妖刀『星喰』の記憶〜絶望の始まり〜
事件当日になってしまった。
何とか眠れたはしたが、それでも睡眠不足気味である。
昨夜の星喰の言葉を思い出し、追い出すように頭を振る。
「ルーロ殿。朝ごはんが出来たでござるよ」
「わかった。今から行く」
朝の会話を交わし、用意された部屋から居間にへと移動する。
「あら、ルーロくん。もう用意は終わっているわ」
「ありがとうございます。ヤマトさん」
居間につくとテーブルには既に朝飯が用意されていた。
カグヤもヤマトさんも席についているのだが、オボロさんの姿が見えない。
「オボロくんは多分朝稽古の最中だと思うわ。仕方ないけど、ルーロくん。呼んできて貰っていいかしら?」
「えっ!? 俺ですか?」
「えぇ、駄目?」
「いえ、大丈夫ですけど」
特に断る理由なんてないからな。
昨日の道場にいると教えてもらったので向かうと座禅を組んで精神統一していたオボロさんがいた。
「ん? ルーロ殿か」
「すみません。邪魔してしまいましたか?」
「いや、もう終わりにしようと思っていたからな。大丈夫だ」
するとオボロさんはいい事を思いついたと言わんばかりの顔をし、木刀を俺に投げてきた。
「どうだ? 今から拙者と試合でもしようではないか」
「朝ごはんが冷めますよ?」
「良い。どうせ、一瞬だ」
そして冷え切った目を向けてくる。
思わず、間を開けて臨戦態勢を取ってしまった。
「ふむ。素早い身のこなし。更に興味が湧いてきた」
「俺、やるからには負けませんよ」
訪れた静寂。
俺の脳内には昨日の<烈風斬>が浮かぶ。
あれは目で追うので精一杯で、ろくに反撃が出来ないと思う。
だから──
「ふんッ!!」
「──っ!?」
俺は思いっきり木刀をオボロさんに向けて投擲した。
「そんな見え見えの奇襲。拙者には通じないぞ?」
「それだけじゃ、ないですよッ!」
投げた木刀はオボロさんに当たる事はなく、案の定背後を通過していく。
だから、瞬間的にファーストを開放して背後に回り込むと、木刀を掴んで後ろから斬りかかった。
「<連撃>」
一太刀だけだと受け止められたり避けられるかもしれない。だから、数で勝負だ。
「面白い戦い方をする」
オボロさんは不敵な笑みを浮かべると、俺の連撃を受け止めていた手を下ろす。
なんだ? 勝負を諦めたのか。なら、俺がこの勝負貰ったッ!!
「<不知火>」
突然とオボロさんの姿が消えたかと思うと、死角に回り込まれていた。
「<死突>」
「やばッ!」
恐ろしい鋭さの突きが俺の心臓部分を狙っていた。上体を反らし、なんとか避けるが。
「<十字切り>」
上体を反らし不安定になっていた足を横払いで崩され、流れるように木刀が俺の額で止まった。
「·····参りました」
「いやぁ、面白かった。ありがとうルーロ殿」
汗一つかかずに言うオボロさん。
「だが、次は本気でかかって来てくれたほうが嬉しいかな」
「次があればリベンジしますよ」
俺の実力不足を突きつけられたようだ。
それにこの人、全く底が見えない。結局、宣言通りに瞬殺されたしな。
「よしっ、飯にするか」
「そうですね」
それから朝飯を共にし、カグヤの稽古姿を眺めて半日が過ぎた。
時刻が夕方にさしかかろうとした時、そう言えばとカグヤが口を開いた。
「ルーロ殿はたしか『星喰』を見るという用事があったと言っていたでござるな」
「あー」
そういえばそんなことを言ってたわ。
「これから見回りで『星喰』の確認をしに行くのでござるが、ルーロ殿も来るといいでござるよ」
「そうだな。じゃあ案内を頼む」
オボロさんたちは屋敷で待っているとの事なので、俺とカグヤの二人だけで向かった。
『星詠の里』は屋敷を中心とした村で、近くに山がある。どうやら、そこに星喰があるらしい。
「結構、山奥にあるんだな」
「そうでござる。でなければ馬鹿な奴らが『星喰』を狙いに来るゆえ」
それもそうかと相槌を打ち、更に奥にへと向かっていく。
ポツンと祠が建っている場所まで来た。
「ここがそうなのか?」
「うむ。ここに札があるでござろう? これが封印の札でそろそろ貼り替え時なのでござる」
確かに古びた扉の中心には札が貼ってあるが。
「なぁ、これズレてない?」
「なんだと!?」
ずっと定位置に貼ってあるなら、日焼けしていない場所が見えないはずだ。が、この祠の扉にある札は少しズレており、日焼け跡がない所がチラッと見えていた。
「ど、どういうことでござるかっ!?」
カグヤが慌てて祠を開くと、そこはもぬけの殻。
「まさかっ!」
あまりにも平和だったがために注意深く見ていなかったが、既に悲劇が始まろうとしているのか!?
「カグヤ、急いで戻るぞッ!」
「承知」
この山奥に来るのには一時間ぐらいかかった。ここから、村に降りるのに同じぐらいかかると手遅れになる。
本物のカグヤはもしかしたらここで足止めを食らって、間に合わなかったのかもしれない。
だけど──ッ!
「悪い。我慢してくれっ!」
「えっ? きゃっ!」
可愛らしい声を上げて、俺の腕の中に収まるカグヤ。
俺がいる限り、そんな事はさせない。
絶対、間に合わせて見せる。
「<一段階・解放>」
カグヤの体に負担をかけないように、ファーストを解放して下っていく。
三十分を要して、辿り着いた先は──
「星詠の里が·····みんなが·····っ!」
燃え盛る村。本来ならば賑やかな声が聞こえてくるところが、悲鳴や絶叫が耳を貫く。
俺の力も虚しく、星詠の悲劇。今まさに絶望が始まろうとしていたのだった。




