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今を歩くということ


 俺は今、クナイと共にある場所に向かっている。


「·····そう言えばセリカって強かったんだな」

「ん。セリカさんはお兄ちゃんよりも強くて頼れる姉貴肌」

「そっか」


 あの後、セリカと合流してみればシュウラを倒し終わったセリカの姿があった。

 イッセイが言ってた強い人がまさかの現当主じゃなかった事には驚いたが、セリカが『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』として歩んできた冒険を考えると、それも当たり前かと頷く。


 じゃあなんでイッセイにやられたのかとセリカに尋ねれば──


『あぁ、オレが気絶させられたのは完全に不意打ちをキメられたんだ。設置術の拘束でオレの機動力を封印して、後ろから一発でやられちまった』


 正面からでは勝てないと踏んだイッセイの頭脳勝ちだったらしい。


「全く、未だに忍者の力ってのは理解出来そうにない」

「ん、忍者は欺く者。他者を欺き、相手の本気を出させずして仕留める」


 なんか怖いな。最初のイッセイとの対面もアイツの言葉に乗せられたからな。そう考えると、忍者と俺ってば相性が悪いのかも。


「·····それよりも、突然呼び出してどこに行くの?」

「んー? まだ秘密かな」


 今から行くのはセリカから教えられた場所だ。戦いが終わってから、笑顔は見せるようになったクナイだが、未だにぎこちない。

 その理由は明白で、だからこそ誰もが触れないようにしていたが、このままではいけないとセリカが俺に頼んだのだ。


 レーデとサクヤには悪いが、留守番してもらっている。なんでも、セリカ曰く二人だけで行くからこそ意味があるらしい。


「·····ここだな」

「ここって·····」


 クナイには思い出深いだろう。


 だってここは旧望月家なのだから。


「なんでここに?」

「まぁ待てよ。こっから秘密の道を使うんだ」


 もちろんの事ながら、旧望月家もカラクリ屋敷だ。


 中に入るとセリカの戦いの後がそのままになっている。結婚式の飾りもボロボロだがそのままだ。


「この奥に·····あったっ!」


 ボタンがあり、押すと扉が開く。


「ここを潜って、隠し階段を降りる」


 そしてその先に広がっていたのは──


「·····お母さん」


 クナイがそう思わず呟いてしまうほどに、ここには彼女にとって思い出の品が保存されていた。


「クナイの母親が死ぬ直前にセリカに託してたこの部屋を、俺に教えてくれたんだ」


 クナイの母親はクナイが幼い頃に病気で亡くなったらしい。それがクナイをさらに孤独に貶めるきっかけとなっていたが、優しい母親はそんなクナイにこの場所を遺した。


「本当はもっと早くに見せるべきだったってセリカが嘆いていたよ」


 セリカが冒険者となって龍殺しを果たした。大きくなったクナイにこの場所を見せようと帰省してみれば、イッセイの討伐部隊に編成され遂にはクナイを更に孤独にさせてしまった。


「お母さんと遊んだおもちゃがいっぱい·····」


 懐かしむように彼女は一品一品、優しく触れていく。


 ある程度見終わったクナイは、座って待っていた俺の隣に腰掛ける。


「·····ごめん。私を元気づける為にここに連れてきたんでしょ」

「まぁそれもあるが、この場所を純粋に教えたかったってのも理由の一つだよ」

「·····そっか」


 俺はもう一つ。ある仕掛けを可動させた。


「これはクナイの母親が遺してくれたもう一つのものだ」


 俺が座っていた場所。それはある動画を見るための席になっている。

 

「·····言いにくいんだが、俺の膝の上に座ってくれないか?」

「えっ!?」

「その、セリカが言うにはこれを見るにはクナイが誰かと一緒に見ることが最終条件らしくて·····」


 そこまで説明すると、クナイは訝しげに俺を見ながら、俺の上に腰掛けた。


 しっかりと座った事を確認したカラクリは、ある映像を流すために可動する。


『やっほぉ、クナイ見えてる?』

「·····お母さん?」


 映像に写ったのはクナイに似た美しい女性だった。そんな彼女は咳をしながらも、笑顔で手を振っていた。


『クナイがこれを見ているって事はセリカちゃんが認めた男の人と一緒に見ているって事だよね?』

「「!?」」


 それは俺も初耳だ。

 クソっ、セリカの笑顔が目に浮かぶぜ。


『イッセイくんかな? まぁ、ここからの私からじゃあ見えないんだけどね』


 すみません。イッセイじゃなくて、全然別の人です。


『私はもう病気で先が長くない。だからセリカちゃんに私の代わりにクナイを見守ってやってってお願いしたんだ。しっかりと果たされていることを祈って、私は話すよ』


 セリカが俺に協力してくれた訳はこれか。


『貴方の名前である苦無。私たちが使う武器の苦無と連想してしまうかもしれないけど、しっかりと由来があるの。苦しみ無く、健やかに育つようにってね』

「·····知らなかった」

『初耳って顔をしてるだろうね。あと、もう一つ。苦無は相手を射抜く武器。クナイは是非とも苦無のように好きな男の子のハートを射抜いて欲しいって意味もあるわよ?』


 クナイの母親は笑って言う。そんな母親にクナイは少し照れながら、それでも久しぶりに見る母親を目に焼き付けていた。


『さて、そんなクナイの近くに立つそこの男の子っ! 君が誰なのかは分からないけど、一つだけ言っとくよ──』


『絶対、クナイを幸せにしてね』


 クナイの母親は少し目を伏せる。


『クナイには私の思いとは裏腹に、数々の苦しいことや悲しい事が起こるかもしれない。だけど、それを全部無かったことにするぐらいの幸せをあげてほしいの。だから、ね』


 すると、今までよりも何倍も華やかな笑みを浮かべて彼女は言った。


『君たちは死が分かつその時まで仲良くいて欲しい。喧嘩をするかもしれない。だけど、それでも仲良く最終的には笑顔を浮かべて生きて。それが母親からの、私の願いっ!』


 すると、映像が乱れ始める。


『多分これ以上は録音出来ないかな。じゃあね。クナイと未来の男の子。君たちは幸せを掴んで、楽しんで生きてねっ!』


 そして、映像は終わった。


「笑顔が絶えない優しそうな人だったな」

「·····ん、自慢の母親」


 そうかと俺は無意識に頭を優しく撫でる。


「ふえっ!?」

「アハハッ、なんだよその声」

「〜〜〜っ!」


 顔を赤くさせて、クナイは顔を背けてしまった。そんなクナイにごめんと謝りつつ、話す。


「こんな映像だなんて知らなかったけど、もう既に約束してることを再確認させられたな」

「ん?」


 どういう事? と小首を傾げるクナイに、黒歴史ではあるが、かつて約束したあの言葉を再びしっかりと目を見て言う。


「俺が、一生守ってやる」

「──っ!」


 恥ずかしい言葉ではあるが、それでもこの言葉に嘘偽りなんてない。心の底から守りたいって思うし、大切な人である。


「だから、クナイには笑っていて欲しい。別に泣き顔が悪い訳じゃない。悲しい涙も嬉しい涙も存分に流してくれ、ただ苦しみを我慢して流す涙だけやめてくれ。そうさせない為に俺が幸せにしてみせる」


 ここまで言って、自分の言葉が恥ずかしい事を理解し慌てる。


「も、もちろん嫌だったら勝手に離れてくれ。それはお前の自由だからっ!!」


 クナイは一瞬どうしようかという顔した後、笑った。


「──ッ」


 陽だまりのような暖かい笑みをした顔に見惚れてしまった。


「なら、暫くは離れないよ」

「·····そ、そうか」

「·····ん」


 すっかり元通りって言う訳でないが、イッセイの死を乗り越えてくれたら嬉しい。


 過去は足枷ともなるが、時に未来にへと羽ばたかせる原動力となる。


 今を歩くということは、これらを無意識に行う事だ。


 そんな事を考えながら、自分の手がクナイの頭の上に置いてあると今更気づいて、慌てる。


 そんな俺を見て、クナイは再び笑ったのだった。

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