妖刀『星喰』の記憶 〜日常〜
『星詠』の末路を見届けろだと·····?
「おいそれって──」
「ん? 其方は誰でござるか?」
カグヤに気づかれた?
っていうか、記憶なのに俺の存在が認知されるのかよ。
「あっ、いや。勝手に入ってすまん。道に迷ってしまって·····」
これは流石に無理があるか? っと思っておずおずとカグヤの方を見ると。
「なんと、そうであったかっ! 屋敷を案内するでござる。父上や母上にも事情を説明しなければ」
良かったぁ。そう言えばポンコツ武士だった。っていうか、ここまで人を信じるのは危ないな。
「拙者はカグヤと言う。よろしく頼むでござる」
「俺はルーロだ。よろしくな」
「うむっ!」
軽く握手を交わし、早速屋敷の中を案内された。村の中で上の地位にいるのかその広さは望月邸を思い出す。
「して、何故この地に? ここは『星詠の里』と言って、辺りには何も無い田舎なのだが」
この質問はやばいな。
星喰は返事の一つも寄越さないし、前知識のない俺は何て返答すればいいのか分からない。いや、一つだけ知ってる単語があった。
だが、危険な単語だ。いけるか·····
「えっ、と·····『星喰』を見に·····?」
流石にマズイか?
だって、『星喰』を守るために星詠がいるのであって、この言葉を信じちゃ駄目だろ。
「そうであったか。『星喰』は確かにこの里にある。ルーロ殿は運が強いようだ」
「──いけんのかいっ!」
「?」
思わずつっこんでしまった。
「いやっ、もう少し人を疑ってもいいと思うぞ? さっきから俺、挙動不審じゃん」
「でも、ルーロ殿からはそんな感じが一切しないでござる。だが、そこまで言うなら仕方ない。牢に入れて、死ぬまで村に──」
「いや、大丈夫です。別に怪しくないんで。全然、怪しくないんでっ!」
カグヤってば極端過ぎる。
かえって怪しさが増えたかと心配になり、カグヤの方を見ると、クスリと笑みを浮かべていた。
「いや、失敬。どうしても面白くてな。ルーロ殿とはどうも初めてあった気がしない」
「そ、そうですか」
俺もこれが星喰の記憶で、現実じゃないことに驚きだよ。実際のカグヤと話しているようになる。
その後も案内は続き、軽く村の説明を受けたところで、華奢な男が俺たちに近づいてきた。
「ん? カグヤ、その方は?」
「父上っ!」
えっ! 父上なの!?
俺のイメージで筋肉隆々って感じがしたんだが、あまりにも華奢過ぎて驚く。
顔も父親という歳には見えない若作りであり、端正な顔立ちをしている。
「ルーロと言います。よろしくお願いします」
「ルーロ殿か。拙者はオボロと申す」
すると、オボロさんは俺の間を通り抜けてカグヤの方へ真っ先にへと向かった。
「それよりも、カグヤ。また修行をサボったな?」
「うぐっ!」
図星だったようで、カグヤは目を逸らす。
だが、それをオボロさんが見逃すはずがなく。
「今から俺が相手をしてやる。ほれ、行くぞ」
「ちょっと待ってください父上っ! ほら、私は今ルーロ殿に案内を──っ!」
そしてカグヤは俺の方をチラッと見てきた。
目が助けてと言わんばかりに目をうるうるとさせて訴えかけてくる。
うん。仕方ないよな。
「──俺の事はいいんで、修行に行ってください」
「そんな殺生なっ!」
「ほれ、行くぞ」
悲鳴と共にカグヤはオボロさんに連れていかれた。
そこまでなのか。
「でも、どうしようかな。ある程度の説明はされたけど。他人の家だし、勝手にうろちょろする訳には──」
「本当に困るわね。あの人は」
「うぉっ!?」
いつの間に、俺の後ろに居たんだ!?
「あら、驚かせてしまったようね。私はヤマト、オボロの妻でカグヤの母です」
「あっそうですか。俺はルーロで、道に迷ってここまで来てしまったところをカグヤに助けてもらったんです」
言った後で思い出す。
この設定はカグヤに通じたのであって、ヤマトさんに通じるわけ──
「そうですか。それはお気の毒に。ゆっくりとしてってくださいね」
·····この親にしてこの子あり、だな。
母娘揃って他人を信じやすいのか。俺としては嬉しい限りだが、本当に心配になってくる。
「なんなら、あの人たちの修行でも覗きに行きましょうか」
「えっ、いいんですか?」
「ええ」
ヤマトさんについて行くと、既に稽古が始まっていたようで、凄まじい熱気と掛け声が聞こえてくる。
「行きますッ!」
「いつでも構わない。好きなタイミングで来い」
先程連れてかれたのにも関わらず、既にカグヤには汗が伝っている。
「<烈風斬>ッ!」
辻斬りとの戦いでも見せていた技だな。
だが、オボロさんに当たることは無かった。
「力に任せて振りすぎだ。力を抜いて、必要な時に込める──<烈風斬>」
素早い踏み込みで、一気に距離を詰めてカグヤの首に刃を突き立てる。
速い。俺でも目で追うのが精一杯だ。
「力だけが全てじゃない。分かったか?」
「はいっ!」
「なら、もう一度だ」
カグヤがあれほどまで渋っていた理由がよく分かる。
そしてカグヤたちが<烈風斬>を稽古しているのを尻目に、ヤマトさんはおもむろに口を開いた。
「本当はカグヤにもやりたい事があるかもしれない」
「?」
突然のヤマトさんの言葉に、俺は疑問符を浮かべる。
「あの子も今年で十七。それなのに常日頃から稽古しているもんだから、異性の友達はおろか同性の友達も少なくてね」
「そう、ですか·····」
「本当はもう少し自由にさせて、稽古なんて辞めさせたいのだけどね。カグヤには『星詠』を継承しなければならない責務があるから」
ヤマトさんは伏し目がちに言う。
「カグヤはもしかしたら私たちの間に産まれるべきじゃないって思ってしまうのよ。普通の家庭で産まれたら、こんな辛いことを強いる必要なんてなくて、もっと人生を楽しむ事が出来るのに·····」
ヤマトさんの話を聞いて、俺は無意識に口を開いていた。
「そんな事ないと思いますよ」
「え?」
「だって他の家庭で産まれたら、それはカグヤじゃなくて別の人です。それに、お二人のことをカグヤは嫌いになってませんよ」
本物のカグヤと一緒に風呂に入った時、父親と一緒に入ったと語っていたカグヤの顔はとても楽しそうだった。
今も真剣に打ち込んでいるカグヤの口元には笑みが浮かんでいる。
「だからもう少し自信を持ってください。カグヤは自慢の娘だって言えるように」
「·····そうね」
今日会ったばっかりの俺が言うのもおかしな話だが、ヤマトさんの顔を見る限りそこまで悪いことをした訳でも無さそうだ。
「うふふっ、ルーロくんがカグヤをお嫁に貰ってくれたら嬉しいんだけど」
「えっ!?」
「あら、満更でも無さそうね」
カグヤは普段のポンコツぶりで隠れてしまうが綺麗な顔立ちで凛としているからな。
それに一緒に居て楽しい。
「まぁ、俺としたら嬉しい限りですけど。カグヤが嫌がるでしょうね」
「あら、貴方と話している時のカグヤは楽しそうだったけど」
「楽しいって思える異性の友人なんてこれから増えていきますよ。それに俺だけじゃない沢山の人達がカグヤを評価して、アイツにとってもいい相手が現れます」
俺の言葉を聞いて、ヤマトさんは一瞬目を丸くした後、微笑を浮かべる。
「しっかりとカグヤを見てあげているのね。冗談で言ったつもりなのに、真剣な答えが返ってきて少し驚いちゃったわ」
「ヤマトさん。言って良いことと悪いことってあるんですよ?」
俺の場合は特になっ!
「母上とルーロ殿は先程から何をしているのでござるか?」
おっとお喋りはここで終わりのようだ。
「ちょっとカグヤの稽古を見てただけだ」
「あっ!」
俺が稽古と言ったせいで、カグヤは汗をかいていることに気づいたのだろう。
慌ただしくどうしようって混乱しているカグヤに笑う。
「汗ぐらいいいよ。それはカグヤが頑張った証だろ?」
「うぅ、そうでござるか」
まぁそれでも気になっているようなので、カグヤは風呂にへと向かった。
「もう少し落ち着いて行けよ·····」
俺の一言に、オボロさんとヤマトさんが笑う。
「ルーロ殿とは出会ったばっかだが、好感が持てるな。これからもカグヤをよろしく頼むよ」
「はい」
そして今日は屋敷の一部屋を借りて、泊まらせて貰った。
·····そういえば、これって星喰の記憶だよな?
「一日経験したが、これといって事件なんて起きなかった·····」
『当たり前だ。これは事件の前日』
「うぉっ!?」
ずっと聞こえてこなかった星喰の声が急に聞こえた。
「っていうか、前日だと? なんでわざわざ」
『事件当日に始めても意味が無いだろう?』
星喰の言葉で緊張が走る。
「じゃあ、明日なのか?」
『そうだ。少年がその時どんな反応するのか、どんな答えを出すのか。いや、実に楽しみだ』
これが星喰の最後の言葉だった。
再度、聞こえなくなった星喰になんなんだと思いつつ、それでも明日なんだという事が俺を震わせる。
「·····これは記憶だからな。大丈夫」
そう自分に言い聞かせ、俺は目を閉じた。だが、眠るのに少し時間を要したのだった。
カグヤの年齢を変更しました。
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