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カグヤと二人っきりの空間


 鎮まれ、鎮まるんだっ!

 俺の鋼の精神を、その真髄を見せる時だ。


「力加減は大丈夫でござるか?」

「あ、あぁ大丈夫だ、よ?」

「何故に疑問形でござるか」

 

 今、俺はカグヤと二人っきりだ。

 察する人は察するだろう? 背中を流してもらってるんだよ。


 ここにあるいは第三者がいるならばドヤ顔でサムズアップしてやりたいんだが、女将さん曰くこの時間帯 (深夜)に入る客はいなく、貸切状態らしい。


 ゆえに俺は気まずいのだ。

 

 たたでさえ耐性が低いってのに、二人っきり。しかもバスタオル一枚しかないこの状況。


 俺の必死の頑張りにより、腰に巻いたタオルがテントを張ることは今のところないが、それも時間の問題。


 加えて──


「せ、拙者は力が強すぎるゆえ加減が難しいのでござる。痛かったら、遠慮なく言ってくれるとありがたい」

「いや、大丈夫だ。うん、大丈夫」


 時折あたる柔らかいもの。

 後ろを向いているからそれが何かは断定出来ないが、絶対〝アレ〟だろう。


 うちのパーティに所属している女子軍は発展途上と言えばいいのか、対してカグヤのそれは発育の賜物であり、十二分の破壊力を誇る。


「·····ほんと、ごめん」

「? 別に謝罪されることはしてないと思うが」


 こんな思考に陥っていることに申し訳なくなり、つい謝罪してしまった。


 全く、これがバレたら本当に俺のパーティにおいて立つ瀬が無くなる。

 思考を切り替えて、さも慣れているかのように振る舞えばいいんだ。


 そもそも、俺が誘ったわけじゃない。

 俺が体を洗っている時にカグヤが風呂場に入ってきたことから始まったのだ。


 その時なんか今以上に心臓はうるさいし、めっちゃ動揺しまくった。


「·····別にこんなことしなくてもいいのに」

「いや、そうはいかないでござる。これから臨時ではあるが、背中を預ける身。しっかりと洗わせてもらうでござる」

「·····そうか」


 そして背中も洗い終わり、カグヤの体も綺麗になったところで湯船に浸かる。


 ·····うん、分かってた。


「やっぱり、一緒に入るのね」

「親睦を深めるためには重要でござる」


 いや、でも一つだけ言いたいのは。


「混浴しなくても親睦は深められるぞ?」

「え?」

「一緒に遊ぶとか、協力して何かを成し得ると不思議と親睦は深まっていくさ。それをすっ飛ばしていきなり裸の付き合いってのは·····うん。俺は嬉しいけどね」

「そうでござるか。ではこれはルーロ殿以外にはしないことにするでござる」


 その言い方はッ!


「どうしたでござるか?」

「··········なんでもない」


 天然か、天然なのか!?

 コイツ、天性の才能を持っている。無自覚でここまで人の心を翻弄する。魔性の女なのか!


 そんな俺に追い討ちをかけるかのようにカグヤは近づいてくる。


「大丈夫でござるか? 顔が赤いでござるが」

「·····カグヤは恥ずかしくないのか?」

「?」

「男と二人っきりってのは恥ずかしくないのか?」


 少し考えた様子を見せるが、いたって真顔で答える。


「別によく一緒に入ってたでござるからな」

「!?」

「──父上と」


 誤解を産みそうな発言をしやがって。


「·····あの頃は楽しかったでござる。母上と父上と··········」


 俺、カグヤについていけないかもしれない。

 突然、シリアスに持っていくんだもの。俺の心の準備が出来ないよ。


「そ、そうか。·····辻斬りってどんな奴なんだ?」

「辻斬りは最凶の男でござる。妖刀に取り憑かれた馬鹿者とも言える。彼が求めるは快感。人を切りつけた時に得られる快楽でござる」

「·····強いのか?」

「強い」


 その瞳に孕ませた殺気は凄まじい。


「だからその辻斬りを倒すことは拙者のなすべきことでござる。父上と母上、それに故郷の皆の仇を絶対とるでござる」


 すると、今度はカグヤの方が俺に問うてきた。


「時にルーロ殿は何故この地へ? 辻斬りは流れで追うことになったはず」

「俺たちは精霊界を目指していてな」

「精霊でござるか」

「何か知ってるか?」


 俺の質問にカグヤは真剣そのものの顔で答えた。


「知ってるでござる」

「本当かっ!?」

「正確には精霊界に辿り着く幾つもの道のうちの一つを知っているでござる」

「教えてくれないか?」


 その情報があれば、俺たちは精霊界に辿り着ける。


「それに答える前に、一つ聞きたいでござる。何故、精霊を求めるでござるか?」

「俺には夢があるんだ。世界最強の冒険者になるっていう夢が」

 

 かつてのパレードを見た瞬間から、あそこに立ちたいと、強く願った。


 一度は破れた夢も、今度こそ掴む。


「そのために精霊に協力を仰ぎたい。最強の冒険者が辿った道を歩みたいし、俺たちが更なる高みに行くためには必要なことなんだ」


 夜空に向かって拳を突き出す俺を見て、カグヤは笑った。


 その柔らかい笑みは、先程までの残念さの一切がなく、つい見蕩れてしまった。


「それならば、拙者も応援するでござる。是非、その晴れ姿をみたいでござる」

「なら、一緒に来るか?」

「──っ! その誘いはありがたいでござるが、今は目先の問題があるゆえ」


 ·····辻斬りか。


「それに辻斬りはルーロ殿にも狙うべき相手でござるよ?」

「ん? どういう事だ?」

「辻斬りが持つ妖刀。それは空間を切り裂く程の力を持つものでござる。それを使えば精霊界に辿り着く事が出来るでござる」


 なら、一層気を引き締めて辻斬りを追わなきゃいけないな。


「よしっ、任せとけ。俺が辻斬りを倒してその妖刀を手に入れてやるっ!」

「その意気や良し。では早速、辻斬りを──あ、れ·····?」


 勢いよく立ち上がって水しぶきが舞う。


 バスタオルも一緒に剥がれて、一糸まとわぬ姿が目に映るが──


「お、おいっ!?」

「のぼせたでござる」

「··········」


 やっぱりポンコツ武士なんだなって強く思った。


 なんとかカグヤを立たせて着替えをさせるが、ちゃんと浴衣を着れることはなく、はだけた扇情的な格好になってしまった。


 それを俺が直すわけにもいかず、そのまま担ぎ急いで部屋に戻ったが、ある事実に気づく。


 頬を赤らめた浴衣のはだけた女性とそれを担ぐ男の図。それは傍から見たら実に危ない構図であり、しかし気づいた時は既に遅かった。


 バッチリと見られてしまった俺は、弁解する余地もなく殺気と罵声とジト目を同時に喰らう羽目になったのだった。

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