VSイッセイ 後編
今回の話は残酷な描写を含みます。
体感で数時間。だが、実際は十分も経っていないだろう。それほどまでに濃厚な時間を過ごしている。
「ほら、行くよっ!」
イッセイの拳が俺の頬を掠める。その腕を掴み、俺は引っ張る。
体勢が崩れたイッセイは前のめりになり、好機と見て殴る。
「フフっ、アハハッ! いいねぇ。ここまでだと思ってもいなかったよ」
「俺もだ。さすがはトップクラスの実力だな」
「そうでもないさ。少なくとも僕よりも強い人ならあそこで戦ってる人とかね」
シュウラの事だろうか。
まぁ、それは置いといて、どうやって倒そうか思考を巡らせる。
イッセイは巧みに設置術を使ってくる。
下手に動けば設置術の罠に、逆に萎縮し過ぎればイッセイの思うつぼ。
「·····全く、めんどくさい相手だ」
「それは褒め言葉として受け取っておくよ。まぁ君の身体能力強化も厄介だけどね」
イッセイを見るとジリジリと近づいている。
仕掛けてくるか。
「移動術──<縮地>」
<領域>で身体能力を強化して、<縮地>で素早く移動。最早、目で追い切れない域まで達している。
だがあいにくと対人戦闘は慣れていてね。
「そこだろッ!」
「──ッ! よくわかったね」
真後ろに拳を放ち、重心をずらして回し蹴り。イッセイは防ぐことも出来ずに、喰らった。
「師匠との教えだ。相手が自分の視界から消えた時、死角からの攻撃がくるってね」
「なら、その師匠は本当に強いらしい。そこまで戦闘慣れしているのなら、僕も一度は手合わせ願いたいよ」
「残念ながら師匠はどっかに行っちまってな。俺で我慢してくれや」
「なら、仕方ないね──<地爆>」
クソっ、ここにも仕掛けてあるのかよ。
「忍術──<火遁>ッ!」
「マジかよっ!」
先程の拘束を恐れ、動きが鈍ってる俺に<火遁>で範囲攻撃。
「ほら、僕は設置術だけじゃないんだよっ!」
「厄介過ぎるだろッ!」
火遁を避けた先に既に攻撃態勢が整ったイッセイが。
それを魔力を放出し、避けて──
「<銀滅の拳>」
「グッ!」
よしっ、顔面にクリーンヒット。
「流れは掴ませてもらうぜ──<連撃>」
「回避術──<空蝉>」
セリカが使ってた回避術かっ!
なかなか厄介だ。なら、視界を潰させてもらう。
「もういっちょっ!」
地面に向かって<銀滅の拳>。弾けた地面が四散し、イッセイを襲う。
加えて砂埃が舞って、視界を閉ざす。
「視界を防いでも、それは君も変わらない」
「そうは限らないかもよ」
魔力消費が激しくてずっと使えなかった広範囲の魔力放出。
数秒の溜めが必要な為、使い勝手が難しいがこういう時なら持ってこいの技。
「ぶっ飛びやがれ──<銀滅の魔砲>」
集束し集まった銀色の光が、砲が如く放たれる広範囲の殲滅技。
師匠が言うには昔、ドラ○ンボールを見てた時にやりたかった技らしい。
男なら誰しも一度は「かめ○め波ッ!」と両手を突き出したもんだと語っていた。
「どうだ? 俺の勝ちだろ」
「アハッ、確かにこれじゃあまともに動けないや」
魔力の塊をもろに受けたんだ。当たり前である。
逆にこれで動けたら、人間じゃないとビビるレベルまでだ。
「約束だ。クナイは返してもらうぞ」
「··········最初からそのつもりだよ」
クナイには聞こえない、小さな呟き声でイッセイは言った。
「どういうことだ」
「君だって知ってるだろ? 僕は死んでる人間なんだ」
「あれは──」
「暴発したんだろ? 『魔王因子』を使って望月家がクナイちゃんを利用した」
「·····知ってたのか?」
「知らされたんだよ」
イッセイは体が動かせないからか、顔だけを俺に向けて語り出す。
「聞いてくれ、時間が無い。望月家は『魔王の意思』と繋がっている」
「──ッ!」
「今回、クナイちゃんを引き戻したのは婚約が表向きだが、真実は違う」
俺の手に自分の手を重ねて、強く訴える。
「クナイちゃんの魔属性ということを狙って『魔王の意思』が望月家に呼び寄せたんだ」
「なんだと?」
「僕が生き返った理由はクナイちゃんを望月家に呼ぶための口実にする為。早くしないとクナイちゃんが──」
瞬間、白い閃光がビームとなってイッセイを貫く。
「君なら、クナイちゃんを託せる。·····頼んだよ?」
「──ッ! イッセイッ!」
イッセイが死んだからか術式が解けて、クナイが檻から解放された。
「お兄ちゃんっ!?」
慌てた様子のクナイにイッセイを託して、俺は辺りを見渡した。
すると、遠くに宙を浮かぶ人の姿が──
「てめぇがッ!」
「アハッ、僕の言う通りに逃げてれば良かったのに」
内包する魔力量。人間のそれを遥かに超えている。
「魔王の器を成らせてから殺しにいくのが狂っちゃった。でも、いいものを見たな。あの力は魔力操作の極致で得られるもの。アレが継承者か」
クソっ何言ってんのか聞き取れねぇ。
「《逃避》らしく、ここは逃げるのが正解だな」
「待てっ!」
クソっ、魔法で逃げやがったか。
アイツを追うのは諦めて俺はイッセイの元へ戻る。
「·····クナイ」
「るー、ろ·····死んじゃった」
俺との会話が最期か。
心臓がやられたんだ、それも当たり前か。
「お兄ちゃん·····」
気の利いた奴だったら、この場でなんて声をかけられるのだろうか。
少なくとも俺は、大切な人を目の前で殺されて傷心している彼女に声なんてかけられない。
今思えば、わざと挑発したりクナイを必要以上に口にしたり、恐怖で貶めていたイッセイのあれは俺を試していたのかもしれない。
わざと挑発し、クナイに見合う男かどうかをイッセイ自身が判断していたのだろう。
全ては机上の空論だが、それでもそう思えてしまう程に最期の彼は慈愛に満ちていた。
「なぁクナイ」
「·····ん?」
目元を腫らして、クナイは振り返る。
「弔おうか」
「ん」
人の死を間近に感じた。
今まで知りえなかった謎の感覚が胸を支配する。
俺とクナイは気持ちをすっきりしないままその場を後にしたのだった。
イッセイの死で気分を害してしまったらすみません。
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