side story ある少年の末路
少年はその端正な顔立ちを絶望に歪ませながら、ただただ俯いていた。
自分はかつて黄金の道を歩んでいたはずだった。だが、その歯車はたった一つの出来事を境にして狂い始める。
「·····アイツがこんな事をしなければ、今すぐにでもッ」
少年が絶望する理由はただ一つ。魔法が使えないという点。
この契約が自分を縛り続け、苦しませる原因だ。
「僕は悪くない。僕は、僕はッ」
「──こうなる人物じゃないと?」
「ッ、誰だっ!?」
少年が辺りを見渡せば、そこには男が立っていた。長身でスラッとした細身の男。その口元には気味の悪い笑みが浮かんでいた。
「僕? 僕はライナ。君に力を与える者だ」
「力·····?」
「そう、君は素晴らしいよ。自分の行いから目を背け、徐々に心を壊していくその姿。魔王因子を受け取るのに充分な資格を持っている」
「魔王、因子·····」
少年は未知なる単語に可能性を見出した。それは、元凶を作ったアイツを殺せる可能性。
「何でもする。それを僕にくれないかっ!」
「いいね。力に対する貪欲性。君の持つ負の力──特定の誰かに対する恐怖は魔王因子と共鳴する」
ライナは手を差し出した。
すると手のひらには禍々しい黒の塊が出現する。
「これが魔王因子。君の恐怖と同調し、君を最強の存在にへと昇華させる。僕が君に与えるのは強さという名のきっかけだ。これを自分の物に出来るかどうかは君の心次第さ」
少年は迷う。
今、自分が手を出そうとしているのは明らかに禍々しい力。実際、目にするとその禍々しさは想像を超える。
「受け取るよ。絶対、ものにしてみせる」
「アハッ、契約完了だ。ほら、受け取りたまえ」
少年は受け取ると、その黒い塊を飲み込んだ。
「ウグッ、アガァァァアアッ」
瞬間、とてつもない力が全身を蝕んでいくのが実感出来る。
「いいねぇ、早速共鳴が始まっている」
髪をあらあらしくかく、心の底からむしゃくしゃする。苛立ちは湧くし、誰かを殺したくなるほどに心が破滅していく。
「ァァアアアッ!!!!」
髪を乱暴にかく度に色素が抜けていく。
体は徐々に変化し、少年の体格から大人の体格にへと変貌をする。
「アルカくんに近づいていくね。でも、まだ少年の心が残っているようだ」
ライナは目の前で変貌する少年を冷静に分析する。
そんなライナの目の前で少年は苦しむ。
途方もない激痛。それが終わりを見せようとする時、少年はある大きい変化を迎えた。
「アハ、アハハハッ」
突然笑い出す。その情緒不安定な少年の様子にライナはニヤリとほくそ笑む。
「成功だ。君は《破滅》を継承するのに相応しい器だった」
「は、めつ·····」
笑うのを止め、少年──いや、少年だったものは復唱するかのように呟く。
「そうだ。君は僕の仲間が死に物狂いで作った器に成れた素晴らしい才能を持った男だよ」
「すばらしい、さいのう·····」
少年だった者の心は既に破滅した。
今の彼に残されているのはある男への猛烈な殺意のみ。それ以外の少年の要素は全て破滅している。
「まだ完全にアルカくんにはなってないが、それも時間の問題か。彼の目的が達成されれば、必然とアルカくんに変貌する」
「あるか·····」
「君の名前はなんだい?」
「·····ギル、だったきがする」
「なら、アルカと名乗るがいい。君のこれからの名前だ」
「·····アルカ」
ライナはアルカの姿を見て、少し考える。
「·····うん。まだ少し調整が必要かな。アルカくんの力が戻ってないから自我も安定しないし、アルカくんの記憶もない。やはり、目標はあの師弟だな」
長考の末、決める。
「うん。まずは君を魔王因子で出来るだけ調整する。そしたら、君の心の赴くままに行動するがいいさ。奇しくも、君の狙う相手と僕が狙う相手は同じだからね」
ライナはアルカの体に触れると、拠点にへと戻るために魔王因子術式を展開させる。
「時は近い。魔物たちの祭が始まるよ」
そして二人の姿は消えた。
後日、新聞紙の見出しにはある記事が大々的にスクープされた。
それは──『元勇者候補、ギル脱獄』であった。
宜しければ下の✩✩✩✩✩から評価を。
ブクマ登録をして下さると嬉しいです。




