クナイの家系
サクヤに諭され、俺は自分の意思の赴くままに実行に移した。
クナイの家庭、それがどういうものなのか分からない。さしあたって、国立大図書館に訪れた。
「急に大図書館に行きたいだなんて、どうしたの?」
勿論の事ながら、場所は知らなかったのでエルサに頼んで連れてきてもらった訳だ。
「少し、クナイの家について知りたかったので」
「·····そう」
エルサの顔が曇るが、それも一瞬。直ぐにいつもの表情に戻ったエルサは俺を急かす。
「さぁ、行きましょうか」
「うす」
国立大図書館と言えば、禁断エリア。つまり、国家機密をも管理する王国屈指の大図書館である。『王国の罪』に関する書物もここにある。
「そういえば、他の二人はどうしたのかしら?」
「レーデはサクヤの付き添いで王城に。ハーランにクナイの家を聞きに行きましたよ」
「へぇ、そうなの。ということはクナイは──」
「家に帰った。だから、少し気になったんす。どうしてこのタイミングで帰省するのかを」
家に帰るタイミングなんていつでもいいはずだ。それに家に帰るだけでパーティを抜けるだなんて大袈裟すぎる。本当に冷静に考えれば、クナイ脱退は不可思議な点が多い。
だから、ここでハッキリしなくちゃならない。クナイの事を知らなければならないのだ。
「俺は知らないことが多すぎる。最強の冒険者を目指すんだ。技術だけじゃなくて知識も身に付けなければって思ったんすよ」
早速、大図書館を回ってみる。だが、あまりに膨大な知識が展覧されているため、闇雲に探しても見つからない。だから、あるキーワードを目印に探し出す。
かつて、俺に教えてくれたクナイの唯一の手がかり。
「──忍者ってのを知る」
「っ! クナイから聞いたの?」
「はい。私は忍者だって、前に聞いたんすよ。だから、その手がかりを使ってクナイの家を調べ当てる」
俺は辺りを見渡し、職業の欄がある本棚を探す。忍者は多分だが、職業だ。だから、職業の所を念入りに探せば──
「あった」
『あらゆる影の仕事を請け負う者』と言う本に忍者に関する記述があった。
忍者·····古来より、東の地にて隠れ里を持った影の一族から連なる巨大な組織。
繁栄の後、帝国の軍に敗れ、その腕を見込まれ、傘下に加わる。現在は帝国を拠点としてあらゆる仕事を請け負う仕事人。
「·····クナイはここの家に生まれたのか」
道理であの殺気。普通に暮らしていては到底身につけることの出来ない強烈なプレッシャー。忍者の一族であるのなら、頷ける。
それにしても。
「まさか、帝国の名前がここで出るなんてな」
この世界にはあらゆる種族が生息している。それは魔物もそうだが、獣人や精霊も存在している。かつては混合で生活していたそうだが、今では争いを避けるため、それぞれの大陸に拠点を構えている。
そして人間の大陸。その領土に二つの巨大な国が存在し、それが『ラーマ王国』と『サラジアン帝国』。つまりは王国と帝国である。
そして帝国は屈指の実力至上主義。つまりは実力があれば皇帝になることも、官僚になることも出来るということだ。そんな帝国に腕を見込まれたというのは、かなりでは無い結構な実力派集団ということである。
「そんな所に帰ったのか·····」
万が一サクヤの時みたいに奪い去るという事になった場合。万一にも勝ち目はない。
「あら? 忍者を知って怖気付いたのかしら?」
「そんな訳ないっすよ」
勝ち目なんて無くても、怖気付くことは無い。真正面から向かって、クナイに聞くだけだ。彼女の意思を。
「ふふっ」
「どうしたんすか?」
「いや、ね。ただ貴方の目がエリドみたいでさすがは師弟関係なだけあるなと思っただけよ」
そんなに似ているだろうか? いまいち実感がないが。
「師匠に近づけているのなら、嬉しい限りっすね」
「·····良いわね。さすがはエリドが見込んだだけあるわ。私の心配も杞憂だったようね」
急にどうしたのだろうか。
「ルーロ、望月家を訪ねなさい」
「もちづき·····?」
知らない単語だ。すると、エルサは『あらゆる影の仕事を請け負う者』を手に取り、あるページを開いた。
「忍者の家系で一番の権力を持つ家よ。知るものぞ知る最強の忍者の家系。それが望月家」
そして見せてきたページには望月家のことが書かれていた。
望月家·····帝国に腕を見込まれた一族。その腕前から『執行者』という二つ名を皇帝より授かった者たち。
これしか記載されていないということは、王国ではこれ以上の情報がないということだ。
「前回、王城に訪れた際に私とクリクソンは国王様と会談をしたの。その時にも望月家の名が出た」
「·····え?」
·····ということは。
「多分、貴方の考えている通り。あの一件の『魔王の意思』なる者たち。国王様が言うにはその二人組、使用された魔法陣の痕跡から望月家の者であることが分かったの」
魔法陣の、痕跡。
「その魔法陣の痕跡ってどんなのなんですか?」
「魔法陣ってのはそもそも魔法を展開する上で必要な項目。属性の本質を核として展開される陣の事を言うの。そして魔法を使うと僅かに魔力が残留する。それを王国の検査員たちが鑑定した所、忍術が混ざっていた」
忍術。確か、前にクナイと対戦した時に使ってた魔力を使うけど、魔法じゃない変な術か。
思えばあの時、クナイは魔法陣を展開しないで、口から直接、炎を吹き出してたな。
「彼らは自身が忍者であることを偽る。何故ならば出生がバレるからよ。だから、忍術というのは本来使われるのことない術。だけど、唯一使われた魔法に忍術と魔法を融合させた陣の痕跡があった」
ナラミが最後、アクツをやられた敵討ちとして本気で相手をすると言った。
彼にとって『闇纏・体』は文字通りの本気。全ての技と術を持って生み出した最強の魔法を使ったのだろう。
「そして忍者であることが分かったナラミの事を調べていき、突き当たった先が〝望月家〟という事っすか?」
「そうよ」
そんな望月家に生まれたクナイ。そしてそこに帰って行った。
「·····うん。よしっ、帝国に行くか」
「話を聞いて、尚、行くのね」
「うす。·····というか、行かせるためにわざわざ教えてくれたんすよね?」
「·····そうね。クナイの生い立ちはある程度知ってるわ。私たちのパーティ『龍殺し』にも一人、忍者が居るのよ」
「そうなんすかっ!?」
知らなかった。俺としたことが、把握してないなんて。
「えぇ。でも、クナイの生い立ちは教えないわよ。しっかりと、貴方自身の目で見てきなさい。そして現実と向き合うのよ」
「うすっ!」
情報は揃った。後は、帝国に行くだけだ。
──待ってろよ、クナイ。
俺は遠く向こうにいるであろう、クナイにそう呼びかけた。
✻ ✻ ✻
「··········ルーロ」
もう遠く離れてしまった思いを寄せる男に、そう呟くクナイ。
格子のついた脱出不可能な自身の部屋で、帝国の城を眺める。燦々と輝く太陽は城によって隠され、部屋に差し込むのは影。
暗い部屋の中で、クナイは振袖を身にまとっていた。
そんな暗い部屋の扉が開き、男が入る。
「そろそろ腹を決めてよ、クナイちゃん。僕の可愛い、可愛い、婚約者様?」
不気味に笑う男に、クナイは暗い顔でただただ俯くことしか出来ないのであった。
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