俺のメインヒロイン
「··········なんか」
「·····ん」
「普通にあったわ」
確かに見つけやすい物ではある。
そこら辺に生えているものだし、希少価値も低い。
だが、試験の出し物にしては非常に簡単に見つかった。
「センミチソウ、ゲットだぜっ!」
「ピッカ──」
「それ以上はダメだっ!」
クナイ、恐ろしい子っ!
師匠譲りのセリフを完璧に言ってきやがった。
つい、止めてしまったがコレ大丈夫なのだろうか。
いや、大丈夫か。
「さぁ、帰ろうぜ。クナイ」
「ん、でも·····」
「なに?」
俺は振り返って笑ってみせる。
すると、クナイは心配そうに言ってきた。
「目の下にくまがあるけど、大丈夫?」
「あははっ、何を言ってるのか分からんな」
女の子と二人きりの野宿。何も無いということも無く·····。
近くにいると思ったら、ドキドキして寝れなかった。
「護衛を一晩もお願いしちゃった」
「一晩ぐらい大丈夫だよ」
俺は、あまりにドキドキした為に、クナイを心配させまいと一晩の警備をすると言った。
どうせ起きるなら、有効活用した方がいいだろう。
まぁ、近くで寝てるクナイを見てたら、警護どころじゃなかったんだけどな。
一晩、欲望との戦いだった。
おっと、これ以上はクナイの目がキツくなってきた。
「··········さぁ、帰るか」
「うん」
そうして昼前にギルドへ戻ろうとした時、顔馴染みが立ちはだかる。
「久しぶりだな」
茶髪の青年。
左右に美少女を連れたイケメンだ。
名はよく知っている。
「──ギル」
「ルーロと別れてから一年か·····。長いようで短かったよ」
「そうか。俺はどうでもいい」
「そんな冷たいこと言うなよ」
おいおい、コイツ何様だよ。
「レーデもリットもルーロに会いたかったよな?」
「そうですわね」
「·····」
明らかに一人、めっちゃ厳しい目付きで睨んでくる人がいるんすけど、それは。
「·····久しぶり」
「お、おう」
素っ気ねぇ。
俺のこと嫌い過ぎるだろッ!
「コイツら、だれ?」
「あぁ、幼馴染だよ。腐れ縁ってやつさ」
クナイが近づけばレーデの目付きが一層険しくなった。
せっかくの美人顔もこれでは勿体ない。
「おいおい、腐れ縁はコチラのセリフだよ。君、なんで冒険者試験に参加しているのかな?」
「え? 冒険者になりたかったからだが?」
他にどんな理由があるんだ?
「まさか僕たちのパーティに戻りたいなんて──」
「あっ、それは無いわ」
即座に否定したのが驚いたのか、ギルの目が点になっている。
「だってネクストドラゴンキラーって、さ。本当にダサすぎだろ。まだドラゴンキラーだったらマシだけど、ネクスト付けることによって長いしダサいしで本当にダメダメだわ」
つか、『龍殺し』意識しすぎ。
もう、十六歳なのにいつまで子供引きづってんだって話だ。
「なっ、僕のネーミングセンスを疑うってのかい? リットもレーデもなんか言ってやってくれよッ!」
「あの、私もさすがにそれは·····」
「ふんっ! ギルのネーミングセンスが皆無なのは周知の事実よ!」
「··········」
ギルが凄く微妙な顔している。
ここまで来ると傑作だな。
「うるさい、うるさい、うるさいッ! ルーロ、君が悪いんだからなッ!」
「·····なんで俺なんだよ」
「黙れ、黙れ、黙れッ! 今ここで君の息の根を止めるッ!」
「三回ものを言うのって流行ってんすか?」
──と、余裕ぶっこいているが。
内心、めっちゃ焦っている。
マジでコイツらと今、会う場面じゃない。
だって、ここでボコしても〝ざまぁ〟にならないし、やっぱ、やるなら大勢の目の前じゃないと。
──と、焦りまくりでいると。
「ルーロ、私が殺っちゃっていい?」
今まで黙っていたクナイが一歩、前へ出た。
「おいおい、女の子に守られてるようじゃ冒険者にはなれないんじゃないの?」
ギルの煽りなんか、俺の耳に届かない。
それよりもクナイから放たれる強烈な殺気に目が奪われていた。
今まで感じたことの無い程の、濃厚なまでの殺気はギル以外に全員が気づいている。
「ギルッ! 今回は引くわよッ!」
「今回ばかりはレーデさんに賛成ですわ。行きましょう! ギルくんっ!」
「二人とも何をそんなに焦っているんだ? ──へ?」
ギルの頬を見たことの無い短剣がかすめる。
「次は当てる」
ツーと、一筋の血が流れ始めた頃、ギルはようやく自身へと向けられる強烈な殺気に、今更ながら気づいたのだ。
「逃がさない。ルーロをバカにした罪は、重いッ!」
滅多に聞かないクナイの怒り。
次は数枚の薄い刃がついた武器を投げた。
「ひ、ヒィィイイイイ」
合計四枚のソレは、ギルの両手と両足の服に刺さり、勢いのまま木に突き刺さる。
「これで終わらせる」
「そこまでにしろ」
遂には脳天に突き刺そうとしたクナイの手を俺が止めた。
「·····もう大丈夫?」
「··········あぁ、ありがとうな」
自分の命が助かったと分かったギルは股間を濡らしながら去っていった。
「この、『化け物』ッ!」
──最悪の捨て台詞を吐きながら。
「ギルくんが本気出したら、貴方らなんてけちょんけちょんなんだからっ!」
「·····」
二人もギルの背中を追って、去っていく。
「──にしても、驚いたな」
見たことない武器の数々もそうだが、それを扱うクナイの技量と言ったら、確かに免除されるだけある。
「···············ルーロも同じ?」
すると、クナイが不安そうにポツリとこぼした。
「何が?」
「ルーロも怖かった?」
「クナイがか?」
「(こくこく)」
包帯の上からでも漂ってくる不安そうな気持ち。だから、俺は即答した。
「んなわけねぇだろ」
「──ッ!」
「確かに見たことの無い武器にクナイの技量は凄まじいものだったが、『死の谷』の化け物に比べちゃ、優しい方だよ」
今思い出しただけでもゾッとするような化け物たちが、うじゃうじゃ居た。
「だから、不安がる必要はない。ギルの言葉でお前がいちいち気にしてたらキリがないぞ?」
すると、柔らかな感触が体全体で感じた。
「──ッ! おいっ!」
クナイが抱きついてきたのだ。
そこにさっきまでの濃密な殺気はなく、大粒の涙が溢れ出ていた。
「私、ね。忍者と言うの。この武器も苦無と手裏剣って言ってね、特別なんだ。でも、私の自慢もみんなには分かって貰えなくて」
「うん」
「だから、ルーロにも言えなかった。知ったら、他の人たち見たく逃げていくんじゃないかって。ルーロは初めて話しかけてくれた人だから、そんなの絶対に嫌だった·····」
「うん」
「でも、ルーロが悪く言われている時どうしても我慢出来なかったっ! ルーロに嫌われるよりもルーロを馬鹿にされている方がずっと、ずっと嫌だったから·····」
「うん」
「ごめんね、私の我儘に付き合ってもらっちゃって。そして、ありがとう。私から離れていかなくて」
「いーよ、別に」
·····不安だったのだろうか。
俺にはクナイの気持ちも、今までの事も分かりはしない。
だけど、これだけはハッキリと言える。
「ごめん、外すよ?」
「──ッ!」
顔に巻かれている包帯に触れる。
最初はビクッとしたクナイも、緊張が解けたのか、何も言わずになされるがままになっている。
スルスルと包帯が解け、クナイの顔が顕になった。
「──ッ!」
黒い髪。
昨日、水浴びしたからか艶があり綺麗な漆黒が肩まで伸びている。
何度か見かけた青い瞳はサファイアのように美しい。
うん。やっぱり──
「クナイは化け物なんかじゃない」
「え?」
「立派な女の子だよ」
「──ッ!」
レーデもリットも美少女だと思うが、クナイも引けを取らないぐらい、っていうか、普通にめっちゃ可愛いわ。
「だから、そんな事を言うな。俺は絶対に離れていかないし、離れるつもりは無い。包帯も無理に巻く必要なんてない。『魔力制御』も俺が教えるから大丈夫だ」
·····そう言えば師匠が言っていた。
自分の力を全てかけたくなるような人に出会ったら、それが男であろうと女であろうと──
「俺が、一生守ってやるから」
「──!?」
師匠、俺は見つけましたよ。
自分の全てをかけても守ってやりたい、大切にしてやりたい人が。
理屈なんてない、理由も定かではない。
でも、確かに感じたんだ。
この子が俺のメインヒロインだって·····。
「だから、クナイ。これからもよろしくっ!」
「·····ん、こちらこそ」
もうクナイに涙なんて浮かんでない。
あの時は見えなかったクナイの笑顔。
今度こそハッキリと見えた。
そんな笑顔に俺も笑って返した。
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