立ちはだかる仮面の連中
スルスルスルっ。
いや、本当に耳を澄ましているとか関係なく聞こえてくる、布擦れの音。
なんつーか、こういう経験が少ない俺にはハードルが高い。
だって、最後にこういうのをやったのって、妹がまだ小さかった時だもの!
「·····しっかり、守ってて」
「··········分かってる」
クナイから釘を刺される。
だいじょーぶ。俺なら、出来る。
「久しぶりって言ってたから、しっかりと洗っとけよ」
「·····うん」
現在、水浴びの最中である。
チャポンっという音が聞こえてきた。
クナイは今裸ってことだ。
つまり、俺が守らなくてはならない。
決して覗こうだなんて、思っちゃダメだ。
なぜなら、紳士であれば〝覗く〟だなんて、下劣な真似はしないからな。
「·····次は、分かってるよ、ね?」
「分かっております」
既に頬に切り傷があるが、気にしないったら気にしない。
決して、先程の二の舞にならないようにしなければ··········いや、覗こうとはしてないんだよ?
なんか、自然と顔がそっち側に向いてた、みたいな?
だから··········うん。もう二度と覗こうとはしません。
──と、どうやらお客さんが来たようだ。
俺は念の為、クナイの方を確認し、居ないことを確かめた後に少し場所を離れた。
「出てこいよ」
ガサガサっと音が聞こえてきたと思ったら、仮面をつけた者たちが現れた。
「いつから気づいていた」
多分、声バレを防ぐ為だろう。変声されており聞き取りづらい。
「俺らがスタートし、ギルドから出た時だ」
「ほぉ」
「セイノ曰く、何者にも襲われる覚悟がある状態で望んでくださいだっけか? だから、何かしら刺客が来ることは想定していた。まさか、水浴びの最中に来るとは思わなかったがな」
仮面の連中は男女バラバラの四人組。
魔力の事は人一倍分かる俺でも、魔力が感知しにくいってことは何かしら細工がしてある。
「ルーロ、十六歳、男。田舎村の出身であり元『次世代龍殺し』のメンバーだった者」
「·····ん? 『次世代龍殺し』だと?」
「聖属性のギルを筆頭にしたパーティだ」
なんだそのパーティ名は。
そんなの、そんなの──
「クソだせぇ」
「?」
「いや、ネクストドラゴンキラーはないわ。長いもん。大方、ギルが考えたっぽいが、やっぱり、アイツのネーミングセンスは皆無ですわ」
なんだよネクストって。
多分、次、龍殺しをするのは僕だッ! みたいな感じで付けたんだろうが、だっせぇ。
そんなクソダサいネーミングセンスに、ひとしきり笑った後、切り替える。
「──さて、始めようか」
次は、お前らが絶望に笑う番だ。
「俺のことを調べてきているのは分かるが、属性適正は分かるのか?」
「·····」
「そうだよなぁ、俺の属性適正は分かりゃしない」
──だって無いんだもん。
ずっと俺と話していたのは仮面越しでも分かる女性であった。
だから、そいつに現実を教えてあげよう。
「お姉さん、後ろを見た方がいいよ?」
「──ッ! いつの間に」
後ろに構えていた三人は既に魔力を吸ってある。
もちろん、少し残しているので気絶しているだけだが、暫くは目を覚まさないだろう。
ちなみに、お姉さんだけ残したのはわざとではなく、この人の『魔力制御』が完璧だった為、奪えなかった方が正しい。
だが、『魔力操作』はこれが全てじゃない。
『魔力操作の極致』を見せる時が来たようだな。
「<一段階・解放>」
先程、俺がクナイに見せた内に秘める魔力を爆発的に解き放ったアレ。
これはソレに近い。
一段階、二段階、三段階まであり、最後に最終段階が存在する解放状態は『魔力操作の極致』で得られる技だ。
師匠曰く、二段階までは解放しても良いらしいが、最終段階に近しい段階ほど余程の事がない限り、使用は控えた方が良いらしい。
まぁ、ようするに調子乗って力に溺れ、最終段階を解放するなって話だ。
「だが、まぁ、見たところ一段階で充分だろ」
「──ッ!」
何故かお姉さんが過敏に反応してきた。
「調子に乗るなッ!」
お姉さんの武器は長剣か。
長いリーチがあり、一見不利そうに見えるが──
「当たらなければ意味が無いんだよなぁ」
本来、全てにおいて魔法を発動するため、身体強化に魔力をあまり割かない。
しかし、俺の場合は違う。
属性適性が無いために、魔法に使う魔力は要らない。
つまり、魔力の全てを身体強化に注いでいるということだ。
まぁ、解放状態の説明は後にして──
「一瞬で終わらしてやる」
「──ッ!」
大地を蹴る。
それだけで地が爆ぜ、俺の姿は刹那にしてお姉さんの背後に回り込んだ。
「終わりだ」
そして俺が手刀を振り下ろそうとした瞬間、聞き覚えのある声がそれを止めた。
「ちょっと待ってッ! 降参っ!」
「ッ!? その声、エルサ·····?」
「そうよ。だから、降参!」
お姉さんは仮面を外して見せると、確かにエルサだった。
「まさか貴方がファーストまで解放出来るなんて知らなかった」
「俺もまさかエルサが刺客とは思わなかった」
道理で魔力制御が完璧だと思った。
「私が刺客として選ばれたのはギルドに選ばれたということもあるけれど、一度だけ確かめてみたかったのよ」
「·····何を?」
「私と貴方、そこにどれほどの差があるかということを知りたかったの」
あの『青き騎士姫』と俺に差だと?
「パーティにまだエリドが居た頃、何度か手合わせをしてみたけれど、一度も勝てなかったのよ。だから、弟子になら勝てるかなと思ったのだけれど、まさか同じ技でやられるとは思わなかったわ」
負けず嫌いなのか、エルサは。
「しかも、同じ言葉を言われるだなんて思ってもみなかったわ!」
「へ?」
「『まぁファーストで充分だろ』だなんて、真剣に勝負してるってのに何様よ!」
·····確かに。
ノリで言っていたが、失礼であった。
「ごめんなさい」
「別にいいわよ。こんなんで怒るなんて事はしないわ。ただ、言いたかっただけよ?」
·····これ、怒ってるわ。
師匠も似たような感じだったな。
「フフっ、貴方、今失礼なことを思ったでしょう?」
「いやぁ、そ、そんな訳ないじゃないっすか」
やっべ、そう言えば俺、顔に出やすいんだった。
「·····まぁ、いいわ。また今度にしましょう」
「う、うすっ!」
ふぅ、と息を落ち着かせる。
·····あれ? そう言えば──
「クナイんところには刺客が来ないんすか?」
「·····ん? あー」
のびている仲間を抱えながら、エルサは言った。
「あの子は特別だから免除されてるの。·····一つだけアドバイスをあげるわ。ファーストであの子を──クナイさんを倒せるとは思わない事ね。ついでに、私も長剣だっただけで、細剣だったらファーストで勝てないわよ?」
やっぱ、負けず嫌いなんだ·····。
それよりも、免除、か。
「望むところっすよ」
「ふふっ、楽しみにしてるわ。あっ、それと聖属性のギルもファーストでは無理そうよ?」
「それは承知の上っすよ」
「·····貴方、過去一で悪い顔してるわ」
そこまでだろうか?
でも、クククッ楽しみだなぁ。
ギルたちの吠え面が楽しみでしょうがない。
「とりあえず、俺はクナイの所に戻ります」
「そうしなさい」
そう言ってエルサたちは夜の森の中へ消えていった。
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