすぎてしまっていた。
だが、ウィルとシェイドを相手にして今のままでは無理だった。
ウィルに意識を向ければシェイドが、シェイドに意識を向ければウィルが、更に加えて魔法があるとなると困難を極めた。
だからこそ、カグヤは直感を鍛えた。
「後ろから殺気」
直感で殺気を確認。そこに向けて流れるように刀を突き刺す。
横から襲ってくるファングウルフにも冷静に横薙ぎを。時には鞘をも使って対応する。
「一度でも喰らったら致命傷·····だが、喰らわなければどうってことは無いでござる」
ヘヴィボアーの目を刀で切り裂き、喚いているところを一突き。
例え、オーガが襲ってきたとしても、その落ち着きは依然変わらないままである。
「<鉄砕き>」
上段の構えから振り下ろされた力強い一撃は、オーガの大剣を砕き、腕を切り裂いた。
「余裕でござる」
周囲には無数の屍が、だが中央に立つカグヤは血など一滴もなく言葉通り余裕で終わった。
その隣では、エルサとサクヤがポイズンスパイダーやポイズンスライムなどの状態異常を得意とする魔物と戦っている。
「サクヤ様、こいつらを殺す時に注意するべくは毒もありますが、毒を喰らわす為に使用してくる武器にお気をつけください」
「武器ですか·····」
確かに状態異常を得意とする魔物は毒が危険である。受ければ死ぬほどまでに強い毒もあるし、一生モノの傷を受けることもある。
が、真に注意すべきはそれを必ず当てるために使用してくるポイズンスパイダーで言うところの糸である。
「ポイズンスパイダーの糸は脱出をさせない為に鋼鉄ほどの強度を持ちます。ポイズンスライムも粘着質の液体は容易には抜け出せません。だからこそ、それに当たらない立ち回りが必要になってきます」
そう解説しながらエルサは何事もないかのように避けていく。
その立ち回りはS級だけあって慣れている。
「<神風>」
糸を噴き出すポイズンスパイダーの一瞬の隙を見逃さない素早い一撃は、刹那のうちに命を刈り取った。
「ポイズンスライムの場合は体の何処かに核があります。そこを狙ってください」
スライムの口から吐き出される粘着質の液体を避け、切り刻む。
核を逃さないために何回も何回も念入りに。
だが、ここで一つ誤算があった。
「キングまで居たの!?」
スライムの集合体。通称キング。
ポイズンキングは集合しているだけあって、強力な毒を保持している。だが、別に焦ることは無い。
「『水の牢獄』」
高難易度を誇る水属性の魔法『水の牢獄』。
ポイズンキングを包み込むと、その水の牢獄事、エルサを切った。
「<一閃>」
煌めく閃光が如く素早さで仕留める。
その後ろで『水の牢獄』のスパンがあるエルサをゴブリンが狙った。
「『咲き誇る薔薇』」
それをサクヤがカバーした。
もっともエルサも気配には気づいていたようで、細剣を引き抜いていたが。
「要らないカバーでしたか?」
不安そうに尋ねてくるサクヤにエルサは首を横に振った。
「いいえ。ありがとうございます。治癒魔法を得意としているのに、攻撃魔法まで。素晴らしい成長ですね」
「はい。私の修行の成果です」
誇らしげに胸を張るサクヤに、エルサは顔を綻ばせる。
そんな二人に魔物を片付け終わったセリカが近づいた。
「こっちは粗方終わりだ。全部骨のない奴だったぜ」
「そう。クナイは?」
「クナイならあっちでやってるぞ。前と見違えるほどに強くなってやがる」
セリカが指さす方向では、クナイが魔物達を前に戦闘中であった。
「<蓮華>」
六本の苦無を的確に急所にへと当て、オーガを絶命させる。
そんなクナイにゴブリンが大勢で襲いかかったのだが、気配を読んでいたクナイは縮地で避けると人差し指と中指を揃えた。
「私も成果を見せる──<火遁>」
かつてルーロに向け放った頃とは明らかに火の勢いと強さが違かった。
しかも驚くべきは放った火をそのまま操作していると言うことだ。
「逃がさない」
運良く一発目の火遁から逃れたゴブリンを一匹も残さず焼き殺す。
魔力制御を完璧に覚えたクナイだからこそ出来る芸当である。
ようやく片付け終わったクナイは、サクヤたちの所に戻ろうとして異変に気づく。
「この気配·····っ!?」
その時、地面に亀裂が走った。
「これは」
それはサクヤたちも気づいたようで慌てて確認すると奴が居た。
その姿を見ることは稀である魔物。その強さはS級と言われる化け物である。巨大なサイにも似た異形の生き物。一部では悪魔とも言われ恐れられる
「·····ベヒモス」
それは誰の呟きか。伝説にも等しい魔物の降臨に誰もが息を呑んだ。
そんなベヒモスを前にレーデが立つ。
「私が相手をする。精霊の力を見せてやるんだから」




