魔物達の蹂躙祭 〜修行の成果 後編〜
今回文字数がいつもより多いです。
大きく深呼吸を繰り返すレーデ。
ベヒモスの前に立ったのは王都を守りたいというのもあるが、一番は成果を見せる為である。
今のところ目立った活躍はない。それでは自分の目指す目標には遠く及ばない。
この時彼ならどんな顔をするだろうか。恐怖に怯えるか? いや、彼ならこの状況不敵な笑みを浮かべてこう言うだろう。
「一瞬で終わらせてやる」
そしてニィっと笑ってみせる。
これが彼だ。そんな彼の隣に立つために修行をしてきたのだから。いつまでも後ろで立っているだけの人にはなりたくない。
「ガァァアアアアアアッ!!!!」
ベヒモスの咆哮。ビリビリとした圧。
そんなベヒモスを前に、レーデは依然として笑みを浮かべ、右手に魔法陣を展開する。
「行くわよッ」
左手の指を揃える。前にルーロに教えてもらった魔力操作で身体能力を強化する。
「『炎の乱舞』」
そして、右手の魔法陣から『火球』を何度も放つ。
それは正しく乱舞。ベヒモスの目の前にそれを放つともう一段階身体能力を上げた。
「後ろを取られるとはマヌケさんね。『獄炎の槍』」
頭上に三つ、炎で構成された槍を生成するとベヒモスの背中にへと直撃させる。
「ォォオオオオッ!?」
何が起こったか分からないといった様子で悲痛な叫びをするベヒモスは、その巨体を地面にへと打ち付けた。
「これでおしまいよ。『燃え盛る刃』」
右手の先に巨大な、それこそベヒモスを切るのに十分過ぎるほどの大剣を作り出すと、ベヒモスの首を切らんと振り下ろす。
その光景に誰もが決着を予想したが、しかしその刃がベヒモスにへと届くことは無かった。
「ガァアアッ」
短い咆哮。
背中の上に一瞬にして魔法陣が広がったかと思うと、そこからドーム状の石が形成された。
「あれは·····『鉄壁』?」
その一部始終を見ていたエルサが呟く。
近くで同じく見ていたサクヤがその言葉に疑問符を浮かべる。
「『鉄壁』というのは木属性の魔法で守りに長けているものです。タンクが良く使用しますね」
説明を聞いたサクヤは、ならばと考えを口にする。
「ということは、レーデはその鉄壁さえ破れれば勝機があるということですね。なら、一発目は反応出来なかったアレで仕留める事が出来れば──」
「いや、それは難しいな」
サクヤの案をセリカが却下した。
「アレは初見殺しだ。最初に身体能力を強化して、目の前に『炎の乱舞』。目くらましが出来て、もう一段階スピードを上げて初めて後ろを取れた。これと同じことをもう一度となると難しい。それに、ベヒモスの伝説には絶対的な攻撃魔法が──」
セリカの言葉が止まった。
その懸念していた事態が起ころうとしていたからである。すなわち、絶対的な攻撃魔法とやらが放たれようとしているのだ。
大きく顎を開けたベヒモスがキュイーンと聞き慣れない音を立てて、魔力の充填を始めている。
「これはヤバいな」
その光景を見て、セリカは冷や汗をかいた。
エルサも同様にこの状況の打開策を見つけ出さんと必死に思考を巡らせる。
しかし、そんな二人を置き去りに充填が終わったベヒモスはそれを放たんと脚に力を込める。
それを間近で見ていたレーデは、迷っている頭を左右に振り決断する。
「私がどうにかするしかないッ」
自分の火力が不足すれば味方が死んでしまうというこの状況。
だからこそ、そんな事態を避けるためにありったけの魔力を込める。それは展開されて巨大な魔法陣が魔力量を示していて、その大きさは先程の『鉄壁』に負けず劣らずのものであった。
「『解き放たれし獄炎』」
渾身の魔法は、放たれようとしているベヒモスの顎にへと直撃した。
その直後、爆音と共にベヒモスの一撃が放たれた。その差は一秒もない。
危機一髪。なんとか助かった訳ではあるが、しかし皆の顔は著しくない。
「嘘、でしょ·····」
クナイが目の前の光景を受け止めきれずにそうこぼした。他の皆も同じである。
危機一髪。なんとか方向がそれた先は山々であった。その標高は王国でも屈指であり、観光スポットとしても有名な山なのだが、そんな山がまるまる一つ。綺麗さっぱりと無くなっていたのである。
つまり、山を一つ吹き飛ばすほどの威力であり、それが王都に直撃すれば避難している国民始めた全ての人間が死んでしまうのは火を見るより明らかである。
その事実が皆に恐怖心を与える。だが、悪夢はここで終わらない。
「そんな、まさか·····ッ!」
強大な魔法を放つとスパンが生じる。それは強大な魔法であればあるほど、消費する魔力量に体が追いついていけないからである。
が、ベヒモスは再度今の一撃を繰り出さんと充填を開始していたのである。
もちろん、ベヒモスの巨体を動かすほどの魔法を放ったレーデはスパンの最中であり、もう同じことは通用しない。
この差は何かといえば、ベヒモスにとって今の一撃は微々たるものであるということだ。違くても、まだ余裕があるということには変わりない。
そんな悪夢にも似た絶望が皆の顔に現れる。エルサもセリカもレーデと似たような事は出来るが、この一連でベヒモスも踏ん張りを強くし、どれほど頑張っても一ミリも動じないだろう。
八方塞がり。何をやっても意味が無い。返って自分たちが厳しくなってしまうこの状況を絶望と言わずしてなんと言うのだろうか。
レーデは思わず歯噛みする。自分の無力さを思い知らされた。
スパンがあるとはいえ、魔力も回復しないと今の一撃は打てない。つまり何も出来ないのである。
だが、そんなレーデの一撃が幸を呼んだ。
「遅れて済まないっ! 音を聞いて急いで駆けつけた」
我らが冒険者ギルドのギルド長。『龍殺し』の一員にして、最高峰の防御力を誇るタンクの登場である。
「丁度いい所にっ! あの一撃を受け止めては下さらんかっ! レーデ殿が一人で頑張っているのでござるッ」
「あの馬鹿でかい奴の一撃か。任せろ」
かつては龍の一撃をも防いだ男。
その者の言葉に安心感が宿る。そんなクリクソンは充填が完了しそうなベヒモスを前に王都から距離を離した所に立ち大盾を構える。
「レーデ。お前がベヒモスを相手にしていることは聞いた。だから、俺がこの一撃を受け止める。でも何度もは無理だ。だから、二発目が終わった直後、スパンがあることを祈って一撃で沈めろ」
「分かったわッ! やってみせる」
クリクソンは頷くと、自分が持てる最高峰の防御魔法の名を唱えた。
「さぁ来いっ! お前の最強を俺の最強で受け止めてやるッ! ──『絶対防御』」
クリクソンの言葉に呼応するが如く、ベヒモスは先程の一撃を放つ。
一部では悪魔とも言われ恐れられるベヒモスの一撃。さながら『悪魔の一撃』だろうか。
そんな『悪魔の一撃』と『絶対防御』が衝突する。
「ォォオオオオオオッ!!!」
「ガァァァアアアッ!!!!」
両者の雄叫び。
全力を振り絞るかのように出された声に比例してその一撃も、その防御も一段と強くなる。
均衡しているようにも見えるこの状況だが、実際にはクリクソンがジリジリと押され始めている。
だが、諦めまいとクリクソンは足を思いっきり地面に突き刺した。
「ここから後ろには通さないッ!」
大盾から放たれる魔力の障壁にヒビが入る。だが、ベヒモスの一撃もまた勢いが無くなってきている。
「人間の底力を舐めるなッ!!」
クリクソンの魔力放出量が先程よりも跳ね上がった。
それは押されていた状況を覆し、均衡にへと持っていき、そして──
「防ぎきった·····」
それは誰の呟きか。だが、その通りである。
山を一つ消し飛ばす威力。あるいはそれ以上はあったかもしれない『悪魔の一撃』を受け止めきった。
「レーデッ! 決めろッ」
拳を高々に掲げるクリクソン。そんなクリクソンを見て魔力の回復を終えたレーデが頷く。
「任せてッ」
まだ皆に助けて貰っている。自分一人だったら何も出来なかった。
自分が無力であるということを思い知らされた。が、冷静に考えるとどうだろう。人は一人では生きていけるが楽しくない。ならば、助けるというのは絶対不可欠である。
「私がルーロを助けるんだ」
そう。そもそもレーデはルーロに守られる存在ではないと否定したかった。
隣に立ちたいと、他の誰より自分が近くに立ちたい。隣で助けたいんだ。と。
だからこの力を得た。
「精霊よ。契約によりその姿を現せ顕現しなさい──『イブ』」
真名を言えば、その姿を現した。
あの時はレーデの姿だったが、顕現したサラマンダーもといイブの姿は変わっていた。
燃え盛る炎のような赤い髪を短く切りそろえた少女にも見える幼さが残った女性。
『フフっ、やっと呼んでくれたね』
「まだ顕現し続けるには魔力が足りないのよ」
『分かってる。だから一撃で決めるんでしょ?』
イブの言葉に頷く。
クリクソンに言われる前からベヒモスを仕留めるのにあと一撃しか魔力が足りない。回復してギリギリといった具合だ。
だから、一番の火力を誇る技で。一番修行を積んだこの技で仕留めてみせる。
「行くわよっ!」
『任せてっ!』
両手を繋ぎ、魔力の循環を始める。
全ては眼前の敵を吹き飛ばす為に。
「『超新星の爆発』」
二人の手から放たれたのは炎で形成された星それがゆっくりとベヒモスにへと向かっていき、そして顔に触れた瞬間、大爆発が起きた。
それは恒星が進化の最終段階で爆発する超新星爆発の如く、真っ赤にへと変わる空模様に誰もが息を呑む。
数秒が経ち、レーデとイブはその爆発を止めた。
すると、ベヒモス死体も何もかも消滅しクレーターだけが残った地面が現れた。
その光景に時が止まったかのように固まる場。まだ勝った事に実感の湧かない者。スーパーノヴァに圧倒された者。三者三様の反応を見せる。
「何を呆けている。勝ったんだぞ、喜べッ」
クリクソンの一言に、止まっていた時が流れ始める。
誰もが命があることを理解し、自覚した。
それを目の前にレーデは気を失ったのだった。




