サヨナラは突然に訪れる
レーデとサクヤは一ヶ月間の修行を終えた。レーデは基礎体力と武術、そして戦術を。サクヤは魔力量の増加、新たな魔法の取得、サポートの極意などを学び、それが見事に実を結びはれて冒険者となった。
気分はいいし。久しぶりに帰るパーティホームに少しばかり緊張もしている。
「ルーロ様、元気でしょうか?」
「あんなバカ、ずっと元気よ」
そんな会話をしつつ、パーティホームの玄関を開ける。そして目を疑った。
「··········真っ暗?」
「ルーロ様居ないのでしょうか?」
「いや、鍵が開いてんだからいると思うわ」
パーティホームの異常に気づき、急いで家全体を回る。そうすれば、自身の部屋でうずくまるルーロの姿が。
「ルーロ様·····」
「ん? あぁ、サクヤか。レーデもおかえり」
そんな彼の姿は少しやつれていて、不健康そうであった。それはいつかのレーデのようで、かつての自分を見ているレーデは心配そうに尋ねる。
「アンタ、大丈夫なの?」
「あぁ、少しな」
どう見ても〝少し〟ではないルーロにレーデは不安そうに近づく。
「その手紙って·····」
ルーロの手にある手紙にレーデが気づいたのと、サクヤがある事に気づいたのは同時だった。
「そう言えばクナイがいませんね」
「本当だ。ねぇ、ルーロ、クナイは──」
「パーティから抜けるってよ」
ルーロの口から信じられない言葉を聞き、二人は絶句する。
ようやく言葉を取り戻し、レーデは詰め寄った。
「ちょ、それってっ!」
「アイツは家に帰るんだとよ」
ルーロが投げやりに捨てた手紙を見て、レーデとサクヤは再度言葉を失った。
『パーティから抜けて家に帰ります。 クナイ』
短くだが、確かな拒絶が書かれていたその手紙はそれぐらいの衝撃があった。
「どうして·····」
「どうもこうもないよ。数日前にその置き手紙があって居なくなってたんだ」
ネルが家に帰ってから、数日。ルーロとクナイには少し距離があった。
そして極めつけの手紙はルーロに確実なダメージを与えた。
「··········ルーロはどうするの?」
「どうするもこうするも、クナイが自分の意思で抜けたんだ。俺からはどうも·····」
「嘘ね。アンタは目の前の現実から目を背けているのよ」
レーデは手紙を見る。しわくちゃになったボロボロの紙だ。ルーロが握りしめていたからだろう。
「背けている·····ね。確かにそうだよ。だって前まではずっと一緒にいたんだ。急に居なくなってはいそうですかって言えるかよ」
だから、ルーロは現実を再確認した。
「クナイは自分の意思で出ていったんだ。誰かによって都合のいい物語上での意思じゃない。アイツ自身の」
誰かによって書かれた都合のいい物語。クナイが帰ってきて、また楽しい毎日が戻る。そんな話だろうか。
だが、現実は違う。自分が決めて、実行したものなのなら、それを第三者が否定することはお門違いってもんだ。
サクヤの時とは違う。彼女は選択をせざるを得なかったから、涙を流し、そして犠牲という運命を選んだ。だから、ルーロは助けたのだ。
「だからもう引き戻すも何もないだろ?」
クナイは去った。理由がなんであれ、パーティから抜けますと書いてあったんだ。それが彼女の拒絶なら受け止めるしかないだろう。
そういう意味ならルーロは誰よりも現実を見ていて、決して目を背けてはいない。
「·····ずっと思ってたけどルーロって馬鹿よね」
「なんだと?」
「サクヤの時とは場合が違うかもしれないけど、本心でパーティを抜けるって本当に思ってるの?」
「理由がなんであれ拒絶されてんだ。それ以上も以下もないだろ?」
ついに頭に血が上ったレーデは怒鳴ろうと、前へ進むがそれをサクヤが引き止める。
「確かにその通りですね。ルーロ様は現実とやらを見ているようです。〝都合のいい現実〟を」
その言葉に今まで冷静を貫いていたルーロがピクっと震えた。
「貴方がよく口にする〝現実〟。それがどう言ったものなのかは知りません。ですが、私が思うに貴方は理解していませんね。現実を」
諭すようにサクヤは一歩、また一歩と近づいていく。
「貴方にとって都合のいい物語ってなんしょう?」
「··········誰かが作ったその人が思い描いた物語」
そう。それがアニメやラノベの世界だろう。そんな解答にサクヤは頷いて、ルーロの目を見て言い放った。
「それとルーロ様の考えは何処が違うのです?」
「──っ!」
「ルーロ様が勝手に思い、考えた感情をクナイに押し付け、それが現実だと思い込み、諦めた貴方はどの現実を見ているのでしょう?」
ルーロが思っているクナイは何かしらの事情で家に帰る羽目になった。だから、パーティに居られない。それは自分の意思だと。
「クナイの意思を貴方が決めないでください。例え、何かしらの事情があってパーティを抜ける羽目になったとしても、クナイの意思は、クナイの心は貴方には到底理解出来ません」
「じゃあどう考えればいいんだよっ!」
ルーロは声を荒らげる。そんなルーロにニッコリと笑ってサクヤは言った。
「そんなの私が知りっこないです」
「は?」
「現実は〝心〟と〝意思〟が複雑に混ざりあった未知なるものです。現実を見ようとしてもどうしても上辺しか見れない。奥底にある人間同士の複雑な心情は決して知りえられないのです」
サクヤは、ルーロの頭を優しく触れ、そして撫でた。
「だから〝自分の意思〟を大切にするんですよ」
小柄だが、包容力のあるサクヤに思わず破顔する。
「他人の心は確かにわかりっこないですが、自分の意思は、心は分かる。ルーロ様はどうしたいのです?」
「··········クナイに会いたい」
そう呟いていた。
「他人の心を知りたいのなら、自分の意思で聞きに行くのです。現実は都合のいいものでは決してありませんが、ほんの少しだけ自分の思い通りに行く時があります。それは、自分の意思でやりきった時です」
ルーロの頬を両手で挟んで、しっかりと目を見ながらサクヤは笑って言った。
「貴方は今そのスタートラインにいます。さぁ、どうしましょう? いなくなったクナイを貴方の決めつけで追わないのか、それともクナイの心を知りに行くため、自分の意思で会いに行くか」
突然いなくなったクナイに動揺していたのかもしれない。だから、らしくなかったのだろう。ほんの少し考えれば分かるのだ。
クナイにとってルーロたちと知り合ってから今までの全てが嫌になった訳じゃないことを。
「──行くさ。アイツ自身の言葉で聞かなくちゃならない」
紙越しじゃない。面と向かってしっかりと確認したい。
「ならば早速実行に移しましょうか」
「そうね。帰ってきてクナイが居ないなんて嫌だから」
ルーロはふぅーと息を吐いて、頬を叩く。
「よしっ、じゃあ行くか」
サヨナラは突然に訪れるが、また出逢えばいい話である。ルーロは決意新たなに、パーティホームから出発したのだった。
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