魔物達の蹂躙祭 〜開幕〜
王国の遥か上空。眼下に広がる発展した街並みを見てライナはニヤッと笑う。
その隣には変貌したギル──いや、アルカが相変わらずの無機質な瞳を同じく王国に向けていた。
「君がこれから襲うのはアレだ。どう? 僕が用意した魔物の軍団は」
「充分。これだけあれば殺せる」
自信満々と先程とは打って違って殺意を孕ませた瞳をしたアルカにライナは満足そうに頷く。
二人の背後には飛行能力の長けた魔物が隊列を守って控えている。
揃って魔物達は怯えた目付きをしており、完全にライナやアルカに萎縮しているようだ。
更に王国近くの森林には飛行部隊より遥かに超える数の魔物がいる。
これだけを集めるのにかなりの時間がかかった訳だが、全ては王国を潰す──ではなく、ルーロを殺すために用意したものである。
「王国はついでだ。今回、狙うべきは分かってるよね?」
「ルーロッ」
「うんうん。しっかりと分かっているようだ。君はかつてルーロにコケにされた。その時の怒りを恐怖心をその全てをさらけ出すんだよ」
「あぁ、殺してやる。アイツだけは完璧に殺すッ!!!」
猛烈な殺気にライナも背筋を凍らす。
それほどまでに洗練された殺気を孕んだギルは飛行部隊に合図を出す。
それに反応した飛行部隊は二人から逃げるかのように王国に進軍を進めた。
だが、陸上部隊は動かそうとしない。その事を不思議がるライナは尋ねる。
「どうしたんだい? 彼らも使ってあげなよ」
「いや、アレはルーロを誘き出す為に半分を残す」
「誘き出す·····ねぇ。そういう事」
それだけで察した様子のライナは笑みを零す。
思わない収穫だ。ルーロへの殺意で我を忘れているかと思えばしっかりと確実に殺すために緻密な作戦を練っている。
猛烈な殺気の裏には凍てつくほどの冷静な心があった。これは流石のライナも予測していなかったことだ。
良い意味で驚かされたライナは、しかし今後のアルカを心配する。
「この冷静さを、さてルーロの前でも保てるかな·····?」
心配する囁きは、夜風によって遮られる。
疑問符を浮かべるアルカになんでもないと首を振り、この蹂躙祭を静観する為にアルカの元を離れた。
「アルカくんによる魔物達の蹂躙祭。楽しませて頂く。まぁせいぜい頑張りなよ、人間」
✻ ✻ ✻ ✻
「ギルド長ッ、ガーゴイルの軍団が王国を攻めてきていますッ!!」
それはギルド嬢の一言で始まった悪夢。
人間と魔物、どちらが勝つかの大戦。クリクソンはギルド嬢の言葉に頷くと、スタンバイさせていたA級冒険者に指示を出す。
「バーン、スイレン、ナリタ、ミリオンは騎士団と共に住民の避難誘導と共にガーゴイルの相手を、無理はしなくていい。ガーゴイルはお前らでも手を焼く相手だからな」
「「「了解」」」
すぐさま行動に移す四人を視認する。
「本当はルーロたちを待ちたいが、仕方ない。シドウ行けるか?」
「誰にものを言っている。我に不可能はない」
いつにも増して気合い充分のシドウに、頼もしさを感じながらクリクソンは指示を出す。
「敵の殲滅。余裕があれば統率者の確認を頼む」
「任されたっ!」
勢いよく駆けていくシドウ。
そんなシドウを尻目にギルド嬢が不安そうに尋ねてくる。
「ギルド長。昨日までの見回りに魔物の影は一つも無かったのですよね」
「あぁ。報告もない」
そう、緊急会議をしてから一日目は不思議にも一体の魔物すら視認出来なかった。
そして二日目にこの騒ぎ。本当に唐突に起こったスタンピードに疑惑は確信に変わる。
「今回のスタンピード。一筋縄では行きそうにないですね」
「あぁ。確実に『魔王の意思』が関わっている。統率者はアイツらだとみて間違いないだろう」
つまり、本能的な蹂躙ではなく作戦が練られた蹂躙であるということ。
それは本能的なものとは桁違いに厄介で、確かに一筋縄ではいかない。
「だからこそ人間の底力を見せてやるんだが·····どうだ?」
「帝国からの助力は難しいかと·····」
「そうか」
帝国のS級冒険者は高い実力を持つのだが、その帝国からの助力はほぼ来ないと言っても過言ではない程に難しい状況だった。
望月家の一件でルーロからの報告通り、望月家だけではなく帝国も『魔王の意思』繋がっている可能性がある。
もしくは、望月家によって帝国が操作されているかの二択だ。
後者は非常に確率の高い可能性である。望月家は忍者の家系。洗脳術も容易に扱えるだろう。それに、実力至上主義であるがゆえに皇帝が変わったという事もある。
こんな状況で考えたくはないが、既に人間側は二つに分断されている可能性が高い。
「まずは目先の問題を片付けよう。エルサからの連絡だとルーロとの合流は完了している。アイツらが戻ってきたら戦力もこちらが優位になるだろう」
「そうですね。それに·····ギルド長のそれ。久しぶりに見ます」
「そうか?」
クリクソンは傍らに置いてある巨大な縦を一瞥する。
「まぁ、こいつを出したのもギルド長になった以来だからな」
「はい。では、健闘を祈ります」
「任せろ」
そしてクリクソンは黄色の大盾を持ち、ギルドの敷居から出た。
『黄の盾戦士』の久しぶりの出陣に、多くの冒険者が歓声を上げたのだった。




