兄妹、水入らずの会話
「じゃあ、ボク帰るね」
あれから数時間後、ようやく我が妹は帰るようだ。
「おう。途中まで送るわ」
「うん」
急に居なくなった俺を心配していたのかと思ったが、どうやら俺の家族は心配なんぞしてなかったらしい(ネル情報)。
今回、王都に居たのも本当にたまたまで、足りないものを買い出しに来てた時に、俺と遭遇したらしい。
「(むすぅ)」
クナイは散々からかわれたからか、頬を膨らまし怒っていた。それでもバイバイと手を振る姿は、妙に律儀でクスリと笑えてくる。
「じゃあ、俺はネルを送ってくる」
「ん、待ってる」
王都の門までネルを送るため、俺はネルと共にパーティホームを出発した。
「·····にしても、あんな可愛い女の子と暮らしているなんて、お兄ったら幸せもんだね」
「それはそうなんだけどなぁ。あっちからしてみたら嫌な話だろ?」
兄妹水入らずの会話は久々で楽しい。
「全く、そんなに自己評価低いのって結構やばいよ?」
「でも、師匠が自分の心を守る為には常日頃から、最悪の場合や自己評価を低く保つことが必要だって言われたからな」
師匠もそれで歴戦を潜り抜けてきたらしい。
「そういえばレーデ姉は?」
「アイツは強くなるために修行中だよ」
「えっ? レーデ姉も王都にいるの?」
「あぁ、なんなら一緒に住んでるぞ?」
「はぁああっ!?」
妹よ。そんな反応しなくてもいいじゃないか。いや、これが正常なのか?
「そりゃあ、年頃の男女が一つ屋根の下ってのは信用されにくいが、俺は鋼の精神を持っているからな。欲望に流されたりは──」
「お兄ってばヘタレだからね」
「それは聞き捨てならねぇっ!」
俺がヘタレだと? それは違う。女の子が近くにいるとドキドキして何も出来ないだけだ。
「お兄って顔に出やすいね」
「え?」
「今、ヘタレの言い訳を心の中でしてた」
「それはもう顔に出やすいとかではなくない?」
などという他愛もない会話をしていたら、もう王都の門の前まで来ていた。
「じゃあ、クナイちゃんと仲良くね」
「あぁ、俺はしているつもりだ」
「··········もう少し、クナイちゃんの事をちゃんと見てよ?」
それはどういう·····? 俺はしっかりとクナイを見ているつもりだ。俺と目を合わせることが出来なくて、いつも顔を背けている。可愛い以外何物でもないそんなクナイを。
「お兄ってクナイちゃんのこと、好き?」
「はぁ!?」
「いや、結構真面目に·····」
そう言うネルの目はいつもと違っていて、真剣な眼だった。だから俺も、真面目に考える。
クナイは俺のメインヒロインだ。俺の生涯をかけてもいいと思っている。それぐらい守りたい程に大切で·····。
「なぁ、大切に思う気持ちって好きなのか?」
「それは人それぞれだと思うけど、お兄がそんな調子じゃあ、クナイちゃんも可哀想だよね」
その言い回しだと·····。
「お前、どういう──」
「こっから先は絶対言わない。お兄が自分の心に気づいて、クナイちゃんと向き合った時に初めて分かるものだから」
なんて言うか、随分大人になったな。ネルは一年前の記憶だともう少し幼いイメージがあるんだが、やはり一年という歳月は長いらしい。
「ネル」
「·····なに? ──ひゃっ!?」
ネルの頭を撫でる。大人に近づいた妹を褒めてやりたかった。
「な、何を──!?」
「勝手に家を出て悪かったな」
「··········」
割とどうでもいい存在らしいが、俺の気が済まないのでしっかりと謝っておく。
「事情は知ってるか?」
「·····いや、でも、大体は分かるよ。お兄が勝手にどっか行く時は本当に悲しい時があったからだと思うから」
さすがは俺の妹かな? しっかりと分かっているようだ。
「でも、今日、お兄の顔を見て安心したよ。だって、吹っ切れたんでしょ?」
「あぁ、スッキリしてな。今では最強の冒険者目指して頑張ってるよ」
··········どうやら、根っこの部分は変わっていないらしい。
「ほれ」
「··········ん」
近づいてくるネルをしっかりと抱きしめる。俺がここにいると分からせるために。
「心配したよ」
「ははっ、言ってることが違うな」
「そんな事はどうでもいいの」
「·····そうか」
「うん」
いつまでそうしていたか。月夜に照らされて、俺はネルの腰から手を離す。
「母さんたちにもよろしくな」
「うん」
そう言って去っていく俺の妹は強がりで悪戯好きで、厄介な存在だが、芯だけはしっかりとしている。
近いうちに故郷に帰るのも手かもしれない。サクヤが冒険者になったら、皆で帰るか。
この時の俺は、パーティ全員が決して欠けることがないと信じていた。それがまさか、あんなことになるなんて思いもしなかったのだった。
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