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ポンコツ武士の実力と事件解決


 夜。雲がその月明かりを隠す中、その男はゆらゆらと歩く。

 城の着物を着て、黒刀を地面に引きずる姿は正しく夜叉。辻斬りその人である。


「か〜ごめ、か〜ごめ、か〜ごのな〜かのと〜り〜は、いついつでや〜う」


 不気味に口ずさみながら、目の前に歩く女性を標的とした。


 その口元にニィっと三日月を描き、歩みを進める。


「よあけのば〜んに、つ〜るとか〜めがす〜べった。うしろのしょうめんだあ〜れ?」

「ルーロっ、捕まえたわッ!」

「──っ!?」


 男は驚く。雲が月の前から消え去り、その姿が鮮明に映し出される。

 見た覚えがある赤髪の少女だった。


「残念だったな。お前の計画は失敗した」

「チっ!」


 舌打ち一つ。男は月明かりの元に退いた。


 そしてその姿を現す。


「あの時、俺は何一つ辻斬りに対する情報を与えなかった。なのにアンタは妖刀と答えた」

「·····」

「思えば、あれほどカグヤを狙ってたのは唯一の生き残りだったからだろ? 今後の妨害を未然に防ぐためにわざわざ口実まで作り、カグヤを殺すために計画していた。だが、俺が来たことによりそれが失敗に終わる」


 闇夜に紛れる黒いマントをなびかせ、ルーロは辻斬りに向かって歩く。


「なぁ? そうだろ。サイケさんよぉッ!」

「チッ、勘のいいガキが·····っ!」


 思わず舌打ちを漏らすサイケは、赤髪の少女の容姿と今までを振り返る。


「最近、やけに誰かの視線があったのは」

「俺のパーティ随一の機動力を持ち、隠密に長けた忍者が三日間、アンタのことを調べ回ったんだ」


 ルーロが犯人に気づき、そして行動を起こすまでに四日が経過している。

 本当ならすぐにでも動きたかったが、証拠が無かった。確証はあれどそれだけで断定するのには足りない。やるからには徹底的にだ。


「わざわざ小娘に袴を着させたのは?」

「お前を釣るためさ。見事に引っかかってくれて嬉しい限りだぜ」


 カグヤが囮でも良かったが、サイケをギリギリまで引きつける必要があった。

 カグヤの武器は刀だ。サイケがいきなり襲いかかる可能性もあった為、魔法で直ぐに臨戦態勢に入れるレーデが適任だと判断づいた。


「ちなみに逃げても無駄だぜ。うちのお姫様がもうそろ騎士団を引き連れてくる」

「キヒヒヒッ、お前のことを侮ってたよ」


 すると、サイケは自身の顔の皮を勢いよく引き裂いた。


「やっぱりな·····」

「ほぉ、気づいてたか」

「てめぇがサイケ本人じゃないのは調査済みだ。弟と一緒に殺ったんだろ?」

「キヒヒッ、そうさ。この街に来たその日に殺した。この街に留まるために仮の姿が必要だったんだ。致し方ない犠牲だろ?」

「てめぇは──ッ!!」

「おっ? 俺を殺すのか? その腰にあるご自慢の刀でよぉっ!」


 ルーロは今すぐにでも切り捨てたかったが、抑える。


「てめぇの相手は俺じゃねぇ。カグヤだ」

「あの小娘に俺が殺せるとは思えねぇけどな」

「だが、てめぇはカグヤを恐れた。だから早急に殺したかったんだろ?」

「·····」


 すると、漆黒の髪をなびかせた少女が近づいてくる。

 カグヤだ。腰には刀を差して、気合いは充分だ。


「ルーロ殿かたじけない。後は拙者が相手をさせてもらうでござる」


 カグヤはゆっくりと歩きながら、刀を引き抜く。


「お主にとって足りぬ相手かどうかはこれから分かるでござるよ」

「キヒッ、ならやってみな。まぁ父親の二の舞だと思うがな」

「──ッ!」


 カグヤは殺気立つが、しかしそれを努めて冷静に抑える。

 戦闘に置いて感情は時に力を与えるが、判断を鈍らせる足枷ともなる。


「いざ、参る」

「キヒッ、俺も行かせてもらうぜっ!」


 両者が刀を構える。ピリつく場。ルーロもレーデも既に口を閉じており、ただ静観している。


「はぁぁっ!」


 先に動いたのはカグヤだった。


「<烈風斬>」


 素早い切り込み。しかし、サイケには届かない。


「キヒッ、のろまだな──<神速>」


 サイケの姿が消える。否、そう思わせるほどに速い動きで死角に回った。


「<崩撃>」


 横薙ぎで放たれる凄まじい剣気がカグヤの頬を掠める。


「しまっ──っ!?」


 カグヤはその剣気の矛先が街であることを悟り、勢いよく振り向く。

 そしてその先の光景に目を疑った。


「無傷·····?」


 そう何一つ崩壊などしていない。


「チッ、ガキがいらねぇ真似をっ!」


 サイケは悟ったようだ。何故、崩れていないのか。

 答えはルーロである。魔力障壁でここ一帯を覆っている。故に周りに対しての被害が何一つないのである。


「街中に被害を出してどうするんたよ。てめぇの相手はカグヤだろ?」

「コイツを殺したら、てめぇを真っ先に殺ってやるよ」

「倒してから言え」


 サイケが視線をルーロからカグヤに戻すと、既に懐に足を踏み込んでいる姿が目に映る。


「<疾駆>」


 高速の突きがサイケの喉元を襲う。

 それを後方転回で避けたサイケは額や首元に汗を滴らせながら、息を着く。


「小娘は俺を騎士団に差し出す気がないのかね」

「当たり前でござる。拙者がこれからするのは仇討ち。ルーロ殿からは騎士団が来る前に片付くのなら見逃すと」

「ほぉ!?」


 サイケは額に青筋を浮かべる。


「俺もなめられたものだな。これからは手加減一切無しだ」

「拙者も街が守られているのなら、手加減はしないでござる」


 カグヤは瞳を妖しげに光らせ、幾何学模様を浮かばせる。


「拙者は『星詠』。星を詠み、その者の結末を知る。貴様に訪れるのは死でござる」

「ならばやって見やがれ──<次元滅斬>」


 サイケは妖刀に含まれた全ての剣気を解き放ち、世界への扉を開くほどの高密度の斬撃をカグヤに向けて放った。


 対して、カグヤは静かだった。刀を鞘にへと収め、抜刀術の構えを取る。


「星詠秘伝──<彼岸>」


 呟きにも似た声量で、刀を神速を超えるスピードで抜いて、キンっと収める。


「·····ッ!!」


 サイケは一瞬何があったのか分からないような表情をして、察した。


 ──死んだ、と。


 だがその考えとは裏腹に無数の傷。所々に深い切り傷があるが、それでも息はしている。


「ッ!?」


 戸惑っているサイケに、カグヤは冷ややかな瞳を向けながら唇を開いた。


「貴様の死は剣士としての死。二度と刀は握れまい」


 カランっと妖刀がその手から落ちる。


「貴様に恨みはあるが、元凶はその妖刀。ならばこそ妖刀を無断に握った罪は問われど、人斬りの罪は貴様にはない」


 カグヤはその切っ先をサイケに向ける。


「本当は殺したい。貴様のような馬鹿がイタズラに命を奪うのだ。が、後は騎士団とやらに任せよう」

「ゆ、許してくれるんですかい?」

「それをするのは拙者ではなく、亡き家族たちがしてくれよう。黄泉で謝罪をするんだな」


 刀を鞘に収めると、踵を返す。


「もういいのか?」

「あぁ。後は騎士団に任せるでござる」


 耳を澄ますと騎士団たちの足音であろう音が聞こえてくる。


 温泉の街 パング。辻斬りの事件はこうして幕を閉じた。

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